上 下
11 / 27

11

しおりを挟む
「すまないアリア」

 馬から降りたサファイはアリアの側に駆け寄る。
 家臣達にデートに誘えと言われたサファイア。
 早速仕事を片付けて来てみたのだ。
 それが何故か門前には城の馬車が居るし、玄関先では何か揉めている。 
 アリアは困っているのが見えた。
 しかも、ちょっと話し声が聞こえてしまった。
 向こうの継母は自分の娘さんを推して来ていて、アリアは言葉に詰っていた様子でいた。
 サファイアはハラハラした。
 アリアに頷かれたら立ち直れないが、黙って困った顔をしていると言うのも殆ど肯定している様な気がする。
 アリアは姉か母が王子と結婚してくれたら嬉しいんだもんな。
 でも、無理だ。
 全くもって好意を持てないと思う。

「殿下、我々はアリア様を城にお連れしようかと……」
「彼女が来たがって居ないのに余計は事はするな。しかも私の許可も取らず、どういうつもりだ」
「住めば都と言いますし、アリア様も城で生活をしてみたら良いかと思いまして」
「だから、そういう事は私か父上に許可を取ってだな……」
「国王陛下の許可は勿論取りましたよ」
「父上め!」

 勝手な事をしたのは父上の様だ。 
 サファイアはプンプンである。
 父上は僕を応援しているのか、それとも邪魔をしたいのか、どっちなんだ!

「えっと、近衛兵さん達を叱らないであげて」
「君がそう言うなら……」

 叱られる近衛兵が可哀想になり、止めに入るアリア。
 アリアが許すと言うなら、サファイアもこれ以上は叱らない。
 そもそも悪いのは父上の様だ。

「サファイア王子、初にお目にかかります。アリアの母です」

 継母はサファイアに挨拶をする。

「これはこれは侯爵夫人、令嬢にはお世話になっております。サファイアです。家臣がお騒がせした様で申し訳ありません」
「よろしいんですのよ。さぁ、ビアンカ」

 継母は自分の娘に挨拶をする様に言う。

「御機嫌ようサファイア王子。アリアの姉のビアンカです」
「御機嫌ようビアンカ嬢」

 頭を下げられたので、頭を下げる。
 だが、目上の自分に初対面で向こうから先にを声をかけるのは無礼である。
 挨拶の仕方も礼儀知らずも良いところだ。
 いっそ清々しいぐらいに良いところが全く見えない親子だった。
 
「アリア、これから僕とお茶でもどうかな。話したい事も有るし……」

 変な空気感だと思いつつも、サファイアは次の行動に困り、目的を果たすことにした。
 だが、多分、タイミングを間違えている。

「私も話したい事が有りますサファイア殿下」
「敬語なんて止めておくれ、今まで通りサブで良いよ」
「色々考えたのですが、私、殿下とお付き合い出来ません」
「え? そんな…… もう少しゆっくり考えてみてくれないかな?」
「いくら考えた所で私の気持ちは変わりません」
「アリア……」
「陛下にもそうお伝え下さい」

 アリアはサファイアにハッキリ伝える。
 サファイアは涙目だ。
 アリアは気持ちが揺らぎそうなので早く室内に入ってしまいたいと思ったが、生憎と入口が継母や姉、そして近衛兵達で埋まってしまっている。

 いたたまれないわ。
 サブもそんな顔をしないで、可哀想になってきちゃう。

「アリア、もう中にお入りなさい。王子、代わりにビアンカとお茶を楽しんでみては?」

 継母が道を開けてくれたので、室内に入れそうだ。
 アリアは空かさず足を進める。

 サファイアはアリアを引き止めたかったが、とても手が出せなかった。
 引き止めても、何と言えば良いのか解らない。
 見かねた近衛兵がアリアの前に出て止める。

「アリア様、殿下にあのような顔をさせて心が傷まないのですか!? 我々は痛みました! 我々の殿下が泣きそうな顔をしています!」

 近衛兵の止め方に、サファイアは恥ずかしくなった。
 泣きそうだとか言わないで欲しい。
 なんとか耐えたのに……

「私だって勝手な事をされては困ります。私は私の為にしか生きられません。私の考えを曲げてまで、王子と結婚する気は有りません!」

 アリアはキッ、近衛兵を睨む。
 
「反逆罪に問われますよ!」
「力づくで結婚させようと言うの!?」

 近衛兵とアリアは口論になってしまう。
 確かに、国王陛下と唯一の王子殿下に背くと言うことは反逆罪である。
 でも

 私の気持ちはどうなるの!?

