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15話

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 二人で夕食を取りつつ、翠は今日の事を聞いて、笑美はそれに答えていた。

「トロールとドラゴンが暴れていて街は滅茶苦茶にされてました。それ以前から色んな魔物達に襲われる様になっていたんでしょうね。奴らも別に人間を食する必要は有りませんが、食べたら美味しいので味を覚えてしまったんでしょうね」
「そ、そうなんですか」

 ちょっと怖いなと思ってしまう翠。
 魔物ってクマみたいなものなのか。

「この城にいる分には大丈夫ですよ。山にもバリアを張りましたし、暴れていたトロールやドラゴンも落ち着けて住処に戻る様に言いましたし」
「素直に戻ってくれて良かったですね」
「ええ、私の歌声に気づいてくれました」
「歌が得意なのですか?」
「あとで子守唄にでも歌いましょうか?」
「じゃあお願いします」

 フフっと微笑む笑美は楽しそうだ。
 
「えっと、それであのストーカー変態野郎は勇者で、実は王様で、和解出来たと言う事なんですね?」
「はい、明日からも壊れた街の修繕やトロールの森とドラゴンの湖を綺麗にする作業に向かわなければいけません。なので、翠さんには一人で留守番をお願いしなければいけないのですが、申し訳ありませ」

 シュンと申し訳無さそうに眉をよせる笑美。
 留守番する事は仕方ないし、別に良いのだ。
 トロールもドラゴンも笑美の知り合いで大事な友達だろう。
 森や湖を修繕してあげるのは解る。
 だけど人間の建物とかは人間達にやらせれば良いのではないだろうか。
 そこまで笑美が面倒を見てやる必要が何処に有るのだろう。
 水晶玉に力を宿してバリアを維持するのだって命を削る行為だと言っていた。
 あの横柄な王様だって無茶苦茶な事を言って無理矢理連れて行かれたのに。
 それをあっさり和解して、割と良い人だったと言う笑美の事が翠には解らない。
 笑美にとっては殆どの人間は割と良い人と本当に良い人にしか分類されず、全員が優しく守る対象なのだろうか。
 そんなの聖母様じゃないか。
 俺の事も、そんな感じで拾ってくれたのだろうか。
 そうだよな。
 たまたま店に入って来たから優しくして笑顔を向けて温かく接してくれたんだ。
 それでたまたま巻き込まれる形でこっちの世界に来たから一緒に過ごしてくれているだけ。
 笑美さんにとっては俺もその他大勢の人間と一緒で、たまたま偶然こうなっているだけなんだ。
 すごい幸運なんだ俺は。
 そう思うと同時に、なんだか寂しくも感じる翠。
 複雑な気持ちになってしまう。

「すみません、一人でこんな場所に残されても不安ですよね。地下に広場が有りますのでそこで遊んでても良いのですよ、プヨンやフラワーなんかの弱い魔物が遊んでいる区画ならば翠さんも楽しく遊んでいられるでしょうか? ただそれより先に進みますと地下は迷路の様に入り組んでいますし、凶悪な魔物もおりますので気を付けて頂かなければなりませんが」

 翠から少し怒った様な、寂しそうな感情を感じ取った笑美は、翠は一人のお留守番が退屈なのだと解釈した。

「地下に魔物を飼っているのですか?」

 不思議に思い、質問する翠。 
 好奇心旺盛な所が現れた。

「ええ、ここからあまり動く事は出来ませんので食料的な観点や、家庭菜園的なものですね。あと、ずっと家の中に居ると気が滅入るので、外の様な庭を作りたかったという面も有ります。実際の外はいつも吹雪で出る事はままなりませんから。まぁ、地下に居る凶悪な魔物達はあまりに酷い魔物達なので私が囚えて地下に閉じ込めている者も居ますね」
「地下が壮大なんですね」

 あまり想像出来ない世界だ。

「後で案内します。ただ本当に安全な区画から奥には行かないでくださいね」

 笑美はそう念を押すと、直ぐに笑顔を作る。

「さぁ、手が動いてませんよ。夕食が冷えてしまいます。それとも美味しく有りませんでした?」

 そう言って、翠に食事をすすめる。
 いつの間にか笑美は食事を終えていた。

「あ、食べます! 凄く美味しいです!!」

 見た事もない料理だが凄く美味しい。
 朝も夜もこんなに贅沢な手料理を食べさせて貰えるなんて。
 たまたま偶然ついてきてしまっただけなのに、すごい幸福だなぁ。
 今までの不幸分を神様が還元してくれたのかなぁ。
 それにしたってお釣りが出るよ。
 これから飛んでもない不幸に見舞われそうで少し怖い翠だった。
 
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