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16話
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「そもそも殿には予定というものが御座います。勝手な行動をされては困るのです」
「そうですよね。申し訳ありません」
「謝って頂かなくて結構です。ですが、解って頂きたい」
「はい」
「殿には覚えて頂かなければならない事が沢山有るのですよ。まずは勉強をして頂きたいです。それから鍛錬です。それと近隣の城との交流等も有るのです」
「はい、全部ちゃんとします……」
「良いですか? 我が城は交通の難所に御座いますゆえ、頻繁に休憩所となります。今日も、とある城の殿様が休憩される予定です。ちゃんと饗して頂かなければなりません。饗しての教養等も覚えて頂かなければならなかったのです。服だって仕立てなければならないし、色々やる事が有りました」
「それは…… 本当に申し訳ありませんでした」
「謝って頂かなくて結構です。本当に殿と来たら私の言葉など聞かずに走り出されて、殿には私の姿は見えないのでしょうか?」
「そんな事は有りません。見えてます」
「そうでしょうかね? 朝食だって準備しましたのに。今頃は冷え切ってしまっているでしょう」
伊吹は移動中、ずっとグチグチと文句を言ってくる。
もの凄く怒っているのが解った。
謝っているのだが、今は、伊吹の方こそ俺の言葉を聞いていない。
だが悪いのは俺だ。
「すまなかったです伊吹。反省しています」
そう、本当に反省している。
思い立ったが吉日と直ぐに動いてしまうのは、自分の長所で有り短所でもある。
「言葉だけの謝罪などいりません。私がお嫌でしたら世話役を他の者と変わりましょうか?」
伊吹はもう臍を曲げてしまっている様子だ。
「私は伊吹がいい。他の者と変わるなんて意地悪言わないで下さいよ」
確かに伊吹を蔑ろにしてしまった気はする。
だが、今は村の毒物騒ぎも気になるし、小さいとは言え自分の納める国が気になったのだ。
村人は皆笑顔で良い人達ばかりだった。
お医者様もご高齢では有るが、気さくでちゃんとした知識も有る。
一安心出来た。
だけど、伊吹の話もちゃんと聞くべきであった。
それも自分の務めだ。
反省しよう。暫くは城で伊吹の話でも聞いて大人しくしていよう。
これ以上、怒らせると本当に自分の側を離て行きかねないと思った春岳。
それは本当に困る。
村の水質調査はしなければいけないが、それだけなら人目を盗んでサッとしてサッと戻れば良い。
「えっと、明日からはちゃんと伊吹の言う通りに大人しく勉強しますし、鍛錬もしますし、お稽古もしますから、機嫌をなおしてください」
そう春岳は殊勝に言う。
眉をハの字にし、本当に申し訳無さそうな表情を見せた。
「……解りました」
溜息をつく伊吹。
取り合えず、お許しが出てた様である。
ホッと胸をなで下ろす春岳だ。
「良かった。伊吹も馬に乗って下さい。ほら」
「うわっ!」
馬を引いていた伊吹に手を伸ばし、引き上げる春岳。
「この馬はガッシリしているし、重量は収まっているでしょ?」
「で、ですが、安定しませんゆえ、万が一落馬でもされますと……」
春岳に抱きかかえられる形になり、慌てる伊吹。
主に抱きかかえられる等、家臣として有ってはならないし、正直にこんな体制は怖い。
「大丈夫ですよ。私が支えてあげますから。客人をもてなすのでしょう? 早く城に戻らなければ」
伊吹がイラッいているのは時間を気にしているのだと思った春岳。
早く戻れたら機嫌も治るだろうと思ったのだ。
「支えるのは私の役目で……」
「ハイッ」
春岳は手綱を力強く握ると、馬を走らせる。
「うわっ、ちょっと、殿! 止めて下さい殿ー! ドウ! ドウ!」
結構な速さを出すものだから、伊吹は慌てて馬を止めようとする。
しかし、流石伊吹が調教した馬。
手綱を握る春岳を操り手と認識し、伊吹の言う事は聞いてくれない。
「ほう、いい馬ですね。私の馬も伊吹に調教を頼みましょうか」
春岳は気分良く、フフっと微笑む。
颯爽と山道を駆けるのであった。
主である自分より春岳の言う事を聞かれて、伊吹はムッとなってしまう。
あんなに可愛がって手入れしてあげてたのに!
