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 タワーマンションの15階、そこに翔の住まいがある。
 真菜はビックリして立ち止まってしまった。
 
「本当にここに住んでいるんですか?」
「ああ、見栄張ってもすぐバレる嘘はつけないだろ。これから一緒に住むのに」

 ええぇ~と、あんぐりしてしまう真菜に苦笑する翔。
 入口から電子キーをかざして開けるタイプの防犯が厳重なマンションだ。
 
「おかえりなさいませ翔様」

 マンションなのにフロント係が居て翔に挨拶している。
 
「今日から俺の部屋に住む田辺真菜さんだ。宜しくな」

 そうフロント係の人に紹介され、真菜はたどたどしく頭を下げる。

「真菜、ここに指おいて」

 何かの機械に指を置けと言われ、真菜は首を傾げながら指を置く。
 ピッ!と、音がして、何か承認され。

「有難う」
 
 大した事もしてないが、お礼を言う翔。
 もう、私の指に用はないらしいので、手を引っ込めた。
 フロント係はフフッと笑いながら「社長がお喜びになりますね」と、言っている。
 何を言っているのか良く解らないし、何も考えられない真菜はスルーした。

「兄貴にはまだ黙っておいて」
「話さなくても直ぐにバレますよ」

 そんな話をして、翔は頭を掻きながら溜め息を吐いた。

「行こう」

 そう真菜の手を引くとエレベーターに乗り込むのだった。

 これまた全面ガラス張りの近未来的なエレベーターである。
 高所恐怖症の人はここには住めないなと、一瞬思ったが、そもそも高所恐怖症の人はタワマンの高層階には住まないだろう。
 真菜は別に高所恐怖症でも無いので、景色を楽しめる。
 まるで遊園地の観覧車に乗っている様で結構ウキウキした。

 チンと鳴って、エレベーターが止まる。

「着いたよ」

 翔は真菜の手を握ったままだった。
 15階で降りると、またドアで仕切られていた。
 そこでも電子キーで開け、入る。
 翔の部屋は153号室だった。
 この階層には3部屋しかないみたいである。
 ここ、絶対めちゃくちゃ高いマンションだよね。
 ビビる真菜を他所に、翔は部屋の前で何か操作していた。

「ここ、指をあてて」
「え? はい」

 言われた通りに指を置く。
 ピッ! と音がし、『真菜』と名前が出た。

「承認した。これ、真菜のカードね」
「あ、有難うございます」

 これが合鍵かぁ。
 真菜は大事に茶封筒にしまった。
 何かの為に茶封筒を持ち歩いている真菜だ。
 大事なものはこれに入れる癖がある。
 鞄からボールペンも出して『カードキー』とメモしておいた。

 翔は大丈夫かなぁと、少し心配そうだ。
 まぁ、万が一紛失しても直ぐに変えられるので、大丈夫だとは思うが、真菜は確りしているし、仕事の資料も何が何処に有るか直ぐに解るような管理の行き届いている彼女の事である。
 紛失する事はまずないだろう。

 翔はドアを開けると、真菜を部屋に招き入れるのだった。

 入ると玄関で靴を脱ぎ、直ぐにトイレとお風呂の場所を教えてもらった。
 もう2つ部屋が有るが、それは後回しにしたらしい。
 廊下を歩く。
 玄関の奥のドアを開けると広いリビングだ。
 リビングの隣にダイニングキッチンが有る。
 そして、さっき飛ばした部屋が翔の寝室と、私の為に空けてくれた部屋だった。

「こっちが俺の部屋で、こっちが真菜の部屋だ」

 そう、ドアを開けて真菜の荷物を置く。
 新しい葦草の匂いが心地よい。

「私の為にわざわざ部屋を空けてくれて、大変じゃなかったですか?」

 よく一日でこんなに綺麗に整えたものだ。
 元々、綺麗に使っているのだろう。

「ここはお客を泊める用の部屋だからそもそも空いていたんだ」
「お客さんが泊まりに来たらどうするんですか?」
「どうせ泊まりに来るって言っても兄貴ぐらいだらか気にするな」
「お兄さんが居るんですね」

 お兄さんが泊まりに来たら追い返す事になるのかしら。
 それは申し訳ないわ。

「此処がクローゼットだ。何か欲しい物が有ったら言ってくれ。俺は昼の用意でもしてくる」

 翔はクローゼットの場所を開いて教えてくれる。
 すごい広いクローゼットだ。
 クローゼットに住めそうなぐらいである。
 私の部屋、ここでも良いけどなぁ。

「私も手伝います」
「いや、疲れただろうから部屋で休んでいてくれ」
「別に疲れてませんけど……」

 寧ろ、良く寝たので元気だ。

「じゃあ部屋に慣れる時間にしておけ。今日から少なくとも一ヶ月は住むことになるんだからな」
「解りました」

 真菜はそこまで言うならと言葉に甘える事にした。
 トランクを開ける。
 翔は真菜の部屋を出るとキッチンに向かった様だ。
 
 片付けるって言っても、持ってきた服をクローゼットにかけて、日用品とかを置かせて貰うだけなんだけど……

 部屋を見渡す。
 翔はわざわざ真菜の為に置き畳を設置してくれた上に卓袱台まで置いてくれていた。
 布団も用意してくれたらしく、端に置いてくれてあるし、収納スペースも沢山用意してくれている。
 広いクローゼットに、何も入ってない本棚、それにドレッサーまで置いてくれて有るのだ。
 昨日一日でここまで揃えてくれるなんて。
 いくらかかったのかしら。
 私、いくら渡したら良いの?
 『いくらかかりましたか?』って確認して教えてくれる訳ないし…… 
 家事を頑張ってお礼にしようかな。
 でも、今、お昼作ってくれてるのよね。
 真菜はうーんと考えつつ、片付けを済ませるのだった。
 衣類はクローゼットにしまったし、歯ブラシはテーブルの上に置いておいた。
 化粧品はドレッサーに置かせて貰ったし、もうする事が無いわ。

 座布団に座り、スマホを開く。
 友里恵から鬼電が来ていたし、流石に折り返した方が良いかな。
 メッセージも増えている。

『何で家にいないの?』
『何処に居るの?』
『何で電話出てくれないの?』
『私の事嫌いになったの?』
『真菜は私の親友だと思ってたのに!』

 メチャクチャ怒ってるみたいだ。
 
 真菜は少しビクビクしつつ、友里恵に電話をかけるのだった。
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