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23話
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「いやぁ、これはこれはお美しい。今井殿の新しい小姓かな? 今井殿には千代も居るのに彼も隅に置けませんなぁ」
春岳を見るなり何を思ったのか陽気に笑い出す使者。
「この装いは、そんなに下品な物でしたか?」
千代に任せたのが悪かったのか。
この装いは色小姓の様に見えただろうか。
「所で今井殿が見当たりませんな。どうされたのですか?」
キョロキョロと伊吹を探す使者。
「無理が祟って倒れましたので、寝かせています。此方へ」
春岳は使者を客間に案内する。
「疫病等が流行って人手が足りないと聞いています。今井殿は助けを求める事が苦手な様だ。我が殿は此方に何人か人手を貸そうと申したのだが…… 今一度、検討されては?」
そう言ってくれる客人。
「そうですね…… 断ったのなら伊吹にも何か思いが有っての事でしょうから。私からもお断りしておきます。疫病も、もう時期収まりますので人手も戻って来るでしょう」
断る春岳。
伊吹が信頼出来無いと思ったのか、解らないが、何方にしろもう直ぐ病は終息するであろう。
「そうですか…… あの、もしかして春岳様でいらっしゃいますか?」
やっと気づいたらしい客人。
「そうですね。私が田方春岳です」
改めて名前を名乗る春岳。
よく考えれば、直ぐ名前を名乗るのだった。
「こ、これは大変失礼を致しました」
使者は深々と頭を下げる。
「気にしないでください」
春岳は、フフっと笑ってみせる。
城主には成り立てホヤホヤであるので、見えなくても仕方ない。
「いやぁ、しかしお美しい。まるで南国の海の様ですな」
「そんな風に言われたのは初めてですね」
容姿を褒めてくれる客人。
氷の様だと言われた事は有が……
「そちらの国は貿易が盛んなのですか? ここは山に囲まれていますし、海はあまり見たことが有りません。それこそ南国の海等、想像も出来ません」
南国との海と、この国の海では、何か違うのだろうか?
「南国の海には、珊瑚と言うそれはそれは綺麗な植物や、貝に真珠等が取れるのです。春岳様にお似合いでしょうな。此方がその献上品です」
使者は小さな箱を春岳に差し出す。
開けると、白い玉が入っていた。
「お薬ですか?」
随分と綺麗な薬だ。
「これが真珠です。主に装飾品に使います」
薬では無かったらしい。
「ほう、こんな綺麗な物を頂いてしまって…… 我領土に特産物はこれと言って有りませんし、お返しに何を渡したら良いやら……」
「一晩泊めて頂くお礼でございます」
「そう言う訳に行きません」
きっと、とても珍しく貴重な物である。
それが一晩泊めるだけでは割に合わなすぎる。
春岳は何かないかと頭を捻らせた。
「ああ、そうだ。貴方は良く旅をする方な様ですし、これはどうでしょうか?」
春岳は胸元から薬入れを取り出して渡した。
「これは?」
「私が調合した薬なのですが、良く効くと評判だったので。これが胃薬、これは頭痛薬、これは切り傷や擦り傷に、あと、これは消毒で、こっちが毒消しです」
自分は忍びの里でも一番の薬作り名人である。
「ほう、これは興味深いですな。ちょうど来るときに木が足に刺さって傷つきましたので、試してみます」
「えっ! なぜ直ぐに言わないのです!! 破傷風にでもなったら大変ですよ。直ぐに綺麗な水で洗いましょう」
胡座を崩した使者の足には布が巻いてある。血が滲んでいた。
慌て春岳は井戸の水を汲みに向かうのだった。
「そんな大袈裟にしないで下さい。放っておいても直ぐに治るので」
呑気な事を言う客人。
「切り傷擦り傷を舐めないで下さい!」
「もう唾をつけちゃいましたよ」
「そっちの舐めるなじゃないんですよ! 侮るなと言ってるんです!」
春岳は桶に汲んだ水に男の足を浸し、洗ってやる。
綺麗に消毒し、包帯を巻いてやるのだった。
念の為に、破傷風を防ぐ飲み薬も飲ませる。
「春岳様は医学の知識もお有りなのですね」
ほーうと、感心した様に見つめる客人。
「ええ、まぁかじった程度ですが」
「ご謙遜を、痛みが消えました」
