(完結)魔王と従者

文字の大きさ
上 下
54 / 59

54話

しおりを挟む
 折角なので漆黒は裏柳がべた褒めしてくれた正装で裏柳をエストートしつつ何時もの食堂に向かう。
 宴と言っても、何時ものメンバーなので仮面は取っていた。
 桃も呼んだが、良いだろう。
 食堂に入ると拍手で出迎えてくれる。
 普通にいつもの場所でいつもより少し豪華な食事をするだけだがだ何だか凄く特別な感じがする。
「ご懐妊おめでとうございます」
「裏柳様おめでとうございます」
「おめでとうございます」
 と、皆お祝いの言葉を口にする。
 本当に俺、妊娠したんだ。Ωとして出来損ないの俺が、妊娠は難しい言われた俺が妊娠なんて諦めてた。段々と実感が湧いてきて裏柳は感動してポロポロ泣き出してしまう。
「裏柳、ほら主役が泣いてたら皆びっくりするだろ?」
 漆黒は裏柳の涙をハンカチで拭く。
「ごめんなさい。凄く嬉しくて……」
 他でもない漆黒の子供を身籠れた事が本当に嬉しいのだ。
 大事にしなければ。
 裏柳は自分のお腹を撫でる。
 俺の所に来てくれて有難う。
「俺も嬉しい」
 よく見たら漆黒も泣いていた。



 裏柳の懐妊は直ぐ国中に広まり、街はお祭り騒ぎである。
 毎晩花火が上がった。
 鳥や鳥族の長もお祝いに来てくれ。
 城中がお祭り騒ぎであった。
 桃を白の王国に送り返そうかどうか迷ったを漆黒だったが、桃は裏柳の世話係として残ることになった。
 ストレスは胎教に悪いと、皆裏柳の為にあれこれと気を回してくれた。
 ワニは毎日体に良さそうな料理を研究して作ってくれたし、フラミンゴはお腹がゆったりした服を沢山作ってくれた。
 漆黒も特に仕事も無く、ずっと裏柳の側に居てくれた。
 天気の良い日は外で、漆黒がバイオリンを弾いてくれ、それに合わせてに鼻歌を歌ったりもした。
 漆黒のバイオリンを聞くと、裏柳の心は和んだ。
 凄く聞き心地が良くて、懐かしい気持ちになる。
 何も思い出せないが。
 それももう苦では無かった。何も思い出せなくても、裏柳は漆黒を愛しているし、漆黒も裏柳を愛していると解るから、不安は無い。


 裏柳の妊娠も4ヶ月目に入ると少しお腹も出てきた。
 漆黒は裏柳のお腹を撫でたり、子供に話しかけたり、既に良いパパだった。
「名前は何にしようか?」
「俺と裏柳の子供だからな。黒柳とはどうだ」
「悪くないと思う」
 そんな話をして笑い合う。向こうへ帰って覚えていたら『黒柳』にしよう。
 裏柳は今、クマの縫いぐるみを作っていた。
 黒色と緑色のクマだ。漆黒と自分を表している。
 俺も忘れたくないが、漆黒にも自分を忘れて欲しく無い。
 

 そして、5ヶ月目に入った。
 もうそろそろいつ出てきても良いように白の王国に戻らないといけない。
 黒の王国で暮らすのは今夜が最後である。
 今日で裏柳が母国に帰ると知っている国民が、最後に盛大に花火を上げてくれた。
 それを裏柳と漆黒は城から見ていた。
「綺麗だな」
「ああ……」
 花火も綺麗だが、漆黒も綺麗だなと、花火を上げてくれてる国民には申し訳ないが見納めである。漆黒ばかり見てしまう裏柳。
 漆黒も裏柳を見てしまうから結局、見つめあってしまう。
「漆黒、最後にお願いが有るんだ」
「最後とか言うなよ!」 
 もう戻って来ないみたいじゃないか!!
 と、ムッとしてしまう漆黒。
「じゃあお願いが有るんだけど……」
「何だ?」
 裏柳のお願いなら何でも叶えてあげたい。
「漆黒の番にして欲しい」
 そう、懇願する裏柳。
「俺は十年後、子供と共に漆黒の元に戻って来る。その約束の証の意味でも、番にして欲しい」
 裏柳は漆黒を抱きしめる。
「……本当に良いのか?」
 番にしたらもう、後戻り出来ない。
 もし、裏柳が白の王国で好きな人が出来ても、ずっと見ず知らずの男に縛られると言う事だ。
「俺はお前しか愛さない。ここで番にしてくれないと、俺を信用してくれてないと言う意味になるぞ」
「俺はお前を信じてる」
 漆黒は裏柳を抱きしめ返す。
 盛大な花火を最後まで見る事は無く、二人は強く抱きしめ合うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

番、募集中。

Q.➽
BL
番、募集します。誠実な方希望。 以前、ある事件をきっかけに、番を前提として交際していた幼馴染みに去られた緋夜。 別れて1年、疎遠になっていたその幼馴染みが他の人間と番を結んだとSNSで知った。 緋夜はその夜からとある掲示板で度々募集をかけるようになった。 番の‪α‬を募集する、と。 しかし、その募集でも緋夜への反応は人それぞれ。 リアルでの出会いには期待できないけれど、SNSで遣り取りして人となりを知ってからなら、という微かな期待は裏切られ続ける。 何処かに、こんな俺(傷物)でも良いと言ってくれる‪α‬はいないだろうか。 選んでくれたなら、俺の全てを懸けて愛するのに。 愛に飢えたΩを救いあげるのは、誰か。 ※ 確認不足でR15になってたのでそのままソフト表現で進めますが、R18癖が顔を出したら申し訳ございませんm(_ _)m

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...