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会場をどうにかして抜け出せないかと考えていたサファイア。
にわかに大広間入口付近が賑わい、そちらに視線を向ける。
父が女性と手を繋いで現れた事に、全員驚いた様子だった。
サファイアが驚いたのは、父がエスコートしている相手にである。
アリア!?
サファイアは考えるより早く、椅子から立ち上がって入口まで足を走らせていた。
家臣が『王子! 走ってはいけません』『不作法ですよ!』そう注意して手を伸ばして止めようとされたが、それを押し退けてでも先に進む。
「父上、これはどう言うつもりですか!?」
サファイアは、父を睨むと奪う様にしてアリアの自分に引き寄せてしまうのだった。
まさか王に手を引かれているとは知らず、訳も解らないまま大広間に入ったアリアは困惑していた。
大広間に入った瞬間、『王様!?』『王様が女性を連れていらっしゃるわ』『彼女は誰?』と、奇異の視線を向けられる。
王様?
王様って?
全員で貴族の仮装をしているのかしら?
手が込んでいるのね……
そう、アリアは戸惑う。
そこに駆け寄って来て、いきなり自分の腰を掴んで引き寄せた男に見覚えは無かったが、声を聞くとサブだ。
前髪を上げて、オールバックにしている。
瞳の色をこんなに良く見た事は無かった。綺麗な緑色をしていた。
思わず見惚れてしまうアリアだ。
「まぁまぁ、人目が有る。そう声を荒らげるでない。彼女とダンスでも踊って来たらどうだ?」
王は息子にダンスを勧めた。
確かに人目は飛んでもない事になっている。
国王と王子が一人の女性を取り合っている様に映っているだろう。
「えっと…… 私とダンスを踊って下さいますか?」
無理矢理、腰を抱いて引き寄せると言うのも不躾であった。
アリアは困惑している。
ごめんね。
僕もすごく困惑しているよ。
こんな状態でダンスに誘われても、アリアは困るだろう。
「ええ、喜んで」
サファイアの予想に反し、アリアは微笑んでダンスを承諾してれた。
サファイアはアリアの手を取る。
丁度曲が変わった。
音に合わせてステップを踏む。
お互いに視線を合わせ、息を合わせた。
まるで流れる様にステップが踏めた。
アリアは本当にダンスが上手である。
サファイアは何か話さなければと思うのだが、なかなか言葉が出てこなかった。
そもそも、彼女はなんと言われて此処に連れてこられたのだろうか。
僕をサブだと認識しているのだろうか。
よく解らないが、王子様にダンスを求められたから踊っているのだろうか。
王子からダンスに誘われたら断れないよな……
「少し、ぎこちないわね。緊張しているの?」
フッと苦笑するアリア。
「ごめん。なんか、よく解らなくて……」
「私もよく解らなくて困っているの。なんだか夢の世界に迷い込んだみたい」
「そうだね。僕もそんな感じがしてる。アリアの足を踏まない様に気をつけるね」
「踏んだって気にしないわ」
フフっと笑うアリアは、見れば見るほど綺麗でかわいい。
あ、容姿を褒めるのを忘れてしまった。
すごく綺麗だよ。とか、素敵だとか。
えっと、この世で最高の褒め言葉って何だろう。
「サブ、今夜の貴方はすごく素敵よ」
「君もだよ」
「有り難う」
考えている内にアリアに先を越されてしまうサファイアだ。
君もだよなんて、気の利かない褒め言葉になってしまった。
嗚呼、僕は女の子を喜ばせる褒め言葉さえ解らないんだ。
そんなこんなしている内に、一曲が終わってしまう。
婚約もしてない男女がそう何度も続けてダンスをする事は作法として良く無い。