「それは思い込みですね」
そんな直ぐに痛みが消える訳ないなだろう。
春岳はフフと笑ってしまうのであった。
春岳を見るなり何を思ったのか陽気に笑い出す使者。
「この装いは、そんなに下品な物でしたか?」
千代に任せたのが悪かったのか。
この装いは色小姓の様に見えただろうか。
「所で今井殿が見当たりませんな。どうされたのですか?」
キョロキョロと伊吹を探す使者。
「無理が祟って倒れましたので、寝かせています。此方へ」
春岳は使者を客間に案内する。
「疫病等が流行って人手が足りないと聞いています。今井殿は助けを求める事が苦手な様だ。我が殿は此方に何人か人手を貸そうと申したのだが…… 今一度、検討されては?」
そう言ってくれる客人。
「そうですね…… 断ったのなら伊吹にも何か思いが有っての事でしょうから。私からもお断りしておきます。疫病も、もう時期収まりますので人手も戻って来るでしょう」
断る春岳。
伊吹が信頼出来無いと思ったのか、解らないが、何方にしろもう直ぐ病は終息するであろう。
「そうですか…… あの、もしかして春岳様でいらっしゃいますか?」
やっと気づいたらしい客人。
「そうですね。私が田方春岳です」
改めて名前を名乗る春岳。
よく考えれば、直ぐ名前を名乗るのだった。
「こ、これは大変失礼を致しました」
使者は深々と頭を下げる。
「気にしないでください」
春岳は、フフっと笑ってみせる。
城主には成り立てホヤホヤであるので、見えなくても仕方ない。
「いやぁ、しかしお美しい。まるで南国の海の様ですな」
「そんな風に言われたのは初めてですね」
容姿を褒めてくれる客人。
氷の様だと言われた事は有が……
「そちらの国は貿易が盛んなのですか? ここは山に囲まれていますし、海はあまり見たことが有りません。それこそ南国の海等、想像も出来ません」
南国との海と、この国の海では、何か違うのだろうか?
「南国の海には、珊瑚と言うそれはそれは綺麗な植物や、貝に真珠等が取れるのです。春岳様にお似合いでしょうな。此方がその献上品です」
使者は小さな箱を春岳に差し出す。
開けると、白い玉が入っていた。
「お薬ですか?」
随分と綺麗な薬だ。
「これが真珠です。主に装飾品に使います」
薬では無かったらしい。
「ほう、こんな綺麗な物を頂いてしまって…… 我領土に特産物はこれと言って有りませんし、お返しに何を渡したら良いやら……」
「一晩泊めて頂くお礼でございます」
「そう言う訳に行きません」
きっと、とても珍しく貴重な物である。
それが一晩泊めるだけでは割に合わなすぎる。
春岳は何かないかと頭を捻らせた。
「ああ、そうだ。貴方は良く旅をする方な様ですし、これはどうでしょうか?」
春岳は胸元から薬入れを取り出して渡した。
「これは?」
「私が調合した薬なのですが、良く効くと評判だったので。これが胃薬、これは頭痛薬、これは切り傷や擦り傷に、あと、これは消毒で、こっちが毒消しです」
自分は忍びの里でも一番の薬作り名人である。
「ほう、これは興味深いですな。ちょうど来るときに木が足に刺さって傷つきましたので、試してみます」
「えっ! なぜ直ぐに言わないのです!! 破傷風にでもなったら大変ですよ。直ぐに綺麗な水で洗いましょう」
胡座を崩した使者の足には布が巻いてある。血が滲んでいた。
慌て春岳は井戸の水を汲みに向かうのだった。
「そんな大袈裟にしないで下さい。放っておいても直ぐに治るので」
呑気な事を言う客人。
「切り傷擦り傷を舐めないで下さい!」
「もう唾をつけちゃいましたよ」
「そっちの舐めるなじゃないんですよ! 侮るなと言ってるんです!」
春岳は桶に汲んだ水に男の足を浸し、洗ってやる。
綺麗に消毒し、包帯を巻いてやるのだった。
念の為に、破傷風を防ぐ飲み薬も飲ませる。
「春岳様は医学の知識もお有りなのですね」
ほーうと、感心した様に見つめる客人。
「ええ、まぁかじった程度ですが」
「ご謙遜を、痛みが消えました」
「それは思い込みですね」
そんな直ぐに痛みが消える訳ないなだろう。
春岳はフフと笑ってしまうのであった。
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