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 部屋に一人残された真菜は、自分の唇に触れながらボーっと窓の外に視線を流す。
 夜景は変わらず綺麗だ。
 シャーーと、シャワーの音が聞こえてくる。
 翔は本気で水を浴びているのだろうか。
 それはそれで心配だ。

 真菜が翔の番号を書いたのは、翔が自分の番号を書いてくれるか知りたかったと言う気持ちもあった。
 もしかしたら他の女性の番号を書くかも知れないと思ったのだ。
 そして自分の番号を書いてくれた事が嬉しかった。
 ただ、都合いい女なんだろうけど。
 勘違いしちゃうなぁ。
 だから、余計に勘違いしそうな事を言わないで欲しい。
 私がうっかり『私も翔さんが好き』なんて言ってしまったらどうするんだ。
 ドキドキさせないで欲しい。
 都合が良い女で居られなくなる。

 友里恵の事もハッキリさせなくちゃ……

 真菜は翔がそんな風に女心を弄んで捨てる様な男には思えなかった。
 仕事も真面目だし、さり気なく気配りが出来て、手を抜かない。
 頼れる上司である。
 仕事とプライベートは違うのかも知れないけど……
 友里恵が嘘をつくとも思えない。
 何か誤解が有ったと思いたいが。
 確認して怪しいと思えば、同棲の話は無しにしてキッパリと関係を元に戻そう。
 私も、さっきみたいに流されない様にしないと。
 部屋に入ってイキナリあんな熱いキスをしてくるなんて、喪女には刺激が強すぎます。


「真菜、こっちに来て」

 シャワーから出た翔はバスローブ姿で、真菜を呼ぶ。

「そこに座っていてくれ」
 
 そう、ソファーに座らされた。

「真菜がどういうつりなのかハッキリさせたい。まず俺の思いをハッキリさせる」
「はい……」
 
 ソファーに座ったのは真菜だけで、翔は仁王立ちになったままだ。
 深呼吸する翔は、思い詰めた表情をしている。
 何を言われるのかと、真菜は身構えた。

「俺は真菜が好きだ!」

 吐き出した言葉は、真菜への告白である。
 真菜は思わず息を飲んでしまった。

「愛しているから結婚したい。好きなもんは好きだ。キスしたいし抱きしめたいしセックスしたい」

 翔は更に言葉を続ける。
 情熱的に言う翔に、真菜は頭が追いつかなかった。
 愛してるって何だろう?
 セックスしたいって?

「結婚したら子供も出来れば欲しい。俺は浮気はしない。真菜を幸せにする!」

 翔の言葉をは止まらない。

「えっと、あの……」
「聞いてくれ。真菜は恋愛感情が無くても一緒に居て苦痛にならなければ結婚してくれる様だが、それで結婚してくれるなら俺は嬉しい」
「えっと……」
「最後まで言わせてくれ。俺は真菜を愛しているから愛していると言うし、可愛いから可愛いと言う」
「志田さん……」
「それから俺を愛していないと言っても結婚したら俺の女だ。他所の男と遊ぶのは不倫と言って良くない事だし、俺も許せない。そんなことになってみろ、俺はお前に何するかわからないぞ!」

 間髪入れずに捲し立てた翔に、真菜は一瞬ポカーンとなる。
 最後の方なんて早口過ぎてちょっと聞き取れなかった。

「解ったか!」

 そう、念押しされた。

 よ、よく解らない。
 ど、どういう事だろうか?

 翔さんは私が好きなの?
 愛してる??

 真菜は気づけば顔を真っ赤にして、俯いていた。
 顔が熱い。
 こんなに熱く感じるのは生まれて初めてだわ。
 どうしよう。
 湯気が出てるかもしれない。

「それで、真菜はどういうつもりかハッキリ言ってくれ。俺と結婚しても他の男と遊んだりセックスするって言うなら俺は許せないぞ」

 ソファーに座ってギュッと拳を握り、真菜を見据える翔。
 すごく、怒っている。

「えっと…… 私の何処が好きなんですか?」
「話しだしたら切りがない。全部だ。今はそういう事を話してないだろう。はぐらかす気か」

 本当に疑問に思って聞いてしまった真菜だが、翔は余計に怒ってしまう。
 そうよね、私が理由を言うターンなのに、質問したら怒るわよね。
 でも、だって解らないんだもの。

「私、不倫なんてするつもりは無いわ。ただ、翔さんは私となら恋愛感情なく結婚出来て都合が良いからだと思ったから……」
 
 とりあえず、不倫はしないと告げる真菜。
 もそも何でそんな誤解をされたのか解らないが。

「真菜が俺をどう思おうと勝手だが、俺が真菜を好きで愛している気持ちはちゃんと理解して欲しい。受け入れなくても良いし、俺は真菜の都合いい男で良い」
「……私、ちょっと頭が混乱しています」

 深い溜め息を吐く翔に、真菜は頭が追いつけずにいた。

 翔さんは、私が好きだから結婚したいの?
 じゃあ、私も翔さんを好きになっても良い?
 そう考えたら、自然と涙が溢れ出してしまった。

「えっ、ごめん。俺、怖かったよな。出る。部屋、一人で使ってくれ」

 泣き出してしまった真菜にハッとして立ち上がる翔。
 怖がらせるつもりは無かった。
 カッとなって……
 頭を冷やした意味が無かった。
 真菜を威圧してしまった。
 言いたい事もまとめたつもりだったが、結局まとまらず、真菜を一方的に怒鳴りつてしまった。
 反省し、翔は部屋を出ようと真菜に背を向ける。

「出て行かないで下さい」

 そんな翔に後ろから抱きつく真菜。

「おい、お前、解らないのか?」

 反省したばかりなのに、真菜の行動にまた怒りがぶり返してしまう翔だ。
 
「あのな、俺はお前が好きでキスとか色々したくなるんだよ」
「してください……」

 翔は振り向いて真菜の肩をつかみ、引き離す。
 真菜は翔を見つめていた。

「キスだけで終わらないぞ?」
「好きにしてください」
「まって、俺が混乱してきた」

 もう一度、頭を冷やして来た方が良いかも知れない。
 さっきは誘惑するなと言った真菜が、今度は誘惑してきてるんだが。
 何故なんだ。

「そんな事より、翔さん冷たすぎます!」
「ごめん。今日は許してくれ。俺だって流石に優しくなれない時は有るんだよ」

 真菜が浮気宣言するのが悪いと思います。

「違います! 体が冷えています。温めないと風邪を引いてしまいます」

 真菜は慌てた様に翔の手を引くとベッドに連れて行くのだった。

「なぁ、本当に勘弁してくれよ」

 俺だっていつまでも我慢してられないよ。
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