【完結】カレーを食べて貰おうと思っただけなのに

2

　幸人があまりに体調が悪そうなので、警察の事情聴取などの協力は亘がやった。

　友里恵は反省した様子を見せ、泣きじゃくっていた。
　本心だとして、この子の場合は喉元過ぎれば熱さを忘れるタイプなんだろう。
　翔のストーカの件も有って、二度と警察から出てきて欲しくは無いが、そこまで重い処罰にはならない。
　厳重注意で直ぐに家に帰されそうだが、翔や真菜、幸人には近づかない様に誓約書を書かされるだろう。
　
　しかし、今日は散々な日である。

　まぁ、幸人程ではないな。
　何せ、飲み過ぎて吐くは頬はぶん殴られるわ倒れるわ。
　初恋の相手は親友の弟に取られるわ。
　アイツ、名前が幸人なのに本当、幸薄いよなぁ。
　親友が流石に哀れになってくる。　　
　いくら容姿端麗で頭が良く、お金持ちで性格が良かったってそれだけじゃあなぁ。
　幸人の努力に幸せが見合ってない気がす亘だ。
　お祓いに行った方が良いレベルである。
　せめて御札でも買ってきてやろうか。
　




　やっと自宅に戻った亘を妻の綾乃が出迎えた。

「おかえりなさい亘さん」
「ただいま愛しの妻よ。君はほんといつみても綺麗だね」

　フフっと嫁を抱きしめ、唇にキスする。
　結婚して15年目だが、亘と綾乃は新婚の様にラブラブである。
　
「幸人は大丈夫か？」

　先に部屋に入れて寝かせてある。
　ついでに服も着替えなければいけなかったけど。
　あの服はもうゴミ箱だ。
　安物だから良いけど。

「ええ、落ち着いていましたよ。さっきまでノノちゃんが幸人さんの頬を冷やしてあげてました」
「ノノ、まだ寝てないのか」

　ノノは亘と綾乃の一人娘、乃々佳の事である。
　幸人を寝かせた部屋を開けてみる。
　幸人はよく寝ていた。乃々佳もよく寝ている。

「あら、ノノちゃんたらここで寝ちゃったのね」

　フフっと微笑む綾乃。

「こんな格好で寝たら風引くぞ」

　亘は乃々華を抱っこして部屋に連れて行く。

「ノノちゃん幸人さんが好きなのよ。大きくなったら幸人さんと結婚するとか言ってるんです」
「いや、ノノはまだ12歳だぞ」

　流石に年の差がありすぎる。
　幸人はイイヤツだが、娘を23も離れた男に嫁がせたくはない。
　大体、幸人もその気にならんだろう。
　12歳にその気になるような35なら、絶交する。

「何本気で考えてるんですか。子供がパパと結婚するって言ってるようなものですよ」
「だったらパパに言ってくれよぉ～」

　乃々佳にそんな事言われた事ないよ。
　パパの下着と一緒に洗濯するのやめてって怒ってたよ。

　亘は乃々佳をベッドに寝かせ、起こさぬように布団をかける。
　頭を撫でてから、部屋を出るのだった。



「で？　真菜さんと翔は？」

　リビングに戻り、綾乃が淹れてくれた茶を飲みながら二人の様子を聞く。
　真菜は心配して部屋までついて来たのだ。
　翔もそんな真菜についてくる方になっていた。

「真菜さんはしばらく幸人さんを心配してましたけど、ノノちゃんが見てるから大丈夫って追い返してましたよ。翔さんもノノちゃんに任せて帰ろうと、真菜さんの手を引いて出ていきました」
「そっかぁ」
「でも驚きですよね」
「そうだな。ビックリしたよ」

　綾乃の説明に頷く亘。
　こんな偶然って有るのかってぐらい偶然が重なりすぎてて怖い。
　やっぱり怪奇現象かもしれない。
　お祓いだな。

「綾乃も大変だっただろ？　ごめんな急にこんな事になっちゃって……」
「いえ、結構楽しかったですよ。幸人さんの汚物まみれの亘さん」
「前から思ってたけど、君のツボちょっと変だよな」

　なんで幸人の汚物まみれの俺を楽しんでいるんだ。
　まぁ、嫌がられるよりは良いのかも知れないけど。

「今日はもう寝ましょう」
「一緒のベッドで朝までイチャイチャしよっか」
「もう、今日は幸人さんが居るから駄目ですよ」
「え～」

　亘と綾乃は一つのベッドで大人しく寝るのだった。
　結構疲れていたし、亘も酒が入っていたので割りと直ぐに熟睡した。





　ハッ！　と、飛び起きる幸人。

　変な夢を見た。

　真菜さんが変な女に殴られそうになっていてソレを庇ったら、その女は亘の弟さんのストーカーで離すに離せなくなっている内に馴れ馴れしくも亘が真菜さんの肩を抱いたりして、怒りたかったけど、真菜さんも怯えていたし、我慢していたら真菜さんの婚約者が現れて、亘を兄貴とか言ってて、気づいたら亘に吐いてた。

　とんでもない悪夢だ。

「頬が痛い！」

　何でだ！？
　何で頬が痛いんだ！？

「大丈夫か？　腫れはおさまったみたいだな」

　コンコンと、ノックしてから入ってきたのは亘だ。

「何で頬が痛いんだ？」
「女に殴られたからだろ」
「何で！？」
「覚えていてねぇのか？」
「いや……　何か頭も痛いんだが、これも殴られたからなのか？」
「そらぁ、呑み過ぎだ」

　ハハッと苦笑する亘だ。

「なんか、変な夢を見たが、もしかして現実だったなんて事ないよな？」
「おそらく現実だな」
「て、事は、翔って奴の兄貴？」
「人の可愛い弟を呼び捨てすんな」
「何て事なんだ！」

　幸人は頭をかかえた。
　痛い頭が更に痛くなる。




「おはようございます幸人さん！」
「おはよう乃々佳ちゃん。昨夜は有難う」

　亘の服を借りてリビングに出た幸人に、明るく挨拶する乃々佳。
　亘は乃々佳の頭を撫でる。

「おはようございます亘さんに幸人さん。サイズがピッタリですね」

　旦那の服を着た幸人にフフっと微笑む綾乃。

「おはようございます綾乃さん、昨夜は本当にご迷惑をおかけしまして」
「全然迷惑じゃなかったですよ。朝食召し上がってください」
「そんな、朝食まで頂くわけには……」

　綾乃の誘いを断ろうとする幸人。
　そんな幸人の肩を亘が叩く。

「もう並べてしまったんだから食ってけよ」

　そう言って、椅子を置いた。
　何処からか幸人用の椅子を持って調達してきたらしい。
　そこまでされては幸人も断れなかった。

「では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

　幸人は亘か持って来た椅子に腰掛け、綾乃が作った料理を頂く事にする。

「これ、乃々佳も手伝ったんですよ」

　そう言ってコロッケを幸人の皿に乗せる乃々佳。

「乃々佳ちゃんはお料理も上手なんだね」

　美味しいよと、乃々佳に笑いかける幸人だ。


　その後、一緒に部屋を出た亘と幸人。
　乃々佳を見送った後に亘は幸人に釘を刺した。

「ノノはやらん！」
「気持ち悪い事を言うな！」