ハロウィンの吸血鬼

文字の大きさ
上 下
1 / 27

1

しおりを挟む
尤もこの二人が常識ある会話をしているかというと、
「で、話はついてるものだと思ってたんだけど?」
確認するようにロザリンダに問うレーゼラインに、
「話をする価値もなかったので。それに私がすることに公爵の許可は必要ありません」
と答えるロザリンダ。
「あぁそういうこと。縁切りの準備は済んでる?」
__案外そうでもなかったりするが、そこは人それぞれである。

「書類はこちらに。後は公爵にサインを貰えば完了ですわ、そのままレーゼライン様にお預けすれば早いと思いまして」
ロザリンダが言うなり、サリナがすかさず手にした書類をレーゼラインに差し出す。
「この子が一人だけ貴女が連れて行きたいって手紙に書いてた姉妹みたいに育った子?」
「はい、そうです。サリナと言います。この家で信用できるのは彼女とカエルムだけなのです、恥ずかしながら」
「酷い環境で育ったのねぇ、おまけに婚約者がコレだったなんて」
と軽く鞭にした手を引くと馬鹿その一がぐぇ、とカエルが潰れたような声をあげたが二人ともその事には頓着せずに、
「お陰で縁を切るのに躊躇う必要がなくて楽ですわ」
と会話を続けた。
「思ったより傷は深そうね……」
清清した様子のロザリンダに何を思ったのか(中身が違う人間になったとは流石に思わないので)労りの視線を向けたレーゼラインはしかし、サリナから受け取った書類に目を通すと「法的には問題ないけれどこれ、慰謝料に関する記載がないわね?」と突っ込んだ。

流石にこんなツッコみを受けるとは予想していなかったロザリンダは瞳を丸くして絶句した。
「貴女、自分をこんな目に合わせた奴らから慰謝料も取らないつもりなの?ダメよ、自分を安く見繕っちゃ」

安く見積もったつもりはない。
公爵からは罰金という名目でお金を取っていた。
馬鹿その一からもらったアクセサリーの類は売ってお金に変えておいた。
自分の手持ちの物も小振りな物を幾つか残して殆ど換金済みだ。
修道院まで自力で辿り着く手立てがなかったため、ここまで迎えに来てもらうにあたってロザリンダは高額な寄付金を手紙で約束していたが、それには今ある手持ちだけで事足りる。

「あの、寄付金の事でしたら既に「そうじゃない」、」
「え?」
「貴女の人生の先は長い。寄付金は有り難くいただくけど吊り上げるつもりはないわ。貴女が一人立ちする時、誰かを助けたい時、一番手っ取り早いのはお金よ。多くあって困るものではないわ」
「!」

そこまでは考えていなかった。
確かにそうだ。
いつかサリナがお嫁に行く時に渡そうといくつかの宝石を手元に残しはしたがそれだけだ。
ここから先は自分で冒険者になるなりして稼げば良いと思っていた。
修道院で修行する間の衣食住は保証されているがそれは他の誰かの寄付や稼ぎによって成り立っているものだ。
自分の魔力ならばすぐに外からの依頼を受けて稼いだ報酬を修道院に納められるだろうと高を括っていた。
下を向いて黙ってしまった私に、
「おい……」
と心配そうなステルンから声がかけられるが、
「私の考えが甘かったですわ!申し訳ありません、レーゼライン様!」
ばっと顔をあげて発した言葉に今度はステルンが絶句した。




*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

真面目な子ほど、開き直ったら怖い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

俺の幼馴染はストーカー

凪玖海くみ
BL
佐々木昴と鳴海律は、幼い頃からの付き合いである幼馴染。 それは高校生となった今でも律は昴のそばにいることを当たり前のように思っているが、その「距離の近さ」に昴は少しだけ戸惑いを覚えていた。 そんなある日、律の“本音”に触れた昴は、彼との関係を見つめ直さざるを得なくなる。 幼馴染として築き上げた関係は、やがて新たな形へと変わり始め――。 友情と独占欲、戸惑いと気づきの間で揺れる二人の青春ストーリー。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

処理中です...