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51話
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数刻前の事。
春岳は猪の解体を済ますと、思いの外血が飛びちってしまっている事に気づいた。
少し手元が狂ったらしい。
いつもなら汚しても良い服に飛び散る程度で、着替えれば気にならない。
少し拭けば済む程度で抑えられる。
だが今は、顔や結んだ髪にまで飛ばしてしまっていた。
こんなの人に見られたら悲鳴を上げられるだろう。
幸い、今は夜もふけで人気も少なかった。
湯に浸かって汚れを落とそう。
いつも使っている湯殿は既に掃除が入ってしまっただろうし、伊吹を起こさなければいけない。
もう寝ているかもしれないし、こんな時間にお湯を張り直すのは面倒だろう。
大浴場の方なら掃除が終わればまた直ぐに湯を張る筈だ。
掃除の時間は解らないが、もし真っ最中だとしても待てば良いだ。
そう思って大浴場に来た春岳である。
初めて来る大浴場の戸口に立った時だった。
『殿ーー殿ーー』
と、自分に助けを求めるような伊吹の声が聞こえた。
慌てて戸を開けて中に入ったらビックした。
まさか伊吹が千代に尺八させているとは。
フフっと、思わず笑ってしまう。
ああ、俺ってなんて滑稽なんだ。
そうか。
伊吹は千代と出来ていたのか。
そだよな。
別に俺の側付きが、色小姓と出来ていたからと言て何の問題もない。
良くある話だ。
春岳専用の色小姓に手を出したとなれば話は別だろうが、千代は別に春岳専用の色小姓ではない。
咎める事は出来ないし、何も悪い事ではないのだ。
春岳に報告する事や、お伺いを立てる必要も無い。
伊吹と千代は何の罪も犯してはいない。
そうか。
そうなんだ……
「あの、殿、これは……」
鬼の形相から一変し、急に笑いだした春岳に、伊吹は驚きつつも説明しようとした。
「良いです。解りました。伊吹は千代と懇ろだったと言う事ですよね」
だって、想いが無い人とはしないと言っていた。
と、言う事は、伊吹は千代を想っていると言う事だ。
「ち、違います。私は千代とその様な関係では……」
誤解されていると気付き、ブンブンと首を振る伊吹。
「はっ! 貴方が言ったんでしょう。じゃあ、あれは嘘だったんですね。誰とでも寝る物好きだったと言うことだ!」
想いが無ければしないと言ったのは伊吹じゃないか!
「そんな、私は違うんです。これは、その、違うんです!」
伊吹は、怒鳴る春岳に気が動転してしまい、誤解を解きたいが、上手く説明出来ずに泣き出してしまった。
見かねた千代が口を開いた。
「私は、ただ今井様の湯浴みのお手伝いをしていただけです。そして今、今井様は湯冷めしてしまっています。湯で温まって頂きたいのですが……」
そう、内心緊張しながらも冷静に説明する千代。
伊吹が凍えてしまわないか心配だった。
「そうか。そうだな。このままでは伊吹が風邪を引いてしまう」
千代に言われ、春岳は伊吹を抱き上げると湯に入れてやる。
確かに身体は冷えてしまっていた。
「私も服を脱いで来ます。面倒なので皆一緒に入りましょう。千代も冷えたでしょう? ほら、有理も来なさい」
服を脱ぐ春岳は有理も誘って戻ってくる。
何故か四人で湯に浸かると言う、飛んでもなく気まずい空気が流れる事態となってしまうのだった。
春岳は猪の解体を済ますと、思いの外血が飛びちってしまっている事に気づいた。
少し手元が狂ったらしい。
いつもなら汚しても良い服に飛び散る程度で、着替えれば気にならない。
少し拭けば済む程度で抑えられる。
だが今は、顔や結んだ髪にまで飛ばしてしまっていた。
こんなの人に見られたら悲鳴を上げられるだろう。
幸い、今は夜もふけで人気も少なかった。
湯に浸かって汚れを落とそう。
いつも使っている湯殿は既に掃除が入ってしまっただろうし、伊吹を起こさなければいけない。
もう寝ているかもしれないし、こんな時間にお湯を張り直すのは面倒だろう。
大浴場の方なら掃除が終わればまた直ぐに湯を張る筈だ。
掃除の時間は解らないが、もし真っ最中だとしても待てば良いだ。
そう思って大浴場に来た春岳である。
初めて来る大浴場の戸口に立った時だった。
『殿ーー殿ーー』
と、自分に助けを求めるような伊吹の声が聞こえた。
慌てて戸を開けて中に入ったらビックした。
まさか伊吹が千代に尺八させているとは。
フフっと、思わず笑ってしまう。
ああ、俺ってなんて滑稽なんだ。
そうか。
伊吹は千代と出来ていたのか。
そだよな。
別に俺の側付きが、色小姓と出来ていたからと言て何の問題もない。
良くある話だ。
春岳専用の色小姓に手を出したとなれば話は別だろうが、千代は別に春岳専用の色小姓ではない。
咎める事は出来ないし、何も悪い事ではないのだ。
春岳に報告する事や、お伺いを立てる必要も無い。
伊吹と千代は何の罪も犯してはいない。
そうか。
そうなんだ……
「あの、殿、これは……」
鬼の形相から一変し、急に笑いだした春岳に、伊吹は驚きつつも説明しようとした。
「良いです。解りました。伊吹は千代と懇ろだったと言う事ですよね」
だって、想いが無い人とはしないと言っていた。
と、言う事は、伊吹は千代を想っていると言う事だ。
「ち、違います。私は千代とその様な関係では……」
誤解されていると気付き、ブンブンと首を振る伊吹。
「はっ! 貴方が言ったんでしょう。じゃあ、あれは嘘だったんですね。誰とでも寝る物好きだったと言うことだ!」
想いが無ければしないと言ったのは伊吹じゃないか!
「そんな、私は違うんです。これは、その、違うんです!」
伊吹は、怒鳴る春岳に気が動転してしまい、誤解を解きたいが、上手く説明出来ずに泣き出してしまった。
見かねた千代が口を開いた。
「私は、ただ今井様の湯浴みのお手伝いをしていただけです。そして今、今井様は湯冷めしてしまっています。湯で温まって頂きたいのですが……」
そう、内心緊張しながらも冷静に説明する千代。
伊吹が凍えてしまわないか心配だった。
「そうか。そうだな。このままでは伊吹が風邪を引いてしまう」
千代に言われ、春岳は伊吹を抱き上げると湯に入れてやる。
確かに身体は冷えてしまっていた。
「私も服を脱いで来ます。面倒なので皆一緒に入りましょう。千代も冷えたでしょう? ほら、有理も来なさい」
服を脱ぐ春岳は有理も誘って戻ってくる。
何故か四人で湯に浸かると言う、飛んでもなく気まずい空気が流れる事態となってしまうのだった。
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