ハロウィンの吸血鬼

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「編み進める時は、なるべく編目が均等になるよう心掛けると、仕上がりが綺麗になりますわ。ゆっくり進めていきましょう」

「こ、こうかしら?」

「そうそう、お上手ですわ」

 イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。

「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」

「リゼット様、ここはどうすれば?」

「ああ、この部分は……」

 途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。

 二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。

 以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。

「少し休憩にしましょうか」

 一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。

 温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。

「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」

「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」

「あら、素敵」

 少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。

 両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。

 両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。

 それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。

 両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。

 それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。

 ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。

「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」

「今年の秋ぐらいの予定ですわ」

「ふふっ、今から楽しみですわね」

 帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。

「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」

「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」

「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」

 会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。

 沢山準備して、楽しみに待ってるからね。

 お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
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