【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

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12話

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 村まで戻って来た春岳は医者の家に向かった。

「ごめんください」
「はーい。おや? もう帰って来たのかや?」

 コンコン戸口を叩かれ、出ると昼前に来た男である。
 往復人の足で一日はかかる山を、どうやら五時間ぐらいで戻って来た春岳に驚く医者。

「今井様が後を追いかけて行ったのじゃが、すれ違ってしまったか?」
  
 少し怪しみつつ尋ねる医者。

「いえ、ちゃんと用事が済んで戻る事を伝えたので大丈夫です。言伝有難うございました」
「いやいや」

 もしや、この人も山城に務めておいでなのだろうか。
 城使えの薬剤師様か。
 流行り病で城の者も寝たきりになっておると聞くし、雇われたのかも知れない。

「それで薬草を調合したいのですが、道具を使わせて頂きたいのです」
「薬剤師さんだと言うのに道具は無いのか?」

 やはり、少し怪しいのぅ。

「色々ありまして越して来たばかりでして……」

 勿論、春岳も里に行けば自分愛用の物が有る。
 後から送ってもらうか取りに行けば良いと思い、今は置いて来てしまった。
 こんなにすぐ薬草を調合しなければいけない事態になるなんて思って無かったのだ。
 あれは流石に重いので、馬にでも持たせなければ難しい。

「そうなのか、それはお困りじゃろう。どうぞお入り。患者は離れにおるから安心して良い。儂は看病が有るので手伝えないがのう」

 怪しいが、困っている者を放っておけない性分の医者。
 春岳を中に入れてくれる。
 もし本当に薬剤師で薬を作って貰えるなら有り難い事である。

「有難うございます。直ぐに調合します」

 春岳は医者の家にお邪魔させてもらい、一式揃った道具を貸して貰うと、早速、買い集めた薬草をすり潰し、調合をはじめた。

「ほう、流石は薬剤師さんじゃ。慣れたもんじゃのう。手際が良いわい。儂以外にこの村に医学に精通した者はおらんかったからのぅ。若い人が来てくれて助かるわい」

 ホホと医者は嬉しそうに言い、春岳の側を離れると患者の看病に向かった。

 手際は良いので本当に薬剤師であると信じたのだ。



 春岳は、ものの一時間で調合を済ませた。
 早速、医者を呼んで患者に与える様にと指示を出す。
 城の患者の分は春岳が持つ。

「これで治れば良いのだが……」

 医者は半信半疑であったが、藁にも縋る思いで薬を受け取った。
 年の為に小指に付けて舐めてみるが、危険な内容物は無さそうである。

「お医者様もお疲れのご様子。どうぞご自愛下さいませ。私、お手伝いに来ても良いですか?」

 村唯一の医者だと言うし、大変そうだ。
 流行病の対応を一人でしていたのだろう。
 目の下に隈が出来ていた。
 寝れていないのかもしれない。
 春岳は心配である。
 出来るだけ手伝いに来れたらと思った。

「有り難い言葉じゃ。また薬を調合して頂けると助かる」
「薬の事は私にお任せ下さい」
 
 フフっと微笑む春岳。
 医者も笑顔を返す。

「では私はこれで、この薬を城に持っていかなければ」
「おお、そうじゃな。城でもまだ患者がおるからのぅ。そうか。やはり、お主は城の薬剤師様であったか」
「いえ、そう言う訳では有りません」

 変に気を使われても嫌だと思い、首を振る春岳。
 折角ただの村人の変装しているのだから、ただの村人だと思われなければ意味が無い。
 伊吹は既にバレてしまったみたいだが……
 急を要していたので手を抜き過ぎたな。
 俺とした事が……
 まぁ、伊吹はバレても良いか。
 春岳はそんな事を考えながら、急いで城に戻るのだった。

 残された医者は首を傾げる。
 では、何なのだろう?
 まぁ、悪い人では無さそうだから良いかと、仕事に戻るのだった。
 早速、患者に薬を与えよう。
 これで症状が治まり楽になってくれたら良いのだが……


 城まで戻る春岳は、そう言えば伊吹はどうなったんだろうと、不思議に思った。
 全然来なかった。
 

 春岳は伊吹の事をすっかり忘れていたが、医者の所に寄ると伝えなかったので、伊吹は城まで真っ直ぐ戻ってしまい、春岳が戻って無い事に慌てて村に引き返していた。 
 そして城に急ぐ春岳はその伊吹と擦れ違ったのだが、春岳は道では無い雑木林を近道に選んだ為に気づかなかったのだ。

 兎に角必死に馬を走らせる伊吹であった。
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