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13話
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絢爛豪華な王宮の客室に招かれる笑美。
待っていると王であった勇者は正装に着替えて部屋に入って来た。
「待たせたな。腰を下ろせば良いのに」
そう言って上座に腰掛ける勇者。いや、王様。
確かにこうして見れば気品に溢れている様にも見える。
「では、失礼します」
笑美も腰を落ち着けた。
「では、先ず非礼を詫びよう。悪かった。だが、お前が直ぐ説明をしてくれたなら此方も理解した。それを問答無用で姿をくらませてしまうなんて酷いんじゃないか?」
そう言う王様は不貞腐れた様子だ。
うん、謝ってないよね。苦情を言っているよね。
まぁ、そういう性格の人なんだ。
大きな心で受け流す事にする笑美。
確かに何も言わず癇癪を起こして何もかもが嫌になり、投げ出してしまったのは事実だ。
「ええ、申し訳有りませんでした。もうお解り頂けたと思いますが、私はバリアを張って護っていただけに過ぎず、人間に討伐される謂れは有りません。ただバリアを張るにも膨大な魔力が必要でして、チョロチョロと何匹か抜け出た時はそちらで対処して頂きたい」
「それは理解した。だが今まで魔物が抜けて来た事など無かった、アンタの完璧だった守りにスキが出来るようになったのは何だ?」
「常に膨大な力を使いますからね、ちょっと疲れて来ちゃったんですよ」
「……精液が食べられないからか?」
「それも有りますね。と、言う何でバレてるんでしょうか……」
そんなに夢魔しい見た目では無いと思うが……
と、言うか、そんな事を聞かないで欲しい。
この王様は何を考えているのだろう。
笑美は苦笑してしまう。
「男でそんな綺麗な黒髪を伸ばせる様な奴は夢魔の血が流れてるとしか思えないんだよ」
「偏見ですよ」
切っても直ぐに伸びてしまうので、もう切るのを止めてしまった。
腰程まで伸びればそれ以上は伸びなくなる。
「精液なら好きなだけ好きな奴のをやるが?」
「結構です」
「あの眷属か? あれの精液がそんなに良いのか?」
「そういう事を不躾に聞くのは如何なものかと思いますよ」
「アンタは餌を探しに出かけていたのか? ならばそう言ってくれたら此方で探した」
「話が脱線し過ぎでは?」
一体何の話なのだこれは。
此れからの方針などを話し合いたいのだが。
王様がどういうつもりで話を脱線させているのか解らず、訝しく思う笑美。
申し訳ないと思って人間の男を献上しようとしているのだろうか。
非人道的過ぎる。
「話を戻しますよ。私が張ったバリアのそちら側には手出させませんので、人間もバリアの此方側に侵略等考えない様にして下さいね。ドラゴンもトロールも元々大人しい種族です。おそらく森を伐採し、湖を穢したのでしょう。それで怒らせたのです。私が森の木と湖は元に戻しておくので、それで彼らの怒りも収まるでしょう。今回の事は痛み分けと言う事で納めて下さい。建物の修復等は手伝います」
笑美はゴホンと咳払いをして話を戻した。
「建物の修復まで手伝ってくれるのか?」
王様は驚いた表情をしている。
「ええ、流石に亡くなった人を蘇らせる事は出来ませんが…… 私もカッとしてしまい、後先考えられませんでした。本当に、辛くなってしまって……」
もう少し、考えたら良かったのだが、もう悲しいやら辛いやらで限界だったのだ。
「いや此方こそ…… 誤解して悪かった。以後この様な事が無いようにする。これで和解と言う事にして貰えないだろうか?」
王様は頭を下げてくれた。
初めて誠意が感じられる。
「ええ、始めっからこうやって話の場を設けて貰えば良かったのですね。私の様な魔物の話を人間が聞いてくれるとは思えませんでした。何せ幼い頃にも石を投げられる等しましたので……」
フフっと苦笑する笑美も頭を下げた。
「本当に申し訳ない事をした。土下座するから許して欲しい」
「土下座は良いです。解って貰えればそれで」
王様も思いの外良い人なのかも知れないと思えて来た。
クスっと笑ってしまう笑美。
「えっと、自己紹介だろうか。俺はハワードだ。貴方はエミだったか? エミと呼んでも良いか?」
ハワードは握手を求めて手を差し出す。
笑美もその手を握った。
「エミは特別の呼び名なので駄目です。魔王で良いです」
