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あれ? おかしいわ。
真菜が異変に気づいたのは、終業時刻30分前になってからだ。
ペース配分を間違えたかしら。
途中、宮崎の質問に答えたりしてはいたけど、いつものペースでやっていた筈だが。
し、仕事が終わらないわ!
しかも、これ、期日が短い。
何としても今日中に終わらせたい内容だ。
信頼して渡してくれた仕事のはず。
絶対に終わらせたい。
でも、どう頑張ってもあと30分では無理だ。
焦るとミスも出る。
仲嶋さんには申し訳ないが、すこし遅れる事に許して貰うか、それか別の日にしてもらおうか。
真菜は迷う。
しかし、時間の指定を遅らすにしても、また後日にするにしても、連絡が遅すぎる。
どうしよう。
誰かにお願いしようか。
今日、残業出来る人は……
チラッとホワイトボードを確認する。
山田と南野、それと翔だ。
川崎さんは子供が居るので、基本残業はしない。
宮崎さんは毎日何か忙しいらしく、残業出来ないみたいだ。
誰かに頼めば良いのだろうけど、真菜は躊躇ってしまう。
「田辺さん、仕事終わりますか?」
真菜の困った表情に、気づいて川崎が声をかけてくれた。
「ちょっと、難しいですね」
はぁーと、溜め息を吐いてしまう真菜だ。
「遅れる事を友達に連絡してきます」
「山田さんか南野さん、もしくは主任にお願いしても良いんじゃない?」
「自分の仕事は自分でやりたいんです」
人に任せた事などなかったので、頼み方も解らないし、すこし不安と言うこともある。
何かミスが有っても私のした仕事だと解るので、納得も出来るが、任せた所にミスが有ったらと思うと……
こんな考え方は良くないよね。
山田さんも南野さんもしっかり仕事してくれる人だから、任せても大丈夫だろうけど。
真菜は席を立つと仲嶋に連絡しに向かうのだった。
「すみません、一時間程度残業したら終わらせられると思います」
『解りました。美術館は22時までしているので、大丈夫です。先にディナーにしましょうか』
「ディナーですか、そうですね……」
夕食は翔とと約束したが、これは仕方ないだろう。
翔さんには後で謝ろう。
『楽しみにしてます。会社の前まで迎えに行っても良いですか?』
「そんな、申し訳ないですよ」
『私がお迎えに行きたいのですよ』
「……では、一階のお客様駐車場で。出来るだけ早く終わらせるようにしますので」
遅くなってしまうし、駅で待たせるより車で来て貰った方が良いのかも。
『急がなくて結構ですので。では、後ほど』
「本当に有難うございます」
中嶋が良い人で良かった。
ホッと胸をなでおろす真菜。
「真菜」
名前を呼ばれて振り向く。
いつの間にか後ろに翔が来ていた。
「職場で名前を呼ばないで下さい」
「誰も居ないよ」
「解らないじゃないですか。何かお探しなんですか?」
ここは人気のない資料室だ。
すぐ隣の部屋なので、電話の時はよくここに入る。
「いや、仕事が終わらないなら俺が代わりにやってやろうかと思って声をかけただけだ」
「大丈夫です。自分の分は終わらせます」
だって翔も忙しいだろう。
とくに今日は金曜日だ。
「今日は皆仕事を終わらせた様で、帰ると言うし、俺も忙しくないから任せて貰って大丈夫なんだが……」
「宮崎さんも仕事を定時で片付けられたんですか!? 自分一人で!?」
金曜日なのに!?