人目も有るので、一旦切り上げる事にした。
普段、舞踏会に参加せず、勿論ダンスなど躍らないサファイア。
そのサファイアが女性とダンスを踊っている姿は貴重なもので、全員が二人のダンスに注目していた。
終わってからも、皆二人を目で追う。
「ちょっと外に出ようか。人目が多すぎるから……」
サファイアはアリアを誘うと、中庭に連れ出す。
出入り口を固める家臣に人払いをさせた。
他の人が着けて来ても困る。
会場には戻って来た父が居るから問題は無いだろう。
「素敵なお庭ね」
アリア興味津々に庭の花を見ていた。
「これは何て言うお花なの? いい匂い」
「それはキンモクセイだね」
異国の花なので、この辺りには無い花だ。
「どうして父と一緒に居たの?」
早速、気になっていた事を尋ねるサファイア。
「彼はサブのお父さんだったの?」
「えっと、アリアは父の事を知らない?」
「魔法使いさんよね?」
「なるほど……」
アリアは舞踏会に顔を出さないし、街の祭り等も行かない様子だ。
村外れで城から離れている事も要因だろうが、どうやら国王陛下の顔を知らなかったらしい。
真面目なアリアの事だから、ラジオ等の放送で王の声を聞いてはいるだろうが、ラシオからの音と生の声は違うから解らないのだろう。
何しろサファイア本人もラジオ放送に声が乗ることも有るが、アリアに気付いた様子は無かった。
「お母様に叱られたの。男性と二人で会うのはフシダラだって。それで、倉庫に閉じ込められてしまって…… 魔法使いさんが助けてくれたのよ」
アリアはサファイアに今日あった出来事を話した。
「なんだって!? 君を倉庫に閉じ込めた!?」
なんて酷い事をするのだと、サファイアは激怒する。
「私が世間知らずだから叱ってくれたのよ。世間一般的に見ると、私はフシダラな女だったみたい。もしかしたら、もう会えないかも知れないわ」
アリアは視線を下げる。
アリアは決してフシダラな女性ではない。
そもそも、世間一般的に見ても婚姻前の女性が男性と二人で会う事にそこまで目くじらを立てる人は居ない。
少なくともこの国ではそんな差別的な事無い筈である。
「アリアはもう、僕と会いたくない?」
そんな根も葉もない言いがかりを付けられたからと言って、あっさりと承諾してしまうのか。
アリアの中で僕はそんなにどうでも良い人間だったのか。
そう思うと、サファイアは悲しくなってしまう。
「そんな訳ないじゃない。会いたいわ。でも、良く無いみたいなの。家名が汚れると言われたわ。そこまで言われると…… 私も立派な侯爵家の娘としての責任が有る」
アリアだって、サファイアに会いたくない訳は無かった。
会いたいに決まっている。
しかし、責任感の強いアリアは、家名が汚れると言われてしまうと、どうしようも無かった。
代々続く立派な侯爵家の家名を自分が汚すわけには行かないのだ。
「家名を汚しているのは君の母と姉の方だ」
声を強張らせるサファイア。
「どうして?」
アリアは首を傾げてしまう。
何故そんな事を言い切るのか。
サブは母と姉の何を知っているのだろう。
合わせた事は無いはずなのに。
「金持ちと見ればどんな男にだって見境なく足を開く下品な女だと噂されている程だ」
「まぁ…… 下品なのはそんな噂をする人の方よ。足を開くだなんて……」
思わず怪訝な表情をサファイアに向けるアリア。
サファイアの口からそんな下品は話は聞きたく無かった。
「僕は君をあんな家に帰したく無い」
「あんな家だなんて…… 私の大事な家よ」
「僕と結婚してくれ!」
「なんですって!?」
思い余って告白してしまうサファイア。
アリアは驚いて聞き返してしまう。
結婚って言ったの!?
