【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

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13話

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 伊吹がやっと城まで戻って来た頃。
 春岳は、既に患者達に薬を飲ませ終えていた。
 そして、自分の夕食まで済ませ、のほほん読書をしていた。

「あれ? 伊吹、遅いじゃありませんか。何処で油を売ってたんですか?」

 帰って来た伊吹を見て、叱る春岳。
 
「申し訳ありません」

 伊吹は土下座で謝る。

「そこまで怒ってませんから土下座は止めて下さい」

 本当に怒ってはいない。
 ちょっと帰りが遅いから心配してしまっだたけである。

「伊吹、湯浴みがしたいてす」

 全部一人で済ませた春岳であるが、湯浴みだけは伊吹にも一理あるので、そこは折れてやる事にした。
 だが付き添いは伊吹以外は嫌なので、待っていたのだ。

「は、はい、湯浴みですね! 直ぐに準備致します!」
「いえ、貴方が夕食を食べてからで……」

 伊吹は腹を空かせて帰って来たばかりだろう。
 ゆっくりしてからでも良いと言いたかったのだが……
 伊吹は、もう行ってしまっていた。
 本当に真面目な男だと、フフっとしてしまう春岳であった。




 伊吹は春岳の湯浴みを手伝った後で、夕食を取り、自分も水浴びをした後、今日は沢山走らせてしまった愛馬の手入れしていた。
 春岳は、もう寝所に連れて行った。

 今日は本当に何の役にも立てなかった。
 ちゃんと側付きとしての仕事が出来なかった事に、伊吹は落ち込んでいた。
 春岳は何でも一人でしてしまうし、出来てしまう。

 俺なんて要らないんだろうなぁ。

 自分の存在意義が薄れる。
 今までしてきた鍛錬や勉強も、何の意味も無かった様で、虚しさに襲われてしまうのだ。



「……今井様、申し訳ありません」

 不意に声をかけられ振り向く。
 見れば春岳の夜の世話をするようにと寝所に向かわせた色小姓である。

「どうした? 殿に何か有ったか?」
「要らないと断られ、部屋からも追い出されてしまいました。部屋の外で待機しようとも思ったのですが、気配が気になって眠れないと申されて……」

 色小姓は伊吹の出した命令を守れず、申し訳無さそうな顔をしている。

「解った。お前は、もう寝なさい」

 色小姓にそう命じれば、トボトボと去って行く。
 今日はお疲れで気分では無かったのだろうか。
 それとも彼が好みでは無かったのか?
 明日、殿に確かめてみなければ。
 伊吹は、そんな事を考えながら、馬の世話を続けるのだった。
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