フフっと可愛く笑ってみせる笑美に、ハワードは顔を赤くするのだった。
待っていると王であった勇者は正装に着替えて部屋に入って来た。
「待たせたな。腰を下ろせば良いのに」
そう言って上座に腰掛ける勇者。いや、王様。
確かにこうして見れば気品に溢れている様にも見える。
「では、失礼します」
笑美も腰を落ち着けた。
「では、先ず非礼を詫びよう。悪かった。だが、お前が直ぐ説明をしてくれたなら此方も理解した。それを問答無用で姿をくらませてしまうなんて酷いんじゃないか?」
そう言う王様は不貞腐れた様子だ。
うん、謝ってないよね。苦情を言っているよね。
まぁ、そういう性格の人なんだ。
大きな心で受け流す事にする笑美。
確かに何も言わず癇癪を起こして何もかもが嫌になり、投げ出してしまったのは事実だ。
「ええ、申し訳有りませんでした。もうお解り頂けたと思いますが、私はバリアを張って護っていただけに過ぎず、人間に討伐される謂れは有りません。ただバリアを張るにも膨大な魔力が必要でして、チョロチョロと何匹か抜け出た時はそちらで対処して頂きたい」
「それは理解した。だが今まで魔物が抜けて来た事など無かった、アンタの完璧だった守りにスキが出来るようになったのは何だ?」
「常に膨大な力を使いますからね、ちょっと疲れて来ちゃったんですよ」
「……精液が食べられないからか?」
「それも有りますね。と、言う何でバレてるんでしょうか……」
そんなに夢魔しい見た目では無いと思うが……
と、言うか、そんな事を聞かないで欲しい。
この王様は何を考えているのだろう。
笑美は苦笑してしまう。
「男でそんな綺麗な黒髪を伸ばせる様な奴は夢魔の血が流れてるとしか思えないんだよ」
「偏見ですよ」
切っても直ぐに伸びてしまうので、もう切るのを止めてしまった。
腰程まで伸びればそれ以上は伸びなくなる。
「精液なら好きなだけ好きな奴のをやるが?」
「結構です」
「あの眷属か? あれの精液がそんなに良いのか?」
「そういう事を不躾に聞くのは如何なものかと思いますよ」
「アンタは餌を探しに出かけていたのか? ならばそう言ってくれたら此方で探した」
「話が脱線し過ぎでは?」
一体何の話なのだこれは。
此れからの方針などを話し合いたいのだが。
王様がどういうつもりで話を脱線させているのか解らず、訝しく思う笑美。
申し訳ないと思って人間の男を献上しようとしているのだろうか。
非人道的過ぎる。
「話を戻しますよ。私が張ったバリアのそちら側には手出させませんので、人間もバリアの此方側に侵略等考えない様にして下さいね。ドラゴンもトロールも元々大人しい種族です。おそらく森を伐採し、湖を穢したのでしょう。それで怒らせたのです。私が森の木と湖は元に戻しておくので、それで彼らの怒りも収まるでしょう。今回の事は痛み分けと言う事で納めて下さい。建物の修復等は手伝います」
笑美はゴホンと咳払いをして話を戻した。
「建物の修復まで手伝ってくれるのか?」
王様は驚いた表情をしている。
「ええ、流石に亡くなった人を蘇らせる事は出来ませんが…… 私もカッとしてしまい、後先考えられませんでした。本当に、辛くなってしまって……」
もう少し、考えたら良かったのだが、もう悲しいやら辛いやらで限界だったのだ。
「いや此方こそ…… 誤解して悪かった。以後この様な事が無いようにする。これで和解と言う事にして貰えないだろうか?」
王様は頭を下げてくれた。
初めて誠意が感じられる。
「ええ、始めっからこうやって話の場を設けて貰えば良かったのですね。私の様な魔物の話を人間が聞いてくれるとは思えませんでした。何せ幼い頃にも石を投げられる等しましたので……」
フフっと苦笑する笑美も頭を下げた。
「本当に申し訳ない事をした。土下座するから許して欲しい」
「土下座は良いです。解って貰えればそれで」
王様も思いの外良い人なのかも知れないと思えて来た。
クスっと笑ってしまう笑美。
「えっと、自己紹介だろうか。俺はハワードだ。貴方はエミだったか? エミと呼んでも良いか?」
ハワードは握手を求めて手を差し出す。
笑美もその手を握った。
「エミは特別の呼び名なので駄目です。魔王で良いです」
フフっと可愛く笑ってみせる笑美に、ハワードは顔を赤くするのだった。
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