「君は王子の妃になんて成りたくないと思うかも知れないけど、僕は君に重圧をかけたりしない。君が社交界に顔を出したくないと言うならそうすれば良い。君の望みならばなんだって叶えてあげたい。だらから僕の妃になって欲しいんだ」
「えっと、急に何の話を…… 王子って誰の事?」
ぎゅっと手を握りしめて必死な様子で話すサファイアだが、アリアには何を言っているのか訳が解らない。
「僕はこの国の第一王子、サファイアだ」
「待って、待ってちょうだい。そんな話が有るわけないわ。夢よね? これは夢だわ。そうに違いない」
真剣な面持ちで名前を名乗るサファイア。
アリアは頭が真っ白になり、話しについて行けない。
サブが王子だなんて、悪過ぎる夢である。
「なら夢だと思ってくれて構わない。これが夢だとしたらアリアは僕と結婚してくれる?」
すがる様な視線で聞かれと、弱いアリア。
こんなカッコよくキメていてもサブはサブだ。
かわいいと思う。
だが、それはそれ、これはこれだ。
「そんな急に言われても困るわ。サブがサファイア様かどうか置いておいて、私たち出会ったばかりじゃない。そんな急に結婚か言われても、私、困る」
結婚だなんて。
アリアは考えた事が無かった。
「僕との結婚は考えられないって事?」
「そうじゃないわ。考えた事は無かったけど、考えてみる。でも時間が欲しいわ」
サブがどうとかでは無くて、そもそも結婚自体を考えたことが無かったアリアだ。
「そうなると、君を一旦家に帰さなければならい。僕は君が君の継母や姉に酷い事をされるのが堪らないだ」
なんとか引き止めたいサファイア。
もう、一分一秒だってアリアをあの継母と姉の側に居させたく無かった。
「大丈夫よ。母も姉も私を思ってくれているわ。心配しないで」
「心配だぁ~~」
一番心配なのは、アリアが何も解って無い事だ。
アリアが大丈夫大丈夫と笑う事が何も大丈夫では無いのである。
「私、そろそろ帰らないと」
「もう帰るのかい?」
そんな急いで帰らなくて良いじゃないか。
これから街に出て、街の祭りも見れば良い。
自分がサブに成れば誰にも気付かれる事は無いだろう。
「母や姉が戻る前にまた倉庫に入っておかないと」
「やっぱり帰したく無いな……」
何故律儀に倉庫に入ろうとするのか。
アリアを帰したく無いサファイアだったが、アリアは帰ると聞かず、結局は馬車で送り届けてあげるのだった。
にわかに大広間入口付近が賑わい、そちらに視線を向ける。
父が女性と手を繋いで現れた事に、全員驚いた様子だった。
サファイアが驚いたのは、父がエスコートしている相手にである。
アリア!?
サファイアは考えるより早く、椅子から立ち上がって入口まで足を走らせていた。
家臣が『王子! 走ってはいけません』『不作法ですよ!』そう注意して手を伸ばして止めようとされたが、それを押し退けてでも先に進む。
「父上、これはどう言うつもりですか!?」
サファイアは、父を睨むと奪う様にしてアリアの自分に引き寄せてしまうのだった。
まさか王に手を引かれているとは知らず、訳も解らないまま大広間に入ったアリアは困惑していた。
大広間に入った瞬間、『王様!?』『王様が女性を連れていらっしゃるわ』『彼女は誰?』と、奇異の視線を向けられる。
王様?
王様って?
全員で貴族の仮装をしているのかしら?
