BL同人誌を本人に見つかってしまった

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 早くも当日、よく晴れて行楽日和である。
 しかし、日差しが強すぎる。
 朝から30度は高い。

「今日は35度まで上がるそうですよ」

 今朝の天気予報は一日中晴れであったが、暑すぎるのは困る。

「熱中症に気をつけようね」 

 運転席の月さんはサングラスがよく似合う。
 やっぱり運転は上手い様子だ。
 手慣れていてカッコいい。
 飲み物を手渡してくれた。

「まぁ、車移動だしな。大丈夫だろう」

 雪那さんは後部座席を大きく使って寛いでいた。
 さすが普段から王子様。
 しかし、二人のラフな格好を見られるのは役得過ぎる。
 本当に二人とも素敵過ぎてドキドキする俺だ。

「疲れたら寝ていても良いからね」

 月さんは俺の寝不足を気にしている様だ。
 ちょっと張り切り過ぎて4時間ぐらしいか寝てない。
 なんせ割と緊張しぃなので、こう、昔から遠足の前の日とか眠れない。
 そして、今も眠くないから大丈夫だ。
 目はランランである。

「月さんこそ疲れたら交代しますからね」

 月さんほどの腕前は無いが、普通程度には自分も運転出来る。

「有難う。旅館も予約してくれて助かったよ」
「ええ、繁忙期ではないので。向こうも喜んでいましたよ」

 自分も久しぶりに幼馴染みに会えるので、楽しみだ。
 


 高速道路に入り、暫らく走行したが、ものすごく静かな運転だ。
 月さんは雪月花のアルバムをかけ、歌いながら運転してくれる。
 なかなか贅沢な空間が出来ていた。 
 気づけば後部座席の雪那さんは眠ってしまっている。
 もしかして雪那さんはよく眠る人なのだろうか。

「雪那さん寝てしまいましたね」
「ああ、よく目を瞑って曲を考えるんだよ。それでいつの間にか寝ちゃうんだってさ。でも起きると高速で曲を書き上げちゃうから、起きたら大変なんだよね。寝かせておいてあげて」

 ハハッと苦笑する月さん。
 さすが雪那さんは天才的だなぁと思う。

「サービスエリアに寄る? トイレ休憩にしようか」
「そうですね」

 ちょうどサービスエリアの標識を見かけ、月さんが提案する。
 まだトイレに行きたい気分でも無いが、行けば出るかもしれない。
 急ぐ旅ではないし、ゆっくり行けば良いだろう。



「雪那さん起こします?」

 サービスエリアに着いたが、雪那さんはまだ寝たままだった。
 小声で声をかけてみたが、起きない。
 体を揺すぶる等して起こして方が良いだろうか。

「無理に起こさないで大丈夫だよ。何か用が有れば車を止めた時に起きるから。今起きないならサービスエリアに用は無いんだろう。行こう」

 本当なら雪那さん器用だな。
 月さんが言うので信用し、先にサービスエリアに向かった月さんについて行く事にした。
 
 トイレに寄ってから休憩スペースに座って、少し休む。
 
「アイスでも食べます?」
「そうだなぁ。熱いしねぇ」

 サービスエリア定番のソフトクリームが美味しそうだった。
 ついつい塩味バニラを買う。
 濃厚ミルクだそうだ。
 月さんはイチゴ味を選んだ。

「冷たくて美味しい」
「うん、甘いね。一口いかが?」
「じゃあ俺のも一口」

 イチゴ味を差し出す月さんに、此方も塩バニラを差し出す。
 お互い一口ずつかじって、笑いあった。
 よく考えると間接キスになるのかな。
 急に恥ずかしくなって、視線をアイスに戻す。
 月さんは全然意識した様子はなく、高道路情報に目を向けていた。

「渋滞もなしい、人も少ない。やっぱり遠出は平日だなぁ」
「そ、そうですね」

 ハハッと笑って誤魔化した。
 この程度の事で意識してしまっているのが、恥ずかしい。
 

「戻ろうか」

 アイスを食べ終えると、月さんが言う。
 飲み物を買って車に戻る事にした。

 雪那さんにも飲み物と、つまめる軽食を買ったのだが、まだスヤスヤしていた。
 薄いブランケットをかけておく。
 暑かったら放り投げるだろう。


「月さんと雪那さんは本当に仲良しですよね」

 また歌を口ずさみながら運転を開始した月さんに話しかける。
 せっかくだし、ちょっとお話しがしたい。
 雪那さんは寝ているが、三人で来たのだから、やっぱり親睦は深めたい。

「ああ、そうかな。お互い友達なんて他にいないから気が有ったんだろうね」
「え? 雪那さんは微妙ですが、月さんは社交的じゃないですか」

 雪那さんは目つきが怖のと、纏う雰囲気が話しかけづらく見られがちだ。
 ちょっと損している。
 それは解るが、月さんは穏やかで柔らかい印象だ。
 よくスタッフとも話しているし、知り合いが多そうだが。

