上 下
31 / 79

30話

しおりを挟む
 朝陽に目覚めた伊吹は、今までに無いぐらい爽快な気分であった。
 なんだかスッキリしていて気持ちいい目覚めだ。  

 こんな事、何年ぶりだろう。

 何だか、とても淫乱な夢を見てしまった。
 経験上、やらかしているだろうと恐る恐る布団を確かめたが、何故か綺麗であった。
 何だか不思議な気持ちだ。 

 それにしても、自分は何であんな夢を見てしまったのだろうか。

 殿と……

 思い出して顔が熱くなるのを感じる。

 自分は殿をそんな目で見ていたのだろうか。

 経験も無いのに色小姓の様に殿に愛でて頂きたい等、不相応な願いを持っていたのだろうか。

 俺は男色の気は無いと思っていたが…… 

 確かに我が殿は美しく聡明で素晴らしいお方だ。
 尊敬し、仕える事に誇りさえ感じる。
 自分は殿にお仕えする為の誓として、義兄弟の契を結びたいのだろうか。
 だが、今更わざわざ義兄弟の契を交わさずとも、殿とは紛れもなく立派な乳兄弟である。
 わざわざ魅力も無い己の尻の穴など差し出されても、殿はお困りだろう。
 本当に酷い夢を見てしまったものだ。
 
 伊吹はフーッと深呼吸し、夢の事は忘れる事にした。





「殿ー、朝ですよ。殿ーー」

 朝食の準備など、朝の仕度を色々済ませてから、春岳を起こしに来た伊吹。
 どうせ今日も居ないんだろうなぁ。
 そう思いはするが、障子の前で呼ぶ。

「ああ…… 朝か、待って下さいね」

 すごく気だるそうな声が返ってきた。
 驚く伊吹。
 
 これが殿の声!?

 いつもの心地よい美声は何処へ行ってしまわれたのか。

「すみません寝坊しました。伊吹は元気そうで良かったです」
「どうされたんですか!?」
 
 声だけでも驚いたと言うのに、春岳は目の下に隈まで作っていた。
 髪もボサボサである。

 伊吹は仰天した。

「ちょっと寝付けなかったので…… 客人と話し込んでしまい、興奮しすぎましたかね」

 ハハっと、苦笑して見せる春岳。

 下半身はスッキリしているのだが、伊吹に酷い事をしてしまった上に、それを使って自慰してしまう事に罪悪感を覚え、心と身体が支離滅裂としてしまい、変に疲れてしまった。
 伊吹とどんな顔をして会えば良いのか、何でて話せば良いのか、伊吹は自分の事をどう思うのか、嫌われたかもしれない、等と彼是考えてしまい、情緒が不安である。

「朝食の前に湯浴みをしましょう」

 伊吹は春岳を心配しつつ、湯殿へ向かうのだった。
 昨夜の事は何も言わず、見た目は、いつもの調子な伊吹。
 だが内心では、どう思っているのだろう。
 解らない。
 春岳は不安に思いつつも、伊吹に連いて歩くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。 代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。 謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...