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 旅行から帰ってきた後も、前より三人で何かをする事が増えて来た。
 二人が割と何処でも出来る仕事だったりするので、俺さえ時間を合わせられれば個室で話し合ったり、仕事したり出来た。
 二人が通うスポーツジムを教えて貰い、通うようにもなった。
 以前はバンドとしての仕事や練習、ライブが終わったら現地解散がデフォルトであったが、今では現地解散の方が稀になった。
 ただ、三人で個室で過す時間は増えたが、アルコールを口にしてしまうと雪那さんは寝てしまうし、月さんはキス魔になってしまうという悪癖がある。
 えらい目にもあっているので、アルコール類は禁止にした。
 二人には「俺の居ない所で二人きりで呑んで下さい」と、念をおしている。
 雪月の民は俺に感謝して欲しいものだ。
 だが、どうも花蓮としては雪月の民から当りが強い。 

 雪那さんも月さんも頻繁にSNSを更新している。
 ファンサーもマメな有り難い方々なのだ。
 今まで雪月は二人で行動する事がお多く、そんな写真も良く上げてくれていた訳である。
 しかし花蓮がバンドとしての活動だけでは無く、プライベートまで一緒に写り込む様になってしまったのだ。
 そりゃあ憎まれるよなぁ。
 なんか邪魔な赤髪が混ざり込んでるだもんなぁ。

 雪月の民からのヘイトが物凄く自分に集まっている。
 二人に絡むのを自重しようかとも思うのだが、喜んで俺を仲間に入れてくれて、「一緒に行こうよタマ」「タマも一緒がいいぜ!」なんて明るい笑顔で言われて断れる人が居たらお目にかかりたいものだ。
 俺だって雪月の民なんだ。
 俺が間に入って絵面的にも邪魔してるって解ってるんだよ!
 何だこのジレンマ。
 辛すぎる!

「タマ、もう僕達、一緒に住まない?」
「ええええ!!??」

 急に何を言い出すんですか月さん!?


 今日もライブ練習を終え、その後の予定も無かったので、いつものラウンジで夕食にしていた。
 勿論、俺は断固として二人にアルコールは呑ませていない。
 たから酔った戯言では無いと思う。
 
「話し聞いて無かった?」

 ムッとして俺を見据える月さん。
 ごめんなさい。
 雪月花のメンバーとしての俺と、雪月の民としての俺のジレンマにモウモウとしてました。
 そう、多分、聞いてなかった。

「一緒に住めば酒も呑めるし、時間を気にしなくて良いし、もっと気楽に三人で過ごせるでしょ?」
「は、はぁ……」
「場所はタマの家の近くにしよう」
「いや、あの……」
「防音にするよ。練習も仕事も出来る家を建てるよ!」
「本気ですか?」
「大丈夫。僕はお金持ちだよ」
「知ってますよ」

 月さんなら都内だろうと何処でも直ぐに立派な戸建てを建設出来るだろうけど……
 かなりの資産を有しているみたいだし。

「俺も出資するぜ!」

 雪那さんも乗り気なのか。
 まぁ、雪那さんはあまり月さんの言う事に首を振らないからな。

「それなら俺も出資しますけど…… いや、流石に駄目です! 同棲するならお二人でしてください!」

 危うく首を縦てに振るところだった。
 アブナイアブナイ。
 流石にこれ以上の事をしては雪月の民に刺される。
 三人で暮らすなんて駄目だ駄目だ!
 絶対無理。
 
「えー駄目? どうしても?」

 上目遣いで手を握ってくる月さん。
 月さんは甘え上手だ。
 その目は弱い。

「だっ、駄目です」

 何とか駄目を捻り出した俺を誰か褒めてくれ。

「じゃあ逆に聞くが、何が駄目なんだ?」
「うう……」

 雪那さんが質問してくる。
 何が駄目かと言われると難しい。
 だって、駄目な事なんて何もない。
 良いことしかない。

「この前三人で旅行して一泊した時だって自然体で三人とも楽しめただろ? 一泊して問題無いんだ、同棲したって問題ないだろう」
「話が飛躍し過ぎですよ」

 確かに楽しかったけど、一泊出来るんだから同棲しようは発想がぶっ飛び過ぎだ。


「じゃあ何が問題なわけ? ハッキリ言ってよ。実は僕達が嫌いなの?」
「嫌いなわけないでしょ! 大好きですよ!」
「じゃあ問題ないよね? もう場所には目星をつけてるんだよ」
「だっ、駄目ですってばぁ!」
「何が駄目なんだよ」