「うーん、知人は多いけどね。友人と呼べるのは雪那だけかな」
「そうなんですね。エモい。二人は幼馴染みですよね? やっぱり幼稚園からの仲ですか?」

 月さんの話が思いのほか掘り出し物で興奮し、ちょっと前のめりになって質問を続けてしまう。

「ああ、いつからかな。幼稚園と、言うか、パーティで知り合ったが気がするなぁ」
「ぱ、パーティですか?」
「多分、僕の誕生パーティの時だな。ピアノ演奏を披露してくれてね。なんか急に泣き出したんだよ」
「泣き出しんですか!?」
「一つ音をミスったとか、大した理由でも無かったんだけど、なんか悔しかったのかな? とにかくすごい泣いてから、僕がバイオリンを奏でて一緒にやろうみたいな事を言った気がする」  
「なにそれ、天使」

 可愛いがカンストしてる。
 思わず口をおさえた。
 二人共、天使だった。

「それからかな、よく二人で曲とか作って演奏したり歌を歌ったりしてね。自然とバンドを組む流れになったし」
「素晴らしいですね!」
「まぁ、僕達の話はこの程度で良いだろう。今度は僕がタマに聞く番だね」
「え?」
「僕に聞くだけ聞いて、自分の話はしないなんてナシだよ?」
「はい、何でも答えますが……」

 月さんの話は貴重で聞いてて楽しいが、俺の話を聞いても何も面白くないと思う。

「タマはどうして雪月にハマったの?」
「それはちょっと難しい質問ですね」

 ハマると言うか、落ちるだ。
 理由なんてものは無いに等しい。
 そこに沼が有ると知っていて、わざわざ入りに行くなんて稀だろう。
 気づいたらうっかり沼にハマっていました状態である。
 沼にハマった理由など解らない。
 理由が有るならウッカリしていただろう。

「友人に連れていかれたライブハウスでお二人を見た瞬間に恋に落ちてしまったんですよ」

 あれは衝撃的な初恋であった。
 俺がBLに落ちるなんてね。

「でも、ライブで見せる姿って別人でしょ。タマだって普段と使い分けているよね。それって、タマはライブ中の俺たちが好きで、普段の僕達は見てくれないの?」

 月さんは落ち込んだ表情になってしまう。
 俺も衝撃を受けた。

「誤解しないでください!」

 思わず声を荒らげてしまった。 
 だって、後頭部をトンカチで殴られたぐらいの衝撃だ。

「同人誌の雪月はフィクションですよ。ノンフィクションの二人の方が好きに決まっているでしょ! あれは俺の趣味で、本当に二人に生でエロ同人誌みたいな事をしてて欲しいわけじゃないんですよ。二人は親友で、お互いの結婚式で祝福し合う仲だと思ってますよ! 二人には可愛くてで優しいお嫁さんをもらうと思って疑ってません! 出来れば僕も呼んで欲しい!」

 思わず感情的になり、早口で捲し立ててしまった。
 もう、何を言っているのか考えるより先に口に出したので、余計な願望まで口走ってしまっている気がする。
 でも、言わずにはいられなかった。

「そ、そうなんだね。変な事を言ってごめんね」
「全面的に俺が悪いので、月さんは謝らないで下さい。ただ誤解して欲しく有りません。妄想と現実の区別ぐらいつけてます」  
「そっか、そうだよね……」
「BLなんて殆どファンタジーなんですよ公式がBLな展開になるなんて思ってないから描くわけです」   

 説明してみるが、きっと一般人である月さんと腐男子である俺では思考回路が違いすぎて、説明しても分かって貰えるとは思えない。
 俺さえ、俺の思考回路が良くわかっていない。
 同じ腐でも別の考えの人も居るだろう。 
 でも、俺は俺の考える雪月が公式なんて考えはまるっきり無いのである。
 だから俺の雪月と、実際の雪那さんと月さんは別だと解っている。
 それだけは解って欲しい。

「じゃあ、逆にタマは現実的なゲイみたいな関係は受け入れられないの?」
「え? 別に偏見は有りませんよ。実際は他人事ですが、お互い愛し合っているなら良いと思いますね」 

 急に話が飛びすぎな気がする。

「ふーん、タマは女性がすきなの? 初恋とかは? どんな娘が好き?」
「え、えっと、そこはシークレットにします」

 月さんに熱くなって切り替えしていたが、急な話題転換に言葉が詰まる。
 初恋とか、よく解らない。 
 多分、してない。
 いい歳して初恋もまだなんて、変な奴だと思われたくなかった。
 なんでこんな話になっているのだろうか。

「……月さんの初恋はどんなですか?」

 話題に困り、恋バナを続ける事にする。
 月さんから振ってきた訳だし、変では無いだろう。
 とにかく、何か聞かなきないけない気がして話を振っていた。

「子供の頃に別荘で出会った子かな。僕がバイオリンを奏でていたら顔を出してくれてね。着物を着ていたよ。一緒に夏祭りへ遊びに行ってね。まぁ、その日会っただけで、何処の誰だが解らないんだけど。可愛い子だったよ」
「それは可愛らしい初恋ですね」
「そうかな?」

 さすが月さん、初恋のエピソードも素敵だ。
 月はハハッと苦笑して見せるのだった。
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