(完結)魔王と従者

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5話

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 幼い頃は、自分が出来損ないのΩである事など知らなかった。

 産まれた瞬間からΩならばΩだと分かる。
 白の王国では、Ωが自分の身を守れる様になるまで、その身を城で保護する。
 とは言っても、そこは王子である白亜を初めとする他の国の王へ嫁がせる為の教育をする場所。
 Ωにとっての箱庭であった。
 裏柳はその中でも王子の乳母兄弟とあって仲も良く、将来の王妃第一候補だった。
 王子である白亜は少し気難しく、人と仲良くする事が苦手だ。
 両親にさえ壁を作りがちだった。
 唯一気を許せるのは産まれた時から一緒であった裏柳だけ。


 あれは良く晴れた午後の事だ。
 裏柳は他のΩ達と紅茶を楽しんでいた。
 あまりこういう社交的な場所は好きになれず、距離を置いていた裏柳。
 大人達が勝手に自分を妃候補と考えている事にも気付かず、白亜の事は可愛い弟程度に見ていた。
 その日、社交場に顔を出したのは白亜のパートナーとして形だけでも付き合って欲しいと言われたからである。
 一曲ダンスを踊ると、白亜は挨拶回りに行ってしまった。
 残された裏柳は仕方なく紅茶を飲んでいる。
 いつの間にか取り巻きの様な者達が出来てしまい、裏柳の周りに集まっていた。
 矢継ぎ早に白亜の事を質問してくるし、嫉妬の様な視線にも気付いて辟易としてしまう。
 早く帰りたい。
 そんな事を思っていた時だった。
 目の端に女の子が見えた。
 見れば何かを必死に探している様子である。

「どうかしたのか?」

 つい気になって、裏柳は声をかけた。
 顔を上げた女の子は困った表情を見せる。
 凄い綺麗な子であった。
 アメジストの様な綺麗な瞳に、銀色の髪が風に揺れる度に光輝く。

「あの…… ごめんなさい」

 何故か涙目で謝られた。

「大丈夫か?」

 裏柳は心配になり、ハンカチを差し出す。

「そんな子に声をかけてはいけませんよ」
「そうです、出生も定かではない化け物の子だと噂されています」

 そう取り巻きの子達が声を上げる。
 非難的な視線を少女に向けていた。

「失礼な事を言うな。出生がどうあれ関係ない」

 裏柳は声を上げた子を叱り、女の子に手を差しのべる。

「探し物なら手伝うぞ」

 そう伝えると、何故か女の子は余計に泣き出してしまい、裏柳を困らせた。




「ん……」

 目が覚めた。
 昔の夢を見た気がする。
 あの女の子、確か名前は錫(すず)だったか。あの子、どうしているだろう。
 そういえば、彼女は何を探していたんだっけ……

「おや、目が覚めたか」
「ん?」

 声が聞こえ、隣を見る。

「うわぁ!!」

 鬼みたいな怖い顔が直ぐ側にあってビックリしてしまった。
 さっきまで可愛い女の子の夢を見ていたから尚更だ。

「気分はどうだ?」
「良いと思うか?」

 朝から心臓に悪すぎる顔である。

「今日の式は取り止めた方良いか。まぁ、良い。昨日は諦めたが、今日は頂かせて貰うぞ。さぁ、小水をくれ」
「ちょっと待ってくれ!」

 ペロンと、ネグリジェの裾を上げられそうになり、慌てて裾を押さえる裏柳。
 ちょ、直接飲む気なのだろうか。
 と言うか、下着ぐらい用意して欲しい。

「我慢出来ない。早く飲ませろ!」
「わ、解った。する。するけど直接なのか? その、コップとかに入れるのは駄目なのか?」
「直接飲んだ方が新鮮で旨いんだが……」  
「俺だって嫌だけど飲ませてやるって言ってるんだぞ。そっちも、ちょっとは譲歩しろよ」
「あ? こっちもそれなりに譲歩してるんだが? まだ小水で我慢してやるだけ有難いと思えよ。本当なら精子だって飲みたいし、身体中舐め回したい。なんならセックスが一番良いんだ。犯すぞ」