 そんな拘束的な考えに縛られたくは無かった。

「止めろお前達、アリアの前を塞ぐな」

 近衛兵を止めるサファイア。
 前を開ける様に指示する。

「しかし、殿下!」
「我々の国では結婚の強要はしない。王とて同じ事だ。反逆罪に問うとしたらお前を処さなければならなくなる。私も、アリアの気持ちを無視してまで側に置く事はしない」

 この国では自由恋愛に重きを置いている。
 中には政略結婚をする者も居るが、それだってお互いの同意を得て行われるものだ。
 位が高いからと言って、相手の事を思うがまま操ろうとは思わないし、しないのがこの国の美徳だ。
 それに逆らう気は無い。
 そもそも気のないアリアに結婚を強要しても虚しいだけだ。

 僕はアリアの笑顔が好きなのに、そんな事をして笑顔を向けて貰えるとも思えない。

「有り難うございますサファイア王子。御機嫌よう」

 アリアはサファイアに挨拶をし、家に入ってしまう。

「アリア……」

 サファイアは引き止める事も、挨拶を返す事も出来なかった。

「申し訳ありません、アリアは不躾な娘でして。教養も何も無い娘なのです。それに引き換えビアンカは……」

 継母はビアンカを絶賛する話をしていたが、サファイアの耳に入る事は無かった。

「全員撤収だ。城に戻る。お前達、今度私に黙ってこんな事をしてみろ、反逆罪に処す。解ったな」

 サファイアは、怖い顔で近衛兵に伝えると、馬に跨がった。
 穏やかなサファイアが『処す』等と強い口調で家臣を叱ることは珍しく、そんな怖い顔をした事も無かった為に、近衛兵達は少し狼狽えた。

「あ、王子、お待ちください!」
「王子こそ、家臣を共わずに勝手に城を抜け出すの止めて下さい!」
 
 慌てて後を追いかける近衛兵達だ。

 後に残された継母と姉はムスッとしていた。
 まるで空気の様に扱われ、面白くなかったのだ。


 部屋に入っていたアリアは、外を眺める。 
 サファイアが城に戻っていくのが見えた。

 あんな風に別れてしまったら、もう会えない。
 友達になるのも無理だわ。
 だって相手は王子様だもの。

 元々、住む世界が違いすぎたのだ。
 アリアはただ小さくなっていくサファイアを見えなくなるまで見つめているのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの剣になりたい

四季
恋愛
——思えば、それがすべての始まりだった。 親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。 彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。 だが、その時エアリはまだ知らない。 彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。 美しかったホワイトスター。 憎しみに満ちるブラックスター。 そして、穏やかで平凡な地上界。 近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※2019.2.10~2019.9.22 に執筆したものです。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

私を殺してくれて、ありがとう

ひとみん
恋愛
アリスティア・ルーベン侯爵令嬢は稀に見る美貌を持っていはいるが表情が乏しく『人形姫』と呼ばれていた。 そんな彼女にはまともな縁談などくるはずもなく、このままいけば、優しい義兄と結婚し家を継ぐ事になる予定だったのだが、クレメント公爵子息であるアーサーが彼女に求婚。 だがその結婚も最悪な形で終わる事となる。 毒を盛られ九死に一生を得たアリスティアだったが、彼女の中で有栖という女性が目覚める。 有栖が目覚めた事により不完全だった二人の魂が一つとなり、豊かな感情を取り戻しアリスティアの世界が一変するのだった。 だいたい13話くらいで完結の予定です。 3/21 HOTランキング8位→4位ありがとうございます!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

処理中です...