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75話

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 3月下旬。

 雪が固まり、上を歩ける様になった。
 雪解けもはじまり、雪崩を警戒しなければならない季節でも有る。

 丸武城の動きが報告された。

 春岳は直ぐに忍の里の者を率いて密かに動いた。
 進軍をはじめた丸武城は手薄になる。
 春岳はそこを的確に狙ったのだ。
 丸武の殿は城に残っている。
 此方が嗅ぎつけている情報は、どうやら漏れなかったらしい。

 手薄になった城に忍び込んだ春岳は他の者に指示を出す。
 丸武を捕まえ、他の者は逃した後は城に火を放つ手筈になっている。

 春岳は急いで有理を探した。
 城の見取り図は手中にある。
 人々が居る場所が手に取る様に解った。
 丸武は寝室で若い色小姓と一緒にいる。
 有理はいつもなら家臣達の相手をさせられているだろうが、今日は一人で薄い煎餅布団に寝かされていた。

 目論見通りの場所で、有理を見つけた春岳。

「おい、大丈夫か。有理」

 声をかけるが覇気が無く、有理はぐったりしている。
 額に手を置けば熱があった。
 病気になったのを放っておかれたのか。

「助けが遅くなってすまなかった」
 
 瀕死の状態の有理。はやく城に運んで手当しなければ。

「……千代様?」

 有理が小声で呟く。

「すまんが千代では無い」
「誰?」
「千代では無いが千代に会わせてやるから頑張れ」
「千代様?」

 覇気が無かった有理は千代と聞いて少し目に色が出た気がしたが。

「シュン、丸武をおさえた」
「避難誘導も終わったぞ」

 仲間が駆けつけてくれた。
 『シュン』は、忍びの時に使っていた名だ。

「解った。ずらかるぞ!」

 春岳は有理を抱きかかえると、外に出た。

 丸武城に火を放つのだった。




 丸武城の軍勢を向かい撃つ花田城の軍勢と、少人数の田方城の軍勢。
 明らかに劣勢で有ったが、丸武城の方で火の手が上がり、向こうの軍勢に乱れが生じた。
 ここぞとばかりに押し返す花田と田方。
 丸武は慌てて引き上げる事にしたらしく、逃げ去った。

 まぁ、今から帰った所で城は燃え落ち、丸武も諦めて降参している事であろう。
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