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 王の側近であるアルフォンスは、今日も王に小言を漏らす。

「王妃様の元にもハーレムにも顔を出されないそうですが、貴方は王としての勤めを果たされないおつもりですか?」

 何せ我が主人は妃も娶っている立派な成人男性であるのに、妃様の元にもハーレムにも足を向けない臆病者なのだ。

「今は、魔族との境が危ういのだ。子づくりしてる暇は無い。今日も視察に行かなければいけない。いつバリアが突破されるか。今は、本当に緊迫しているんだぞ」
「そうかも知れませんが……」

 ムッとした表情で言い返される。 
 確かに王は職務を果たしているが、子づくりも立派な職務である。
 そもそも、こんな時だからこそ男ならば遺伝子を残そうと、そういう気分になるのでは無いのか。
 アルフォンスはそう考える。
 
「王は巷で何と噂されているかご存知ですか?」
「種無し王とか、不能王と呼ばれているらしいな」
「ご存知なのですね。私は王がそのように揶揄される事に我慢なりません!」

 書類に目を通しながら、何でも無い事の様に言う王。
 それが余計にアルフォンスをムカムカさせるのだ。
 そんな不名誉なあだ名を付けられて恥ずかしくは無いのだろうかと。

 私は恥ずかしい!

 自分が尊敬してやまない王が侮辱され、貶されている。
 アルフォンスにとっては、とても許せるものでは無かった。
 王は立派に国を守っておられるのに、どうしてそんな事を言われなければならないのだと。
 地団駄を踏んでしまうぐらいに腹が立っている。
 我が王は、子作りしない以外は完璧に仕事をこなして下さる有能王だ。
 なのに不能王だなんて……
 アルフォンスは苛立ち、そして悲しくなってしまう。

「性行為をして子供を成さない俺を、アルも不能だと思うか?」
「思います。子作りは立派な王の仕事です。それを為さらないのは何故です?」
「……勃起しないんだよ」
「なっ……」

 困った様に笑って見せる王に、アルフォンスは驚いてしまった。
 なんて事だ。
 我が王は本当に不能な種無しだったのか!
 そんな…… 我が王が不能な種無しだなんて……

「直ぐに薬を用意させます!」
「無駄だと思うがな」
「やってみなければ解りません! 絶対に私が治してみせます!」

 意気込むアルフォンスは、部屋を飛び出して行ってしまった。

 己の側近を見送った王は溜息を吐く。

 自分の側近は頑張り屋でよく走り回る子だが、勘が悪い。
 ハーレムで発情したΩにもやる気を出さない俺のペニスが、そんじょそこらの薬でどうにかなる訳が無いだろう。

 Ωの発情に敵う媚薬がある物か。


 王であるロナルドには美しいΩの妃、そして国中から選びぬかれた優秀なΩを揃えたハーレムを有していた。
 だが、ロナルドはその何方でも勃起した事は無い。
 勃起しないのに訪れて、妃やハーレムのΩ達を悲しませるのは忍びなく、ロナルドの足は遠のいてしまった。
 本当ならば暇を出してやった方が良いのだろうが……

 アルフォンスが何と言うか。
 すごく怒りそうだな。地団駄とか踏んで。

 ロナルドは前王のαと妃であったΩの間に生まれたαだ。
 前王と妃は運命の番であった。
 運命の番から生まれたαは優秀な遺伝子を持つとされている。
 ロナルドも準じて全てのΩを惹きつけてしまう様な優秀な遺伝子を持っていた。
 勃起しないのも病気等では無く、ちゃんと勃起はするのだ。
 だが、相手がΩでは無いと言う問題を抱えている。
 あの子はβだ。
 Ωじゃないのに何でこんなに惹かれてしまうのだろう。 
 アレかΩだったらどんなに良かったか。
 そんな事を夢に見る日々だ。
 ロナルドは頭を抱える。
 大事な側近をそんな風に見てしまうのは駄目な事だ。
 それに相手はβの男。αの自分が襲えば、最悪、殺してしまうかもしれない。

 絶対に彼に手を出してはいけないのだ。


 

 ロナルドとアルフォンスの出会いは、五年程前である。

 アルフォンスには元々、これと言って特別な力は無かった。
 魔法も使えなければ、剣の腕も無く、ひ弱だ。
 これでΩならば大事に保護して貰い、守って貰える存在だっただろう。
 だがアルフォンスは生憎、普通のβであった。
 βであり、役にも立たないアルフォンスは、何処に行っても邪魔者扱いだ。
 もう行く宛も無く、彷徨い歩いて辿り着いた池の畔。
 そこで力尽きて倒れていたアルフォンスを、王子であった頃のロナルドが拾った。
 それが二人の出会いだ。

 ロナルド曰く、鷹狩をしていた所に倒れていたから誤って撃ってしまったかと思ったと言っていた。
 アルフォンスはロナルドに恩を感じ、それに報いたかった。
 魔法も剣も使えないが、字は読める。
 城の書庫の本を読み漁り、知識を蓄えた。
 出来る事は何でもした。
 炊事から掃除、洗濯まで、ロナルドの身の回りの事、気づいた事は何でも。
 そんなアルフォンスをロナルドは気に入って側に置くようになったのだ。
 ロナルドの為なら、出来る事は何でもする。
 ロナルドの役に立つ事がアルフォンスの幸せであった。
 
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