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69話
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結局、あの日以降、有理を見かける事はなかった。
千代は心配し、辺を探し回ったりもしたが、何処にも居ない。
「山で迷子になったのかも知れません。どうしましょう」
五日経っても音沙汰の無い有理に、千代は今にも泣き出しそうであった。
そうこうしている内に、とうとう初雪が降った。
初雪から根雪となり、朝起きたら一面の銀世界だ。
千代は、もう有理はきっと遭難して何処かで凍死してしまっているに違いないと、泣きわめき出してしまった。
「大丈夫だ千代。有理はきっと大丈夫だ」
そう根拠の無い事を言って安心させる他ない。
伊吹も有理を心配し、馬を走らせて探さたり、犬を連れ出したりもしたのだが、全く見つからないのだ。
それこそ匂いすら残っていないようで、犬は全く反応しなかった。
「どうしました?」
千代の泣き声に気づいた春岳が顔を出す。
見ると、千代は伊吹の太腿に縋り付いて泣いていて、伊吹がヨシヨシと頭を撫でていた。
俺の伊吹だって千代もそろそろ解っているだろうにと、ムッとなる春岳だが、大人気ないので顔には出さなさった。
「有理が見つからず……」
「ああ、あれは元いた場所に帰ったのでしょう」
「元いた場所? と、言うと花田城ですか?」
有理は花田城からの贈り物だ。
「いや、おそらくは丸武城だ」
「な、丸武城!?」
敵方の城では無いか。
「あれは所謂、下忍でした。此処に残れと暗に伝えてはいたのですが、駄目でしたね」
はぁーと、溜息を吐く春岳。
「下忍? 有理は忍者だったのですか?」
千代も顔を上げて春岳を見る。驚いて目を見開いていた。
「丸武城から花田城に差し向けられた密偵でしょう。花田城から此方に贈られる事になり、ついでに此方の武力も偵察したのでしょうね」
「そんな……」
「戻ってもまともな生活をさせえもらえる訳でも無いのに……」
千代はショックを受けた様子で固まってしまう。
春岳も何処か寂しそうな表情だ。
「まともな生活をさせてもらえないとは……」
伊吹は心配になり、更に質問する。
「有理は下忍と言ったでしょう。忍者には各所で扱いは変わります。私の居た里はそのような非道な扱いは有りませんでしたが、下忍は人として数えられません。畜生以下の扱いを受ける場合が有ります。それが有理ですね。敵の城に一人で送り込まれるんですよ。特に今回などは私が居ると解っていてこの城も偵察しろと送り込まれたんです。私なら直ぐに気づいて処罰する可能性が高い。殺される可能性が多いに有る。そんな場所に送り込まれて閨の相手をしなければならない。いつ死んでもおかしくない。いつ死んでも良い扱いなんです」
下忍について説明する春岳に、伊吹と千代は顔を真っ青にした。
「だから、私もそれとなく匿ってやろうと伝えてはいたんですよ。伊吹も有理を気に入っていたし、千代も仲良くしていたでしょう。千代には友達の様な者が居なかったので、有理が来てくれて私も良かったと思っていたんです。それに人を人して扱わない下忍の様な制度は私は嫌いです。だから助けてあげたいとは思ったのですよ。でも下忍には強い暗示がかけられていましてね。それを解くことは難しいんです。下手に直接伝えると自害の暗示が発動しかねなくて……」
そう説明を続けた春岳も、苦々しい表情をした。
「自害の暗示……」
伊吹はヒュと、息を呑む。
「下忍には沢山の暗示がかけられている場合が多い。特に、敵に気づかれた場合は即座に自決する暗示等は必ずかけられていると思って間違いないです」
春岳は顔を曇らせる。
「そんな、有理は助けられないのですか!? 有理、有理ーー」
うわああぁぁと、千代は声を上げて泣き出してしまった。
そんな話を聞かされたら、伊吹だって泣き出してしまいそうだ。
「どうしようも無いんだ。俺だって助けたかった」
グッと手を握る春岳は悔しそうな面持ちであった。
二人がこう言う反応をするだろうと思っていたから、春岳は言えずに居たのだ。
