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78話
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「もしかしたら、彼はずっとジュノを襲う機会を伺っていたのかもしれませんね」
城に入り込むのは難しいだろうし、外に出たとしてもハワードと一緒だ。
常に側には近衛兵が付いているはずである。
だが、今日は少人数に近衛兵も付けてはいなかった。
ただのハイキングで、気が緩んでいた。
ルーランにとっては鴨が葱を背負って来る様なものだっただろう。
ここぞとばかりに狙われてしまいました。
「ああ、俺がもっと気をつけていれば良かったんだ」
「私もですよ」
まさかサワヤカ山の中級コースで襲われるとは思いもしなかった。
いや、これが簡単コースや上級ならまだ人気が有り、ルーランも躊躇したかも知れないが、中級は中途半端なコースで選ばれ難く、人気が無かった。
より襲いやすかった事だろう。
ハワードと笑美は自分を責めずにはいられない。
「ん…ん…」
ジュノが少し声を漏らして眉間に皺を寄せる。
魘されている様だ。
「ジュノ、ジュノ! 大丈夫か? ジュノ」
ジュノの側に行き、声をかけるハワード。
ジュノの表情を伺っていた。
「……陛下?」
目を開たジュノはハワードを見つめる。
「良かった。気が付いたな」
ハワードはジュノを抱きしめる。
急に抱きしめられたジュノはキョトンとしてしまっていた。
「本当ですか? 良かったです! ジュリー、気分が悪いと、違和感は有りますか?」
笑美も近寄りジュノを確認してホッとする。
見た目に体調が悪そうな様子は無かった。
「私は大丈夫です。それより翠さんは?」
「翠さんも大丈夫です」
翠を心配するジュノに、笑美が答えた。
今は自分の腕の中でスヤスヤだ。
「あのキノコは何だったんでしょうか……」
ジュノは自分達がキノコに襲われた事を思い出し、眉間に皺を寄せる。
本当に気持ち悪かったし、怖かった。
「ルーランだ。多分お前を狙ったんだ」
「ルーランが? では、私のせいで翠さんは巻き込まれてしまったんですね……」
ハワードの説明に、ジュノは眉間に皺を寄せる。
「ジュリーのせいでは有りませんよ」
「ああ、悪いのはルーランだ」
落ち込んだ様子のジュノを慰める笑美とハワード。
「ですが、私がルーランを誘惑してしまったんです。きっと、無意識に…… 魔王様、私がみだりに誘惑しない様に眼鏡を強めて下さいませんか?」
ジュノは困った様子で笑美を見つめ、懇願する。
もう嫌だ。
誰も誘惑したくない。
ジュノは気がおかしくなりそうである。
「貴方、無意識に人を惑わせる様な魔力は有りませんよ。血を吸った時や、欲した時に見つめた相手の意識を朦朧とさせるか、性的に興奮させる事は有るにしろ、それも一時的なもので、持続性はありません。それも眼鏡で阻害しているので、見つめただけでどうこうしてしまう事は有りませんよ」
切実な様子のジュノに首を傾げてしまう笑美。
眼鏡をこれ以上強めても意味は無い。
血を吸う時の効力まで弱めるのは危険過ぎるだろうし、問題無いものだ。
そもそもジュノは吸血鬼であり、淫魔では無いし、その血も混じっては居ないのに、強い誘惑の魔力が備わるわけがない。
何故そんな事を考えてるのだろうか。
笑美は不思議だ。
もしかして、淫悪である自分が育ててしまった為、それを見ていたジュノは誤解してしまったのだろうか。
城に入り込むのは難しいだろうし、外に出たとしてもハワードと一緒だ。
常に側には近衛兵が付いているはずである。
だが、今日は少人数に近衛兵も付けてはいなかった。
ただのハイキングで、気が緩んでいた。
ルーランにとっては鴨が葱を背負って来る様なものだっただろう。
ここぞとばかりに狙われてしまいました。
「ああ、俺がもっと気をつけていれば良かったんだ」
「私もですよ」
まさかサワヤカ山の中級コースで襲われるとは思いもしなかった。
いや、これが簡単コースや上級ならまだ人気が有り、ルーランも躊躇したかも知れないが、中級は中途半端なコースで選ばれ難く、人気が無かった。
より襲いやすかった事だろう。
ハワードと笑美は自分を責めずにはいられない。
「ん…ん…」
ジュノが少し声を漏らして眉間に皺を寄せる。
魘されている様だ。
「ジュノ、ジュノ! 大丈夫か? ジュノ」
ジュノの側に行き、声をかけるハワード。
ジュノの表情を伺っていた。
「……陛下?」
目を開たジュノはハワードを見つめる。
「良かった。気が付いたな」
ハワードはジュノを抱きしめる。
急に抱きしめられたジュノはキョトンとしてしまっていた。
「本当ですか? 良かったです! ジュリー、気分が悪いと、違和感は有りますか?」
笑美も近寄りジュノを確認してホッとする。
見た目に体調が悪そうな様子は無かった。
「私は大丈夫です。それより翠さんは?」
「翠さんも大丈夫です」
翠を心配するジュノに、笑美が答えた。
今は自分の腕の中でスヤスヤだ。
「あのキノコは何だったんでしょうか……」
ジュノは自分達がキノコに襲われた事を思い出し、眉間に皺を寄せる。
本当に気持ち悪かったし、怖かった。
「ルーランだ。多分お前を狙ったんだ」
「ルーランが? では、私のせいで翠さんは巻き込まれてしまったんですね……」
ハワードの説明に、ジュノは眉間に皺を寄せる。
「ジュリーのせいでは有りませんよ」
「ああ、悪いのはルーランだ」
落ち込んだ様子のジュノを慰める笑美とハワード。
「ですが、私がルーランを誘惑してしまったんです。きっと、無意識に…… 魔王様、私がみだりに誘惑しない様に眼鏡を強めて下さいませんか?」
ジュノは困った様子で笑美を見つめ、懇願する。
もう嫌だ。
誰も誘惑したくない。
ジュノは気がおかしくなりそうである。
「貴方、無意識に人を惑わせる様な魔力は有りませんよ。血を吸った時や、欲した時に見つめた相手の意識を朦朧とさせるか、性的に興奮させる事は有るにしろ、それも一時的なもので、持続性はありません。それも眼鏡で阻害しているので、見つめただけでどうこうしてしまう事は有りませんよ」
切実な様子のジュノに首を傾げてしまう笑美。
眼鏡をこれ以上強めても意味は無い。
血を吸う時の効力まで弱めるのは危険過ぎるだろうし、問題無いものだ。
そもそもジュノは吸血鬼であり、淫魔では無いし、その血も混じっては居ないのに、強い誘惑の魔力が備わるわけがない。
何故そんな事を考えてるのだろうか。
笑美は不思議だ。
もしかして、淫悪である自分が育ててしまった為、それを見ていたジュノは誤解してしまったのだろうか。
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