手が込んでいるのね……
そう、アリアは戸惑う。
そこに駆け寄って来て、いきなり自分の腰を掴んで引き寄せた男に見覚えは無かったが、声を聞くとサブだ。
前髪を上げて、オールバックにしている。
瞳の色をこんなに良く見た事は無かった。綺麗な緑色をしていた。
思わず見惚れてしまうアリアだ。
「まぁまぁ、人目が有る。そう声を荒らげるでない。彼女とダンスでも踊って来たらどうだ?」
王は息子にダンスを勧めた。
確かに人目は飛んでもない事になっている。
国王と王子が一人の女性を取り合っている様に映っているだろう。
「えっと…… 私とダンスを踊って下さいますか?」
無理矢理、腰を抱いて引き寄せると言うのも不躾であった。
アリアは困惑している。
ごめんね。
僕もすごく困惑しているよ。
こんな状態でダンスに誘われても、アリアは困るだろう。
「ええ、喜んで」
サファイアの予想に反し、アリアは微笑んでダンスを承諾してれた。
サファイアはアリアの手を取る。
丁度曲が変わった。
音に合わせてステップを踏む。
お互いに視線を合わせ、息を合わせた。
まるで流れる様にステップが踏めた。
アリアは本当にダンスが上手である。
サファイアは何か話さなければと思うのだが、なかなか言葉が出てこなかった。
そもそも、彼女はなんと言われて此処に連れてこられたのだろうか。
僕をサブだと認識しているのだろうか。
よく解らないが、王子様にダンスを求められたから踊っているのだろうか。
王子からダンスに誘われたら断れないよな……
「少し、ぎこちないわね。緊張しているの?」
フッと苦笑するアリア。
「ごめん。なんか、よく解らなくて……」
「私もよく解らなくて困っているの。なんだか夢の世界に迷い込んだみたい」
「そうだね。僕もそんな感じがしてる。アリアの足を踏まない様に気をつけるね」
「踏んだって気にしないわ」
フフっと笑うアリアは、見れば見るほど綺麗でかわいい。
あ、容姿を褒めるのを忘れてしまった。
すごく綺麗だよ。とか、素敵だとか。
えっと、この世で最高の褒め言葉って何だろう。
「サブ、今夜の貴方はすごく素敵よ」
「君もだよ」
「有り難う」
考えている内にアリアに先を越されてしまうサファイアだ。
君もだよなんて、気の利かない褒め言葉になってしまった。
嗚呼、僕は女の子を喜ばせる褒め言葉さえ解らないんだ。
そんなこんなしている内に、一曲が終わってしまう。
婚約もしてない男女がそう何度も続けてダンスをする事は作法として良く無い。
人目も有るので、一旦切り上げる事にした。
普段、舞踏会に参加せず、勿論ダンスなど躍らないサファイア。
そのサファイアが女性とダンスを踊っている姿は貴重なもので、全員が二人のダンスに注目していた。
終わってからも、皆二人を目で追う。
「ちょっと外に出ようか。人目が多すぎるから……」
サファイアはアリアを誘うと、中庭に連れ出す。
出入り口を固める家臣に人払いをさせた。
他の人が着けて来ても困る。
会場には戻って来た父が居るから問題は無いだろう。
「素敵なお庭ね」
アリア興味津々に庭の花を見ていた。
「これは何て言うお花なの? いい匂い」
「それはキンモクセイだね」
異国の花なので、この辺りには無い花だ。
「どうして父と一緒に居たの?」
早速、気になっていた事を尋ねるサファイア。
「彼はサブのお父さんだったの?」
「えっと、アリアは父の事を知らない?」
「魔法使いさんよね?」
「なるほど……」
アリアは舞踏会に顔を出さないし、街の祭り等も行かない様子だ。
村外れで城から離れている事も要因だろうが、どうやら国王陛下の顔を知らなかったらしい。
真面目なアリアの事だから、ラジオ等の放送で王の声を聞いてはいるだろうが、ラシオからの音と生の声は違うから解らないのだろう。
何しろサファイア本人もラジオ放送に声が乗ることも有るが、アリアに気付いた様子は無かった。
「お母様に叱られたの。男性と二人で会うのはフシダラだって。それで、倉庫に閉じ込められてしまって…… 魔法使いさんが助けてくれたのよ」
アリアはサファイアに今日あった出来事を話した。
「なんだって!? 君を倉庫に閉じ込めた!?」
なんて酷い事をするのだと、サファイアは激怒する。
「私が世間知らずだから叱ってくれたのよ。世間一般的に見ると、私はフシダラな女だったみたい。もしかしたら、もう会えないかも知れないわ」