二人にはあまりにも残酷な話だろう。
春岳とて、見過ごす気持ちは無かった。
手立ては打ってある。
千代は心配し、辺を探し回ったりもしたが、何処にも居ない。
「山で迷子になったのかも知れません。どうしましょう」
五日経っても音沙汰の無い有理に、千代は今にも泣き出しそうであった。
そうこうしている内に、とうとう初雪が降った。
初雪から根雪となり、朝起きたら一面の銀世界だ。
千代は、もう有理はきっと遭難して何処かで凍死してしまっているに違いないと、泣きわめき出してしまった。
「大丈夫だ千代。有理はきっと大丈夫だ」
そう根拠の無い事を言って安心させる他ない。
伊吹も有理を心配し、馬を走らせて探さたり、犬を連れ出したりもしたのだが、全く見つからないのだ。
それこそ匂いすら残っていないようで、犬は全く反応しなかった。
「どうしました?」
千代の泣き声に気づいた春岳が顔を出す。
見ると、千代は伊吹の太腿に縋り付いて泣いていて、伊吹がヨシヨシと頭を撫でていた。
俺の伊吹だって千代もそろそろ解っているだろうにと、ムッとなる春岳だが、大人気ないので顔には出さなさった。
「有理が見つからず……」
「ああ、あれは元いた場所に帰ったのでしょう」
「元いた場所? と、言うと花田城ですか?」
有理は花田城からの贈り物だ。
「いや、おそらくは丸武城だ」
「な、丸武城!?」
敵方の城では無いか。
「あれは所謂、下忍でした。此処に残れと暗に伝えてはいたのですが、駄目でしたね」
はぁーと、溜息を吐く春岳。
「下忍? 有理は忍者だったのですか?」
千代も顔を上げて春岳を見る。驚いて目を見開いていた。
「丸武城から花田城に差し向けられた密偵でしょう。花田城から此方に贈られる事になり、ついでに此方の武力も偵察したのでしょうね」
「そんな……」
「戻ってもまともな生活をさせえもらえる訳でも無いのに……」
千代はショックを受けた様子で固まってしまう。
春岳も何処か寂しそうな表情だ。
「まともな生活をさせてもらえないとは……」
伊吹は心配になり、更に質問する。
「有理は下忍と言ったでしょう。忍者には各所で扱いは変わります。私の居た里はそのような非道な扱いは有りませんでしたが、下忍は人として数えられません。畜生以下の扱いを受ける場合が有ります。それが有理ですね。敵の城に一人で送り込まれるんですよ。特に今回などは私が居ると解っていてこの城も偵察しろと送り込まれたんです。私なら直ぐに気づいて処罰する可能性が高い。殺される可能性が多いに有る。そんな場所に送り込まれて閨の相手をしなければならない。いつ死んでもおかしくない。いつ死んでも良い扱いなんです」
下忍について説明する春岳に、伊吹と千代は顔を真っ青にした。
「だから、私もそれとなく匿ってやろうと伝えてはいたんですよ。伊吹も有理を気に入っていたし、千代も仲良くしていたでしょう。千代には友達の様な者が居なかったので、有理が来てくれて私も良かったと思っていたんです。それに人を人して扱わない下忍の様な制度は私は嫌いです。だから助けてあげたいとは思ったのですよ。でも下忍には強い暗示がかけられていましてね。それを解くことは難しいんです。下手に直接伝えると自害の暗示が発動しかねなくて……」
そう説明を続けた春岳も、苦々しい表情をした。
「自害の暗示……」
伊吹はヒュと、息を呑む。
「下忍には沢山の暗示がかけられている場合が多い。特に、敵に気づかれた場合は即座に自決する暗示等は必ずかけられていると思って間違いないです」
春岳は顔を曇らせる。
「そんな、有理は助けられないのですか!? 有理、有理ーー」
うわああぁぁと、千代は声を上げて泣き出してしまった。
そんな話を聞かされたら、伊吹だって泣き出してしまいそうだ。
「どうしようも無いんだ。俺だって助けたかった」
グッと手を握る春岳は悔しそうな面持ちであった。
二人がこう言う反応をするだろうと思っていたから、春岳は言えずに居たのだ。
二人にはあまりにも残酷な話だろう。
春岳とて、見過ごす気持ちは無かった。
手立ては打ってある。
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