「ああ……」
途中、真菜が教えてたけどなと、思う翔であるが、真菜は「すごいですね!」と、自分の事の様に喜んでいる。
「ちょっと、宮崎さんに声をかけてきますね!」
真菜は宮崎が定時に仕事を終えられた事が凄く嬉しいらしい。
翔の事はもう忘れた様子で資料室を出て行ってしまった。
翔はそんな真菜を目で追いかけながら、溜め息を吐いた。
「宮崎さん、今日はちゃんと仕事を終えられたんですね!」
「ええ、私、やれば出来る子なんですよぉ~」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。田辺さんもファイト!」
「有難う。頑張りますね」
宮崎に可愛く応援され、つられて真菜も拳を握ってウフフっと微笑んでいる。
うわぁ可愛い。
翔は真菜が可愛すぎで悶絶しそうだ。
平静を装い自分のディスクに戻どった。
皆、定時で上がったので、室内には真菜と翔の二人っきりになる。
「志田さんは忙しく無いのに帰らないんですか?」
「忙しくは無いんだが、切がいいところまで終わらせたい」
「早く上がれる時は早く上がって下さいね」
真菜は手を動かしながら翔に注意する。
真菜が残っているのに、自分だけ帰った方が気になって疲れそうだ。
それと、翔は今日、真菜にいつもより多く仕事を配分していた。
仲嶋とのデートに行かせたくないと言う気持ちも有ったが、たまには自分を頼って欲しいと言う気持ちも有ってしてしまった事だ。
どうしても外せない用事に仕事が終わらなければ、真菜は自分に頼ってくれると思った。
『やっぱり私が頼れるのは翔さんだけ』って思ってほしかった。
きっと真菜は人に仕事を任せて遅く帰る様な事は無いだろうから、急いで帰って来てくれるはずである。それで帰ってきたら『仕事を任せちゃってごめんなさい』って謝るだろうから『じゃあお礼はベッドで貰おうか』とか、言って二人で熱い夜を過ごす妄想はまぁ、置いておいて。
兎に角、真菜に早く帰って来て欲しかったのである。
それがどうしてこうなってしまったのか。
真菜が自分を頼ってくれなかった事にもショックがでかいが、それどころかディナーまで共にする事になってしまったし、仲嶋が迎えに来る流れになってしまった。
真菜も真菜である。
夕食は一緒に食べようって約束したのに!
大体、男の車に乗り込むなんて絶対駄目だ。
なんでこう危機感が無さすぎるんだ。
翔は頭を抱えてしまう。
「志田さん、何か問題でも?」
「問題しかない」
「まぁ…… 私に手伝える事であれば手伝いたいですけど、今日は無理なので今度でお願いしますね」
「大丈夫……」
仕事は問題ない。
全然余裕だ。
真菜は心配そうな表情をしたが、直ぐに集中してしまう。
真菜と二人での残業は好きだけど、このあと真菜が他所の男とデートに行くと思うと腸が煮えくり返る翔だ。
ただ、真菜はちゃんと婚約指輪をしているし、外す事もないだろう。
たから仲嶋って奴が本当に紳士ならば心配はない。
本当に紳士ならばであるが。
翔は心配過ぎて胃が痛くなってきてしまうのだった。
真菜が異変に気づいたのは、終業時刻30分前になってからだ。
ペース配分を間違えたかしら。
途中、宮崎の質問に答えたりしてはいたけど、いつものペースでやっていた筈だが。
し、仕事が終わらないわ!
しかも、これ、期日が短い。
何としても今日中に終わらせたい内容だ。
信頼して渡してくれた仕事のはず。
絶対に終わらせたい。
でも、どう頑張ってもあと30分では無理だ。
焦るとミスも出る。
仲嶋さんには申し訳ないが、すこし遅れる事に許して貰うか、それか別の日にしてもらおうか。
真菜は迷う。
しかし、時間の指定を遅らすにしても、また後日にするにしても、連絡が遅すぎる。
どうしよう。
誰かにお願いしようか。
今日、残業出来る人は……
チラッとホワイトボードを確認する。
山田と南野、それと翔だ。
川崎さんは子供が居るので、基本残業はしない。
宮崎さんは毎日何か忙しいらしく、残業出来ないみたいだ。
誰かに頼めば良いのだろうけど、真菜は躊躇ってしまう。
「田辺さん、仕事終わりますか?」
真菜の困った表情に、気づいて川崎が声をかけてくれた。
「ちょっと、難しいですね」
はぁーと、溜め息を吐いてしまう真菜だ。
「遅れる事を友達に連絡してきます」
「山田さんか南野さん、もしくは主任にお願いしても良いんじゃない?」
「自分の仕事は自分でやりたいんです」
人に任せた事などなかったので、頼み方も解らないし、すこし不安と言うこともある。
何かミスが有っても私のした仕事だと解るので、納得も出来るが、任せた所にミスが有ったらと思うと……
こんな考え方は良くないよね。
山田さんも南野さんもしっかり仕事してくれる人だから、任せても大丈夫だろうけど。
真菜は席を立つと仲嶋に連絡しに向かうのだった。
「すみません、一時間程度残業したら終わらせられると思います」
『解りました。美術館は22時までしているので、大丈夫です。先にディナーにしましょうか』
「ディナーですか、そうですね……」
夕食は翔とと約束したが、これは仕方ないだろう。
翔さんには後で謝ろう。
『楽しみにしてます。会社の前まで迎えに行っても良いですか?』
「そんな、申し訳ないですよ」
『私がお迎えに行きたいのですよ』
「……では、一階のお客様駐車場で。出来るだけ早く終わらせるようにしますので」
遅くなってしまうし、駅で待たせるより車で来て貰った方が良いのかも。
『急がなくて結構ですので。では、後ほど』
「本当に有難うございます」
中嶋が良い人で良かった。
ホッと胸をなでおろす真菜。
「真菜」
名前を呼ばれて振り向く。
いつの間にか後ろに翔が来ていた。
「職場で名前を呼ばないで下さい」
「誰も居ないよ」
「解らないじゃないですか。何かお探しなんですか?」
ここは人気のない資料室だ。
すぐ隣の部屋なので、電話の時はよくここに入る。
「いや、仕事が終わらないなら俺が代わりにやってやろうかと思って声をかけただけだ」
「大丈夫です。自分の分は終わらせます」
だって翔も忙しいだろう。
とくに今日は金曜日だ。
「今日は皆仕事を終わらせた様で、帰ると言うし、俺も忙しくないから任せて貰って大丈夫なんだが……」
「宮崎さんも仕事を定時で片付けられたんですか!? 自分一人で!?」
金曜日なのに!?