どいつもこいつも俺の言うことなんて誰も聞かないんだから!
と、どんどんと更に捻くれて行く伊吹であった。
「そうですよね。申し訳ありません」
「謝って頂かなくて結構です。ですが、解って頂きたい」
「はい」
「殿には覚えて頂かなければならない事が沢山有るのですよ。まずは勉強をして頂きたいです。それから鍛錬です。それと近隣の城との交流等も有るのです」
「はい、全部ちゃんとします……」
「良いですか? 我が城は交通の難所に御座いますゆえ、頻繁に休憩所となります。今日も、とある城の殿様が休憩される予定です。ちゃんと饗して頂かなければなりません。饗しての教養等も覚えて頂かなければならなかったのです。服だって仕立てなければならないし、色々やる事が有りました」
「それは…… 本当に申し訳ありませんでした」
「謝って頂かなくて結構です。本当に殿と来たら私の言葉など聞かずに走り出されて、殿には私の姿は見えないのでしょうか?」
「そんな事は有りません。見えてます」
「そうでしょうかね? 朝食だって準備しましたのに。今頃は冷え切ってしまっているでしょう」
伊吹は移動中、ずっとグチグチと文句を言ってくる。
もの凄く怒っているのが解った。
謝っているのだが、今は、伊吹の方こそ俺の言葉を聞いていない。
だが悪いのは俺だ。
「すまなかったです伊吹。反省しています」
そう、本当に反省している。
思い立ったが吉日と直ぐに動いてしまうのは、自分の長所で有り短所でもある。
「言葉だけの謝罪などいりません。私がお嫌でしたら世話役を他の者と変わりましょうか?」
伊吹はもう臍を曲げてしまっている様子だ。
「私は伊吹がいい。他の者と変わるなんて意地悪言わないで下さいよ」
確かに伊吹を蔑ろにしてしまった気はする。
だが、今は村の毒物騒ぎも気になるし、小さいとは言え自分の納める国が気になったのだ。
村人は皆笑顔で良い人達ばかりだった。
お医者様もご高齢では有るが、気さくでちゃんとした知識も有る。
一安心出来た。
だけど、伊吹の話もちゃんと聞くべきであった。
それも自分の務めだ。
反省しよう。暫くは城で伊吹の話でも聞いて大人しくしていよう。
これ以上、怒らせると本当に自分の側を離て行きかねないと思った春岳。
それは本当に困る。
村の水質調査はしなければいけないが、それだけなら人目を盗んでサッとしてサッと戻れば良い。
「えっと、明日からはちゃんと伊吹の言う通りに大人しく勉強しますし、鍛錬もしますし、お稽古もしますから、機嫌をなおしてください」
そう春岳は殊勝に言う。
眉をハの字にし、本当に申し訳無さそうな表情を見せた。
「……解りました」
溜息をつく伊吹。
取り合えず、お許しが出てた様である。
ホッと胸をなで下ろす春岳だ。
「良かった。伊吹も馬に乗って下さい。ほら」
「うわっ!」
馬を引いていた伊吹に手を伸ばし、引き上げる春岳。
「この馬はガッシリしているし、重量は収まっているでしょ?」
「で、ですが、安定しませんゆえ、万が一落馬でもされますと……」
春岳に抱きかかえられる形になり、慌てる伊吹。
主に抱きかかえられる等、家臣として有ってはならないし、正直にこんな体制は怖い。
「大丈夫ですよ。私が支えてあげますから。客人をもてなすのでしょう? 早く城に戻らなければ」
伊吹がイラッいているのは時間を気にしているのだと思った春岳。
早く戻れたら機嫌も治るだろうと思ったのだ。
「支えるのは私の役目で……」
「ハイッ」
春岳は手綱を力強く握ると、馬を走らせる。
「うわっ、ちょっと、殿! 止めて下さい殿ー! ドウ! ドウ!」
結構な速さを出すものだから、伊吹は慌てて馬を止めようとする。
しかし、流石伊吹が調教した馬。
手綱を握る春岳を操り手と認識し、伊吹の言う事は聞いてくれない。
「ほう、いい馬ですね。私の馬も伊吹に調教を頼みましょうか」
春岳は気分良く、フフっと微笑む。
颯爽と山道を駆けるのであった。
主である自分より春岳の言う事を聞かれて、伊吹はムッとなってしまう。
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と、どんどんと更に捻くれて行く伊吹であった。
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