 イラっとした様に凄む漆黒。
 負けじと裏柳も睨む。

「……」
「……」

 折れたのは漆黒であった。 

「解った。グラスだな。ほら、これに入れろ」

 溜息混じりに、パッとグラスを出す漆黒。 
 それを受けとる裏柳は、まるでマジックだなぁと思ってしまう。
 そうだ。こいつは魔法使いだった。

「大きい方はどうしたら良いんだ?」
「そっちは流石に食べられないからな。小水をコップに入れて持ってきたら便器を出してやる」
「……解った」 

 全然よく解らないが、取り敢えずどちらも限界である。
 コップに入れて漆黒に渡さないと大が出来ないとあらば、さっさと小を出して来るしかないだろう。
 見ればいつの間にか部屋にトイレと書かれた扉が出来ている。
 開けて中に入ればバスルームと書かれた部屋も出来ていた。
 魔法使いとはポンポン何でも出せてしまうのか。
 便利過ぎる。

 裏柳はそんな事を思いながらグラスに己の小を溜めるのだった。

 これは健康診断と思えば何とかなる。
 これは健康診断。これは健康診断。




 スッキリさせて、なみなみ入ったグラスを漆黒に渡す。
 我慢していたせいか思いの外たくさん出てしまった。
 恥ずかしい。
 コップに並々と入ってしまった。  
 危うく溢れる所である。

「おお、流石は我が花嫁だけある。たくさん出してくれたな」 

 グラスを受け取り裏柳の頭を撫でる漆黒は嬉しそうだ。
 裏柳は赤面しつつ軽く涙目だった。
 コイツはデリカシーがなさ過ぎる。
 いくら健康診断と己を誤魔化した所で屈辱的な事にはかわりない。
 逃げる様に再びトイレかに向かう裏柳だった。
 大の方も食べる等と言われずに本当に助かった。
 さっきは無かった便器が出来ていて、裏柳はホッとして用を足すのだった。
 

 逃げる様にトイレに入った裏柳を見送った漆黒は、グラスの小水に口付ける。
 舌に転がしながら大事に飲んだ。
 最高に旨い小水である。
 ああ、まるで干上がった砂漠に降る恵みの雨。
 体の隅々にまで染み渡る気がする。
 なんて素晴らしいのだろうか。
 匂いから既に極上である。
 こんな素晴らしい小水が有って良いのだろうか。
 どんな高価なワインよりも値打ちのある小水だ。
 ああ、旨い。幸せ。
 グラスに取ってこれである。
 直に口にしたらどうなってしまうのだろう。
 逆に恐ろしい。
 そんな事を感じながらも、漆黒はちゃんと裏柳の小水から感じ取れる健康診断を忘れない。
 小水から解る事は多岐にわたる。
 大事な裏柳の健康の事だ。しっかり管理しなければ。
 裏柳の小水は若干疲れの味を感じるが、健康そのものの味であった。
 安心する。
 昨夜倒れた時に医師である鹿に見せた。
 診断結果はストレスだ。
 やはり、無理矢理連れ去られて見知らぬ場所に監禁され、風呂もビクビクしながら入っていたのだ、ストレスに感じるのも無理は無かった。
 漆黒は内心申し訳なく思いながら、裏柳を早く寝かせた。
 少しは落ち着いただろうか。
 ついさっきも癖で高圧的な態度に加え睨んでしまった。気をつけなければ。
 人間との接触が本当に久しぶり過ぎて、話し方も良く思い出せないのだ。
 凶悪な魔物達を相手に下手に出るような事は出来ず、いつも高圧的な口調を意識していたらこうなってしまったのだ。
 それにしても強気に睨み返して来た裏柳が可愛かったなぁ~
 ほわほわ~ となりつつ、裏柳の小水を楽しむ漆黒であった。


 トイレを終えた裏柳が出ると、漆黒は気付きもせずソファーに腰かけ、足など組ながら優雅に小水を楽しんでいた。
 まるでワインを嗜むかの様に匂いを楽しみ、口で転がしながら喉を潤るわせている。
 そして「ああ、美味しい。素晴らしい絶品だ。最高に上手い。ああ、早く生で飲みたい。全て飲んでしまいたい。嗚呼~嗚呼~」等と独り言を気付きもせずに言っているのが聞こえ、怖くなった裏柳はそっとトイレに戻る。
 生で飲みたいとは? いつの間に加熱処理したんだとか、どうでも良いツッコミで現実逃避したい。
 全部飲みたいと言うのは?
 まさか俺、いつか料理にされて食べられちゃうのかな?

 ヒエエェェェーーー

 怖いよ~~~

 裏柳は大鍋でグツグツ煮込まれる自分を想像し、青ざめるのだった。
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