【完結】俺の可愛い牛

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「久しぶりにブラッシングしてあげようか」

 お風呂から出ると、牛五郎をソファーに座らせる哉汰。
 髪を乾かしてやりつつ、櫛で髪を梳かす。
 牛はこれが好きな子が多い。牛五郎も多分好きだ。
 昔はよくこうして髪を梳かしてやったっけ。

 牛五郎が『いつか私は執事をやめて人間になりたいです』なんて事を告白する前までは、結構仲良くなっていたのだ。
『お前は俺の牛だ。付け上がるなよ。お前は永遠に俺の執事だ』と、叱りつけてから、牛五郎は反発する様になってしまった。

 執事である牛が執事を辞めて人間になりたい等と、だいそれた事を主人に向かって言うなんて、飛んでもない事である。
 下手したら施設に送り返されるところだ。
 施設に送り返された牛執事は不良品と見なされ、もう執事としての道は絶たれる。
 普通の乳牛として愛玩動物になる調教を受ける事になるだろう。 

 牛らしくなく、野心が強い。生意気で勉強熱心なのは牛五郎の良いとこでもある。
 哉汰も気に入っていた。
 だが、万が一人に聞かれでもしたら、牛五郎は自分から取り上げられてしまうだろう。
 あの瞬間、哉汰は酷く青ざめ、冷や汗を流したものだった。
 父からも『牛はペットであり、友達では無いんだ』『牛五郎はお前の調教の練習台にする為に連れてきたんだぞ』と、何度も口を酸っぱくして言われていた。
 哉汰は牛五郎を練習台には出来なかった。
 牛五郎以外はちゃんと調教したし、牛として接していたので、父も多目に見てくれてはいたが。
 牛五郎を調教するなら自分でしたい。

 あれから牛五郎をどう調教しようか、色々と念密に予定を考えた。
 結局、予定通りの調教が出来ているのかは解らないが。
 

「牛五郎の髪はツヤツヤで綺麗だな」

 黒髪が綺麗な牛五郎の髪は腰まで伸びている。
 艷やかで長い黒髪を持つ牛は、育ちが良い証だ。
 主人に愛されている証である。

「新しいリボンを用意したよ」

 可愛い自分の愛牛にリボンを付けるの事が牛飼いのステータスである。
 家の色は青なので、青いリボンを結んでやった。

「有難うございます」

 フフっと微笑む牛五郎。
 牛五郎がこんなに朗らかに笑うのを久しぶりに見た気がした。

 調教を開始したら、もっと嫌われると思っていたが、もっと早く初めたら良かったかもしれない。
 牛五郎は哉汰にとって特別な牛だ。
 他の牛の様に調教するのは躊躇われてしまった。
 野心の強い、頑張り屋の牛五郎が好きなのに、牛五郎も調教してしまえば快楽に従順な牛になってしまう。
 他の牛と同じようになる。
 それが嫌だった。 

 牛は快楽に従順な生き物で、それが牛の幸せだと解るっている。
 牛五郎がどんなに頑張ったって人間にはなれない。
 人間として生きている牛だって、人間として生きるのが辛く、自ら施設に来る者も多いのだ。
 人間として生きる牛はストレスも高く、短命になりがちであるし、心を壊す者が多い。 
 初めから牛として施設に来た方が、きっと牛達は幸せだろう。
 牛五郎も快楽落ちしてくれた方が、自分の内面の矛盾に苦しまずに済む。


「おもうこんな時間ですね。夕食を作って来ます」
 
 牛五郎は時計を見て慌てて立ち上がる。
 アナルプラグはもう良いかなと、付けないであげた。 

「今朝みたいに失敗はするなよ。材料が勿体ないから」
「解っています」

 いつも余計な一言が多いなと、哉汰をちょっと睨んでしまう牛五郎だ。



 哉汰の部屋を出て厨房に向かう。
 久しぶりにブラッシングしてもらい、新しいリボンも付けて貰えた牛五郎は嬉しくて、ちょっと鼻歌混じりて足取りも軽かった。
 哉汰が昔しの様に優しく自分を構ってくれるのが嬉しかった。

 あれ?

 俺は牛じゃなくて人間なのに。
 主人に構って貰えて嬉しいなんて牛じゃないか!
 
 ハッとなる。
 何を浮かれているんだ俺は。
 全然嬉しくなんかない!!
 こんなリボンなんて付けて、全然似合わないし。
 人間になったら髪だってバッサリ切ってやるんだからな!
 絶対スキンヘッドにしてやる!!

 さっきまで鼻歌混じりだった牛五郎だが、急に不機嫌になり、険悪な表情になる。
 それを見ていた他の従者達はゾッとした顔をする。

 牛五郎さんはどうしたんだ?
 大丈夫なのか?

 そう皆が顔を合わせる。
 とうとうおかしくなってしまったのでは無いだろうかとヒソヒソ心配されるのだった。
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