「ああ……」
途中、真菜が教えてたけどなと、思う翔であるが、真菜は「すごいですね!」と、自分の事の様に喜んでいる。
「ちょっと、宮崎さんに声をかけてきますね!」
真菜は宮崎が定時に仕事を終えられた事が凄く嬉しいらしい。
翔の事はもう忘れた様子で資料室を出て行ってしまった。
翔はそんな真菜を目で追いかけながら、溜め息を吐いた。
「宮崎さん、今日はちゃんと仕事を終えられたんですね!」
「ええ、私、やれば出来る子なんですよぉ~」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。田辺さんもファイト!」
「有難う。頑張りますね」
宮崎に可愛く応援され、つられて真菜も拳を握ってウフフっと微笑んでいる。
うわぁ可愛い。
翔は真菜が可愛すぎで悶絶しそうだ。
平静を装い自分のディスクに戻どった。
皆、定時で上がったので、室内には真菜と翔の二人っきりになる。
「志田さんは忙しく無いのに帰らないんですか?」
「忙しくは無いんだが、切がいいところまで終わらせたい」
「早く上がれる時は早く上がって下さいね」
真菜は手を動かしながら翔に注意する。
真菜が残っているのに、自分だけ帰った方が気になって疲れそうだ。
それと、翔は今日、真菜にいつもより多く仕事を配分していた。
仲嶋とのデートに行かせたくないと言う気持ちも有ったが、たまには自分を頼って欲しいと言う気持ちも有ってしてしまった事だ。
どうしても外せない用事に仕事が終わらなければ、真菜は自分に頼ってくれると思った。
『やっぱり私が頼れるのは翔さんだけ』って思ってほしかった。
きっと真菜は人に仕事を任せて遅く帰る様な事は無いだろうから、急いで帰って来てくれるはずである。それで帰ってきたら『仕事を任せちゃってごめんなさい』って謝るだろうから『じゃあお礼はベッドで貰おうか』とか、言って二人で熱い夜を過ごす妄想はまぁ、置いておいて。
兎に角、真菜に早く帰って来て欲しかったのである。
それがどうしてこうなってしまったのか。
真菜が自分を頼ってくれなかった事にもショックがでかいが、それどころかディナーまで共にする事になってしまったし、仲嶋が迎えに来る流れになってしまった。
真菜も真菜である。
夕食は一緒に食べようって約束したのに!
大体、男の車に乗り込むなんて絶対駄目だ。
なんでこう危機感が無さすぎるんだ。
翔は頭を抱えてしまう。
「志田さん、何か問題でも?」
「問題しかない」
「まぁ…… 私に手伝える事であれば手伝いたいですけど、今日は無理なので今度でお願いしますね」
「大丈夫……」
仕事は問題ない。
全然余裕だ。
真菜は心配そうな表情をしたが、直ぐに集中してしまう。
真菜と二人での残業は好きだけど、このあと真菜が他所の男とデートに行くと思うと腸が煮えくり返る翔だ。
ただ、真菜はちゃんと婚約指輪をしているし、外す事もないだろう。
たから仲嶋って奴が本当に紳士ならば心配はない。
本当に紳士ならばであるが。
翔は心配過ぎて胃が痛くなってきてしまうのだった。
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