 強引な月さんと雪那さんに押され、俺はもうなんか泣きそうになってきた。
 二人で責めなくても……

「だ、だって、酒飲むと雪那さんは寝ちゃうし、月さんがいっぱいキスしてくるんですもの……」

 もう、他に理由らしい理由も無かったので、言い訳を口にした。
 月さんは困るが、ただ寝てしまうだけの雪那さんは言い掛かりだろう。
 でも、だって、雪月の民に刺される。

「おい、待てよ月。いっぱいキスするって何だ??」
「月さんキス魔だそうで。きっと雪那さんは寝てしまうので解らないんですよ。きっと寝てる雪那さんにもいっぱいキスしてます」
「そうなのか!?」

 流石に恥ずかしくて赤面しながら言う俺と、驚いてドン引きしている雪那さん。

「そりゃあ駄目だな。危険だ! 月、ヤベェよお前……」
 
 雪那さんは俺の手を引いてちょっと月さんから引き離す。
 月さん、今は飲酒してないから大丈夫ですよ。

「誤解だよ。雪那にはしてない!」

 慌てた様子で手を振り、濡衣だと言いよる月さん。

「じゃあタマにだけしてんのか。そっちの方がヤベェだろうがこの変態がぁ!」
「グッ……」

 雪那さんは月さんから俺を守る様に抱きしめる。
 月さんは言葉を詰まらせた。
 不味い、なんか俺のせいで月さんが雪那さんに責められている。
 やめて、月さんを怒らないで!
 きっと、雪那さんにもチュチュしてるのバレたく無かったんだよ。
 俺の失言だった。
 月さんには申し訳ない。

「いくらタマが好きだからって、キス魔だなんて騙してキスしまくるってのは殆ど犯罪だぞ、親友として黙ってられない!」

 激昂している雪那さんは月さんを叱りつけるが、どうも変な誤解をしていみたいだ。

「あの、誤解で……」
「そうだね。雪那が言う事が正しい」

 誤解を解こうと口を開いたというのに、月さんが認めてしまった。

 はぁ??

 意味が解らな過ぎて二人を交互に見てしまう。

「タマ、ごめんね。本当はタマが好きだからキスしたくてキスしたんだ」
「は、はぁ…… いや、あの……」

 だから、好きな人ならだれ彼構わずキスしてしまうのがキス魔では??
 
「困らせたよね。ごめんね」 
「いえ……」
「こんな僕でも幻滅しないで今まで通りで居てくれる?」
「勿論ですよ!」
「良かったぁ」

 月さんはホッとした様子で俺を抱きしめる。

「おいよせ、変態! タマが許しても俺は許さないからな! タマもタマだ。こんなの許したら次は何されるか解ったもんじゃねぇよ!」

 雪那さんも俺を抱きしめたままなので、二人で引き合いになっしまった。
 やめて、私の為に争わないで!
 みたいな状態だ。

「もう絶対タマの許可なしにキスしないから! キス以上の事だってまだしないから!」
「ほら見ろ、コイツ反省してねぇよ!」
「まぁまぁ良いじゃないですか。酒を呑まなければ問題無いんですから」
「じゃあ三人で暮らそう!」
「えっと、それはちょっと……」

 結局、話が堂々巡りしている気がする。
 
 取り敢えず二人には離して貰い、ホットココアで一息ついた。
 疲れた時は甘い物が一番だなぁ。
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