【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

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45話

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「あ、もう! 有理ったらまた今井様と遊んで! 雪囲いのお手伝いで忙しいのに。今井様も有理を猫可愛がりしないで下さい! あと、馴れ馴れしくしないの!」

 此方に気付いて駆け寄って来たのは千代だ。

「だって、手が痛くなってしまったんです」

 ショボーンとなる有理。
 馴れない事をさせられ、疲れてしまったのだろう。
 有理は元々色小姓で見た目を綺麗に保つのが仕事の様なものだ。
 そう思うと千代は逞しいな。

「そう怒るな千代。俺の話し相手も立派な仕事だと思うぞ」

 有理のフォローに入る伊吹。

「有理ばかり可愛がって狡いです! 私だって今井様に甘やかして貰いたいのに! この前なんて閨に連れていきましたよね! 私、今井様に閨に誘われた事無いんですけど!!」
 
 どうやら火に油だったみたいだ。

「誤解だ。有理が泣きそうだったから慰めただけで……」
「どういう風に慰めたのですか!?」
「普通に一緒に寝ただけだぞ」
「寝たってどういう事です!」
「本当に服を着たまま寝ただけなんだ! 何もしてないよ」

 プンプンな千代に言い聞かせる伊吹。
 詰め寄ってくる千代に、立ち上がり、手でドウドウとあやす。

 だが、元々色小姓の有理を伊吹が閨に誘って何をしようと、千代が怒る事ではない。
 伊吹は千代が何を怒っているのか良く解らないが、兎に角、事実を伝えた。
 
「どうした? 疲れたのか?? お前も少し休んで一緒に蜜柑でも食おう」

 伊吹は千代の手を引くと、隣に座らせる。
 剥いた蜜柑を渡してみた。
 蜜柑の皮は殿が何かの薬に使うと言うので取っておく。
 
「今、丁度伊吹様が色小姓との遊びの話をしていたんですよ」
「そんな話をしていたのですか!?」

 突然、とんでも無い事を言う有理。
 折角、蜜柑を食べて落ち着きを取り戻したと思った千代だが、更に憤慨した様子である。
 要約したらそうなのかも知れないが、色小姓との遊びの話をしていたなんて言われると、そんな話はしていないと言いたい。
 伊吹は思わず首をブンブン振ってしまう。

「それで、今夜は伊吹様の閨に千代様と一緒に行きます」
「ん?」「は?」
 
 有理の台詞に、伊吹と千代は間抜けな声しか出なかった。

 一体、どういう事だろう。

「だって、私、千代様と喧嘩したくありませんし、一人より二人で相手にした方が伊吹様も楽しめます。私達二人で伊吹様に精一杯ご奉仕します」
「まてまてまて、そんな急すぎるぞ!」

 有理の話に追いつけない伊吹だ。

「善は急げと申します」

 俄然やる気な有理。
 伊吹の手を掴む。

 そうだけど!!

 俺の心の準備が出来ない。
 妹の様に思っている二人にそんな事が出来るだろうか。

「大丈夫ですよ。千代様も私も慣れていますから、伊吹様は動かずじっとしておられても良いのですよ」
「いや、そう言う話では……」 

 そんな鮪の様に言われると……
 実際、そうなると思うが……

「えっと、今晩、私は今井様の閨に呼んで頂けるのですか?」

 話を黙って見守っていた千代だが、ソッと伊吹の手を握る。
 期待に満ちた視線で見つめられている事に気づいた。
 左右から両手を握られてしまった。
 これは、ここで手を振り払う訳にはいかないし、男の恥になるやつだ。
 
「わ、解った。二人共今夜は俺の閨に来なさい」

 何でこんな事になったのか解らないが、ええい、なる様になる! と、伊吹は承諾するのだった。

「本当ですか今井様。千代は嬉しいです。今夜が楽しみ。さーて! 頑張って雪囲いのお手伝いするぞぉ!」

 千代は張り切って仕事に戻っていく。
 有理も伊吹に頭を下げると千代に着いて行くのだった。

 何だか予想外の展開過ぎて、伊吹は状況を飲み込めない。
 取り敢えず、二人が残していた蜜柑を食べるのだった。

 ああ、今日は天気が良いなぁ。
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