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「もしもし? 友里恵?」
『今、何処に居るの? まさか翔と居るの? どうして? 私の事嫌いなの?』

 友里恵は直ぐに出たが、泣いている様だ。

「電話に出なくてごめんね。ちょっと忙しかったの。私が友里恵を嫌うわけないじゃない」
『じゃあ今、誰といるの?』
「翔さんと一緒に住む事になったの」
『何で? 意味わかんない』
「今、結婚を前提にお付き合いしてるところ」

 真菜にもよく解らないが、多分、そういう事だろう。

『昨日の今日で何でそんな事になってるのよ! 良いように使われて捨てられるに決まってるじゃない! 私は真菜を心配して言っているんだからね!』

 友里恵も意味が解らないのだろう。
 すごく怒鳴っている。

「うん、有難う。心配してくれて。でも一ヶ月一緒に住んで気が合わなければ、快く無かった話にする予定だし、やってみようかなって思ったの。だから大丈夫よ」
『そんなの絶対に変! 真菜は騙されているのよ』
「相手は仕事の上司なのよ。翔さんの方がリスクが大きいと思うんだけど……」

 騙すだなんてしたら、会社に居場所が無くなる。
 同じ職場に通っている部下に変な事は流石にしないだろう。
 
『真菜なんてもう知らない! 翔に捨てられてボロボロになれば良いんだわ!』

 友里恵はそんな捨て台詞を言って通話を切った。
 どうやら虫の居所が悪かったらしい。
 メッセージに『今度の休みにランチでも行きましょう』と、送ったが未読無視されたみたいである。
 でも、そりゃあ怒るわよね。
 はたから見たら婚活パーティーで出会った翌日から結婚を前提に同棲を始めているんだから頭がどうかしていると思われても仕方ないわ。
 まぁ、はたから見なくても変な状況ではある。

 コンコンと、ドアをノックされた。

「はーい」
「お昼が出来たから食べに来いよ」

 翔が呼びに来てくれたらしい。
 直ぐにドアを開ける。

「なんだか解らないけど、すごくいい匂いがしますね」
「大したものは作れないからな。パスタだ」

 翔に着いてリビングに向かう。
 テーブルには美味しそうパスタとトマトスープ、サラダが並んでいた。

「君みたいに色々作れなくて申し訳ないが、昼はこれで我慢してくれ」
「そんな。すごい豪華なお昼です」

 真菜は頂きますと手を合わせてパスタを食べる。
 
「美味しいです」
「口に合ったようで良かったよ」

 ハハっと笑う翔に、真菜もフフッと微笑む。
 美味しいご飯を食べると楽しい気分になるものだ。
 それにしても、翔さんて本当に何でも出来る人ね。
 食事はいつもインスタントだなんて、嘘ばっかりだわ。
 仕事も出来るし、料理も上手だなんて。
 部屋も綺麗だし。

「お嫁さんは要らないんじゃないですか?」

 一人でも十分な生活が出来ているじゃないか。
 ここに私を入れてもメリットよりデメリットの方が大きそうなんだけど。

「要るよ。俺は君を嫁にしたいんだ」
「どうして?」
「愛しているから……」

 何度言っても解って貰えないと、翔は溜め息を漏らしてしまう。

「愛してるって感情は私、よく解らなくて。好きとかは有るんですけど…… それとは違うんですよね」
「全然違う」
「例えば? 翔さんは私をどんな風に思っているんですか?」
「可愛くて、食べちゃいたい」
「ますます解らないわ……」

 愛していると、可愛くて食べちゃいたくなるの?
 それってどんな感情??
 怖すぎるわ。

「真菜は解らないなら解らないで良いよ。だって、俺と一緒に居て苦痛じゃなかったら結婚してくれるんだろ?」
「それで結婚したら食べちゃうんですか?」
「結婚前でも真菜が良ければ食べちゃう」
「食べちゃうってそういう……」

 昼間っからこの人は、恥ずかしげもなく何を言っているんだろう。
 真菜は顔が真っ赤になる。
 
「いやぁ~それにしても高そうなお部屋ですよね~」

 真菜は適当に話題を変えた。

「主任って給料良いんですね」
「いや、職場の給料でこんな部屋借りられない」

 貰っている給料は真菜と大して変わらないだろう。

「他に何か副業をなさっているんですか?」

 いつも忙しそうにしているのに、他に何か出来るのだろうか。
 真菜はビックリしてしまう。

「兄が会社をやっていてな。その兄の経営しているマンションなんだ」
「えっ、お兄さんすごい人なんですね」

 こんなマンション建てちゃうお兄さんって何者なんだ。

「あぁ。俺も断ったんだが、なんせストーカー被害にあったもんだから、兄も心配してしまってな」

 深い溜め息を吐く翔。
 友里恵のせいね。

「そんなんですね。翔さん、本当に私と一緒に住むの大丈夫なんですか?」
「え? 真菜はストーカーじゃないだろ。別れてもストーカーになりそうにないし……」

 真菜の場合は翔がストーカーになっしまいそうではある。

「いえ、ほら、私、寄りにもよって友里恵の親友じゃないですか。なんか、私を見てトラウマを思い出したりしてしまわないかと思いまして」

 服など、小物、アクセサリー、化粧品まで、多少は友里恵の影響が有るかも知れない。
 友里恵にすすめられて買ったり、友里恵とお揃いにしたりした物もある。
 それでなくても親友であるし、自分を見て友里恵を不意に思い出してしまわないか心配になってしまった。

「友里恵の事はもう忘れたので大丈夫だ。そもそも真菜を見て友里恵を思い出すなんて無い。ただ心配ではあるな」
「何が心配なんですか?」
「真菜な友里恵に傷つけられたり、迷惑をかけられないかだ」
「友里恵は私とは本当に仲良くしてくれているので大丈夫ですよ」

 フフッっと笑う真菜だが、さっき鬼電されて迷惑かけられてたじゃないかと思う翔である。
 真菜は自分の傷に疎そうで、心配な翔だ。

 これからは俺が真菜を守る!

 そう、勝手に誓いを立てるのだった。


「ご馳走さまでした!」
「お粗末様でした」

 真菜は用意したお昼を全部食べてくれた。
 洗い物を流しに持って行ってくれる。 
 翔も自分の分を持って流しに向かった。

「俺が洗っておくよ。ソファーで休んでて」
「一緒に住むんだもの協力しなくちゃ。洗い物は私がしますね」

 真菜は流しから退けずに、皿を洗う。
 なので翔は真菜が洗った皿を受け取って拭くと、食器棚に戻す作業を担う事にした。

 うぉ! これは、初めての共同作業かもしれない。

 職場ではするが、家庭でするのは初めてだ。
 そんな風に思うと急に興奮してしまう翔なのだった。
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