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 一時間以内に仕事を終わらせた真菜。
 ちゃんと見直しまで済ませて翔に提出した。


「お疲れ様、俺も帰るかな」

 資料を受け取った翔は受理し、荷物を片付ける。

「駐車場まで一緒に行こう」
「お客様駐車に車止めたんですか?」
  
 真菜も自分の荷物をまとめていた。
 
「ああ、そっか……」

 お客様駐車は一階の入口側だ。
 社員は地下の車場を使っている。

「何してるんだ?」

 おもむろに髪を解いた真菜に驚く。

「ハーフアップに直そうかと」
「何でわざわざ?」
「婚活パーティーの時にしていた様な手の込んだ編み込みは出来ませんが、少しは似せた方が分かりやすいかと思いまして」
「髪型やメイク、服装を変えたぐらいで解らないの奴は友達とは言えないんじゃないか」
「どうですかね?」

 真菜は髪型を直して翔に確認を取る。
 ちゃんと可愛いよ。
 真菜はどんな髪型だろうと、何を着ていようと、メイクしてようがスッピンだろう
が、何だって可愛いよ。 

 何故かムスっとしてしまっている翔に首を傾げる真菜。
 変かしら。
 まぁ、変だとしてもこれ以上どうしようもないので、髪型はこれで良いだろう。
 真菜はメッセージで『今、仕事が終わったので、駐車場に向かいます』と、仲嶋に送った。

「では、お疲れ様でした。失礼します」

 真菜は翔に頭を下げて部屋を出る。
 翔は施錠を済ませ、無言で真菜の後から着いて行くのだった。

 駐車場は地下であるし、エレベーターは同じになるわよね。
 そう思って真菜も翔がついて来る事に触れなかった。
 翔は、鍵を警備員に預けてから真菜と一緒にエレベーターに乗る。

「夕食は食べて来るんだな?」
「ええ、そうですね」
「酒は飲むなよ?」
「気をつけます」
「帰りは駅まで迎えに行く」
「歩いて帰ります。何時になるか解らないし……」
「22時までには家に帰って来い」
「門限ですか?」
「そうだ」
 
 厳しく言う翔に真菜はクスクスしだした。
 おかしいな。笑うとこじゃないと思うんだが。

「なんだかお父さんみたいな事を言うから」

 アハハっと真菜はツボに入ってしまったらしく、稀に見る爆笑である。

「22時以降も連れ回すような男は紳士とは言えないし、良い友達とも言えないだろう」
「更にお父さんみたいなセリフが追加されましたね」
「俺は真面目に言っているんだからな!」
「解ってますよ。ちゃんと守りますから怒らないでくださいお父さん」
「俺は君のお父さんではない。夫になる男だぞ」 
「あら、でも家ではお母さんもお父さんの事お父さんって呼びますけどね」
「それは……」

 真菜の家では『お父さん』=『ダーリン』って言う意味も有ると言う事か。
 なんかそう変換すれば嬉しいかも知れない。
 いやいや、イチイチ変換するのは大変だ。

「俺はお父さんじゃなくてダーリンが良い」
「嫌ですよ。ハニーとか呼ばれたくないし、柄でもない。私はお母さんで結構ですよ」

 そんな会話をしている内に一階に到着した。
 真菜は降りてお客様様駐車場に足を向ける。

「何で着いてきたんですか!?」

 なんか違和感があるなと、振り向く真菜。
 何で翔まで降りてきてるんだろうか。
 そのままエレベーターに乗って地下の駐車場に行けば良いのに。
 お客様駐車場に何か用事が有るのか?