アリアは視線を下げる。
アリアは決してフシダラな女性ではない。
そもそも、世間一般的に見ても婚姻前の女性が男性と二人で会う事にそこまで目くじらを立てる人は居ない。
少なくともこの国ではそんな差別的な事無い筈である。
「アリアはもう、僕と会いたくない?」
そんな根も葉もない言いがかりを付けられたからと言って、あっさりと承諾してしまうのか。
アリアの中で僕はそんなにどうでも良い人間だったのか。
そう思うと、サファイアは悲しくなってしまう。
「そんな訳ないじゃない。会いたいわ。でも、良く無いみたいなの。家名が汚れると言われたわ。そこまで言われると…… 私も立派な侯爵家の娘としての責任が有る」
アリアだって、サファイアに会いたくない訳は無かった。
会いたいに決まっている。
しかし、責任感の強いアリアは、家名が汚れると言われてしまうと、どうしようも無かった。
代々続く立派な侯爵家の家名を自分が汚すわけには行かないのだ。
「家名を汚しているのは君の母と姉の方だ」
声を強張らせるサファイア。
「どうして?」
アリアは首を傾げてしまう。
何故そんな事を言い切るのか。
サブは母と姉の何を知っているのだろう。
合わせた事は無いはずなのに。
「金持ちと見ればどんな男にだって見境なく足を開く下品な女だと噂されている程だ」
「まぁ…… 下品なのはそんな噂をする人の方よ。足を開くだなんて……」
思わず怪訝な表情をサファイアに向けるアリア。
サファイアの口からそんな下品は話は聞きたく無かった。
「僕は君をあんな家に帰したく無い」
「あんな家だなんて…… 私の大事な家よ」
「僕と結婚してくれ!」
「なんですって!?」
思い余って告白してしまうサファイア。
アリアは驚いて聞き返してしまう。
結婚って言ったの!?
「君は王子の妃になんて成りたくないと思うかも知れないけど、僕は君に重圧をかけたりしない。君が社交界に顔を出したくないと言うならそうすれば良い。君の望みならばなんだって叶えてあげたい。だらから僕の妃になって欲しいんだ」
「えっと、急に何の話を…… 王子って誰の事?」
ぎゅっと手を握りしめて必死な様子で話すサファイアだが、アリアには何を言っているのか訳が解らない。
「僕はこの国の第一王子、サファイアだ」
「待って、待ってちょうだい。そんな話が有るわけないわ。夢よね? これは夢だわ。そうに違いない」
真剣な面持ちで名前を名乗るサファイア。
アリアは頭が真っ白になり、話しについて行けない。
サブが王子だなんて、悪過ぎる夢である。
「なら夢だと思ってくれて構わない。これが夢だとしたらアリアは僕と結婚してくれる?」
すがる様な視線で聞かれと、弱いアリア。
こんなカッコよくキメていてもサブはサブだ。
かわいいと思う。
だが、それはそれ、これはこれだ。
「そんな急に言われても困るわ。サブがサファイア様かどうか置いておいて、私たち出会ったばかりじゃない。そんな急に結婚か言われても、私、困る」
結婚だなんて。
アリアは考えた事が無かった。
「僕との結婚は考えられないって事?」
「そうじゃないわ。考えた事は無かったけど、考えてみる。でも時間が欲しいわ」
サブがどうとかでは無くて、そもそも結婚自体を考えたことが無かったアリアだ。
「そうなると、君を一旦家に帰さなければならい。僕は君が君の継母や姉に酷い事をされるのが堪らないだ」
なんとか引き止めたいサファイア。
もう、一分一秒だってアリアをあの継母と姉の側に居させたく無かった。
「大丈夫よ。母も姉も私を思ってくれているわ。心配しないで」
「心配だぁ~~」
一番心配なのは、アリアが何も解って無い事だ。
アリアが大丈夫大丈夫と笑う事が何も大丈夫では無いのである。
「私、そろそろ帰らないと」
「もう帰るのかい?」
そんな急いで帰らなくて良いじゃないか。
これから街に出て、街の祭りも見れば良い。
自分がサブに成れば誰にも気付かれる事は無いだろう。
「母や姉が戻る前にまた倉庫に入っておかないと」
「やっぱり帰したく無いな……」
何故律儀に倉庫に入ろうとするのか。
アリアを帰したく無いサファイアだったが、アリアは帰ると聞かず、結局は馬車で送り届けてあげるのだった。
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