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17話
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城に戻った頃にはぐったりしてしまった伊吹。
人に支えながら馬に乗るなど大人になって初めての経験である。
ちょっと酔ってしまった。
「大丈夫ですか伊吹?」
「駄目です。休ませて下さい。他の人を呼びますので、それに食事と湯浴みの準備をさせますので……」
今にも吐きそうな伊吹はパンパン手を叩くと、自分が面倒を見ている小姓を呼んだ。
昨夜、閨にやって追い出されて来た小姓だが、今はこの子しか居ないので我慢して欲しい。
流行病と、言うか、毒物騒ぎで城の大半の者は病にかかって亡くなってしまったり、病床に伏せっていたり、暇を出してくれと頼まれて家に返してしまった。
本当はこの小姓にも暇を出してやろうとしたのだが、孤児で行くところが無いと言うので置いている。
暇を出した者も流行病が治まってから呼び戻しはしたのだが、まだ村で流行していて信じられなかったのか、家族に感染者が出て看病している者も居て、人手は戻っていない。
村の病が治まれば、多分戻って来てくれるだろう。
病床に伏せっている者も元気になれば戦力になってくれるはずである。
城の中もそれなりに賑やかさを取り戻す筈だ。
だが、今は殆ど城内の事は伊吹が回しているし、実は炊事洗濯お掃除等も、伊吹が率先してやっていた。
城の守りを固める兵士たちを間引く訳にも行かず、仕方ないのだ。
女手が足りない状態で伊吹にシワ寄せが来ていた。
そんな所に現れたのが話しの聞かない鉄砲玉の様な新しい主だった。
春岳に振り回された伊吹はもう限界を超えてしまっていたのだ。
「あっ……」
意識が遠のき、足元がおぼつかなくなる伊吹。
「おい、伊吹!?」
「今井様!?」
慌てる春岳と、呼ばれて飛んできた小姓。
「あー、ちょっと目眩がしただけだ。お前は殿のお世話をしてくれ。殿、千代…… ああ……」
伊吹を支える春岳だが、ズシッと腕に重みを感じる。
完全に気を失ってしまった様だ。
「熱が出ている。もしかして毒物の影響が遅れて出たのかもしれない」
体温が高い事に気づいた。
井戸の毒物の影響が今更出てきたのか!?
「今井様は一人で欠けた分の人数を補っておいででしたので、いつか倒れてしまわれると千代も心配しておりました」
小姓は倒れた伊吹を心配し、顔を青ざめさせていた。
「伊吹の部屋は何処だ」
小姓に聞き、伊吹の部屋へと案内させる。
他の場所は全部聞いたと言うのに……
よく考えたら俺は伊吹の部屋も知らなかった。
何でもっと伊吹を気にかけて話をしなかったのかと、春岳は酷く悔やむのだった。
人に支えながら馬に乗るなど大人になって初めての経験である。
ちょっと酔ってしまった。
「大丈夫ですか伊吹?」
「駄目です。休ませて下さい。他の人を呼びますので、それに食事と湯浴みの準備をさせますので……」
今にも吐きそうな伊吹はパンパン手を叩くと、自分が面倒を見ている小姓を呼んだ。
昨夜、閨にやって追い出されて来た小姓だが、今はこの子しか居ないので我慢して欲しい。
流行病と、言うか、毒物騒ぎで城の大半の者は病にかかって亡くなってしまったり、病床に伏せっていたり、暇を出してくれと頼まれて家に返してしまった。
本当はこの小姓にも暇を出してやろうとしたのだが、孤児で行くところが無いと言うので置いている。
暇を出した者も流行病が治まってから呼び戻しはしたのだが、まだ村で流行していて信じられなかったのか、家族に感染者が出て看病している者も居て、人手は戻っていない。
村の病が治まれば、多分戻って来てくれるだろう。
病床に伏せっている者も元気になれば戦力になってくれるはずである。
城の中もそれなりに賑やかさを取り戻す筈だ。
だが、今は殆ど城内の事は伊吹が回しているし、実は炊事洗濯お掃除等も、伊吹が率先してやっていた。
城の守りを固める兵士たちを間引く訳にも行かず、仕方ないのだ。
女手が足りない状態で伊吹にシワ寄せが来ていた。
そんな所に現れたのが話しの聞かない鉄砲玉の様な新しい主だった。
春岳に振り回された伊吹はもう限界を超えてしまっていたのだ。
「あっ……」
意識が遠のき、足元がおぼつかなくなる伊吹。
「おい、伊吹!?」
「今井様!?」
慌てる春岳と、呼ばれて飛んできた小姓。
「あー、ちょっと目眩がしただけだ。お前は殿のお世話をしてくれ。殿、千代…… ああ……」
伊吹を支える春岳だが、ズシッと腕に重みを感じる。
完全に気を失ってしまった様だ。
「熱が出ている。もしかして毒物の影響が遅れて出たのかもしれない」
体温が高い事に気づいた。
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「今井様は一人で欠けた分の人数を補っておいででしたので、いつか倒れてしまわれると千代も心配しておりました」
小姓は倒れた伊吹を心配し、顔を青ざめさせていた。
「伊吹の部屋は何処だ」
小姓に聞き、伊吹の部屋へと案内させる。
他の場所は全部聞いたと言うのに……
よく考えたら俺は伊吹の部屋も知らなかった。
何でもっと伊吹を気にかけて話をしなかったのかと、春岳は酷く悔やむのだった。
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