「いや、真菜のお父さんとしてお友達にはしっかり挨拶しなきゃいけないかと思ってな」
「何馬鹿な事を言ってるんですか」

 もうエレベーターの中では無いので人目がある。
 人に聞かれたら何かと思われるだろう。
 焦って周りを確認する真菜であるが、幸いにも近くに誰も居なかった。
 エントランスには人が居るが、翔は小声で話してくれたので、聞こえる事は無いだろう。
 でも上司と部下が一緒に歩くにしては、少し距離が近すぎる気もする。

「別に婚約者が異性の友人に挨拶するのはおかしい事では無いだろう。普通だ。普通。寧ろ牽制はしとくもんだろう」 
「そうですかね?」

 ちょっと離れて欲しいなぁ。
 真菜は適当にあしらう。

「俺が仲嶋に挨拶して何か不味いのか?」
「別に不味くは無いですけどね」
「そうだろ? 真菜の友達なら俺も友達になりたいし、何なら3人でディナーして、美術館行こうぜ」
「行きたかったんなら言って下されば仲嶋さんにもお伺いを立てましたのに。今更言われても、ディナーは予約しているだろうし、美術館はチケット制なんですよ」
「そ、そうか……」

 真菜は3人でも良かったのか、じゃあもっと早く言えば良かった。
 今更気づいて、失敗したと思う翔だ。
 シュンとしていると、もうお客様様駐車場に着いてしまった。


「真菜さん」

 駐車場に出ると、仲嶋が車から降りてくる。
 やべぇ、仲嶋めっちゃ良い車乗ってる。
 俺もそれなりに良い車乗ってるけど、兄からの誕生日プレゼントだしな。
 
「その人は……」

 翔を見て、固まる仲嶋。
 翔は見せつける様に真菜の肩を抱いて見せた。

「婚活パーティーの時の……」

 仲嶋は言葉に詰まっている様子だ。

「ええ、上司なんです。たまたま同じ婚活パーティーに出席してたんですよ」
「な、なるほど」
 
 説明する真菜に仲嶋は頷く。
 見るからにキョドってる。
 ニヤニヤしてしまう翔だ。

「ちょっと、何ですか?」

 肩を抱いてくる翔に真菜は困惑して離れようとするが、翔は離れない。

「僕達、婚約したんです。ね?」
 
 翔は胸元からネックレスについた指輪を出し、真菜の手を握って仲嶋の視線を誘導する。

「随分と早い決断ですね」

 婚活パーティーから数日しか経っていないのにと、仲嶋は妙な表情を見せた。

「僕達、元々好きあっていた様で。話がスムーズに進んですよ。今は同棲中です」
「何でそんな話を仲嶋さんに?」

 ペラペラ話しだす翔に困惑する真菜。

「仲嶋さんが誤解するといけないからさ。真菜は危機感が無さすぎるから」
「仲嶋さんは友達だって言ってるじゃない」
「仲嶋さんの方はどう思っているか解らないだろ」 
「解るわよ」

 やたら絡んでくる翔に真菜は困って仲嶋の方を見つめる。

「ディナーの予約の時間が有ります」
 
 そう、仲嶋は切り出した。

「そうですか。僕の婚約者を宜しくお願いしますね。真菜は貴方を紳士だと言っていたので僕も貴方を紳士と信じて真菜を預けます」
「本当にさっきからどうしたんですか?」

 ベラベラと何を言っているんだろうかと、翔が心配になってしまう真菜だ。

「じゃあ行ってらっしゃいハニー」
  
 翔はこれ見よがしに真菜にキスをした。

「んっ…… ちょっと、ここ、んん!」

 ここは会社のお客様駐車場なのに!
 しかも目の前には仲嶋が居るのに。
 何でこんな熱いキスしてくるの!?

「続きは帰ってきたらしようね」

 唇を離した翔は何か歯の浮くような事を言っている。
 何処かで頭でもぶつけたかしら。

「……行ってきます」

 注意は家に帰ってからねと、真菜は翔を睨んだ。
 翔がやっと離してくれたので、仲嶋の側に行く。
 翔はにこやかに手を振っていた。

「すみません。いつもあんな感じじゃないんですけど……」

 真菜は気まずくなってしまう。

「いえ、どうぞ」

 仲嶋は真菜を助手席に乗せると自分も運転席に乗り込む。 
 翔の方は見ず、さっさと車を出すのだった。
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