ハロウィンの吸血鬼

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 まだドキドキしている。
 薫くんの部屋を逃げるように飛び出してしまった。
 変に思われなかっただろうか。
 秋の風にあたって頭を冷やす。
 紫雨に噛まれても痛いだけだというのに、なぜ薫くんだとこんな風に熱くなってしまうのだろうか。
 最近、見る夢は薫くんにいかがわしい事をされているものばかりである。
 俺は薫くんをそんな目でばかり見てるのだろうか。 
 薫くんは俺を初めて出来た友達の様な純粋な目で見てくる。
 それなのに俺はなんて穢らわしい男なんだろうか。
 このまま薫くんの側にいる事が薫くんの為になるのか。
 悩んでしまう。
 良い歳してこんな中学生みたいなモンモンとした気持ちを抱える事になるとは思わなかった。
 今までに好きになった人は居たが、こんな風に思うことは無かった。
 これが恋なのだろうか。

「貴臣」
「紫雨?」

 不意に名前を呼ばれ振り向くと、車の後部座席から紫雨が顔を出していた。
 
「乗って」
「歩いて帰れるから大丈夫だ」
「送ってあげるんじゃないよ」

 てっきり徒歩の俺に送ってやろうと気を使って車を止めたと思ったが、そうじゃないらしい。
 
「腹が空いたなら他の奴に頼んでくれ」

 俺は薫くんの正式な餌が見つかるまでの繋でしかないが、それでも他の吸血鬼に血を与えるのは薫くんに悪い気がする。
 
「お願いじゃない。命令だ。乗れ」
「何なんだしつこいな。乗らん! 俺も命令だ車を出せ」
「仕方ないな」
「おい!」

 紫雨の車から二人の屈強な男が降りてきて俺を羽交い締めにしようとする。
 紫雨は狙っていたのか、ここは人気の無い道。 
 誰も歩いていない事を良いことに誘拐紛いの事を掛けるとは。
 以前の俺ならここまでされてはヤレヤレと折れてやって車に乗っていただろう。
 でも、今はそんな気になれない。

「いい加減にしろ。お前のせいでお前のボディーガードが痛い目みただろ!」

 俺は格闘技には自信があるのだ。
 屈強な男前をコテンパンにしてやった。
 有段者でも本当に上段なのだ。
 そんじょそこらこボディーガードになんて負ける気はない。

「何をやっているんだ。それでも僕のボディーガードなの? お前らは解雇だ!」
「そうやって直ぐに解雇するから優秀な人材が側から居なくなるんだ」

 これも何度も言った。
 言っても解らない奴に言っても仕方ないな。
 こんな事をしているから孤立してしまうんだぞ。
 紫雨の為にも俺は心を鬼にして拒絶する。
 今まで態度が曖昧過ぎた。
 紫雨は親友だし、本当はいい奴であると知っている。
 妹の様に可愛いとも思っていた。
 だから強く突き放せなかった。
 でも、紫雨は俺の妹ではないし、恋人でもない。
 ハッキリ言えば気心の知れた赤の他人である。
 ずっと俺が紫雨の側で可愛がり続ける訳にもいかないだろう。
 
「貴臣が居れば、私はそれでいいの!」
「それが重いんだよ。お前のと正式にパートナーになる気はない。紫雨とは親友でいたいが、度がするならもう絶交するしかない」
「何でさ! 今までそんな事言わなかっただろ。山田薫のせいなのか! アイツが良いのかよ。ずっと一緒に居たのは私なのに!」

 言い合いになり、紫雨は車から降りてくる。

「薫くんは関係ない。それに一緒に居た時間は関係ないだろ。兎に角、俺はお前の餌にもパートナーにもなる気もない。そんなに俺の血が飲みたいなら輸血パックにでもつめてやるよ。正直献血の方が痛くないからな」
「山田薫にはさせてあげてる癖に!!」
「薫くんが噛んでも痛くないんだよ」
「そんな筈ないだろ! 私が噛んで痛いのに、山田薫が噛んでも痛くないなんて事有るわけない!」
「話にならん。帰る」

 紫雨は俺の腕を掴む。
 俺は彼の腕を振り払って早足でその場を去った。 
 紫雨の性格は解っている。
 とんでもなく負けず嫌いなのだ。 
 負けるのは嫌だし、自分が皆の注目の的で有りたいと思っている。
 そういう所が可愛くも有るが、妹として見てだ。
 何度言っても聞いてくれないし、散々振り回された。
 俺も結構な限界だったのかもしれない。
 紫雨には悪いと思う。
 でも、紫雨の相手をする事に俺も疲れてしまっていたのだ。
 薫くんが俺を癒してくれて良かった。
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