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 冷たいシャワーを浴びて、興奮を落ち着かせた翔。
 浴槽で十分温まってから風呂を出る。
 彼女の部屋は脱衣場が無く、出ると直ぐにキッチンの部屋になってしまう。
 側に置いてある洗濯機の上に、タオルが置かれていた。
 それで体を拭いて、浴衣を羽織っているとドタバタと慌ただしい音で誰かが部屋に入ってきた。
 彼女の部屋であるし、彼女で間違い無いだろうが田辺がこんなに慌ただしく入って来るだろうか。
 いつも落ち着いた印象だが……

「あ、お風呂上がったんですね!」
「うわっ、君! 何でそんなにびしょ濡れなんだ!」

 ガラッと襖を開けて顔を見せたのはやっぱり真菜だったが、ずぶ濡れでビックリした。
 あと、浴衣をちゃんと着たあとで良かったが、もう少し早かったら全裸だったぞ俺。

「なんか急に降ってきちゃって最悪でした。志田さんの服せっかく乾燥機かけたのに、大丈夫だったかしら」
 
 真菜は濡れないようにと自分の服の中に翔の服入れていた。
 それを大胆に出すものだから、翔はせっかく取り戻した理性をまたサヨナラしそうである。
 思わず頭を押さえた。
 駄目だこの子、可愛すぎるぞ!

「良かった、大丈夫みたい。あ、志田さんよく見たら死人になっちゃってますよ」
「え?」
「着物は女性も男性も左が上なんです」
「そうなんだ…… って、ちょ!」

 徐に腰紐を解かれて焦る。

「だ、大丈夫だから。もう、脱ぐし……
君は早くお風呂に入って温まった方が良い。風邪を引くぞ」
「あ、そう、そうですね。ごめんなさい」

 腕を掴まれ、ハッとなる真菜。
 またやらかした!
 妹や弟の世話なんかをしていたので、ついそのノリでやってしまった。
 
「ドライヤーが此処に有るので使って下さい」

 真菜は洗面台からドライヤーを出すとコンセントを挿して翔に持たせた。
 洗面台は少し奥まった場所に有るが、鏡を見ればお風呂のドアが見えてしまう位置だ。
 真菜はどうする気だろうか。
 流石に何も考えずにストリップしてくれるとは思わないが。
 良く無いよなと、思いつつ期待して鏡を見てしまう。
 だって俺だって男だし。 
 見たいもんは見たい。

 真菜は洗濯機の上に着替えを置きタオルを持つ。
 服を着たまま風呂場に入り、ドアを開けたまま中で服を脱ぎだした。
 ポイポイと洗濯カゴに衣類を投げ入れている。
 それに、その洗濯機に隠れて何も見えなかった。

 ちょっと残念だ。

 ドアを閉める所まで確認してしまった。

 でも、今、洗濯機の向こうには、彼女の脱ぎたての服が……

 自分で想像し、自分でドン引きしてしまう翔だ。

 俺ってこんな変態野郎だったとは。
 今日の今まで全く知らなかった。 
 女性の脱ぎたての服を想像しただけで、興奮してしまうなんて。

 落ち着け俺。
 翔は深呼吸し、髪を乾かす事に集中するのだった。

 冷たいシャワーで頭を冷やしたのに。
 何の意味も無かったな。



 一通り乾いたところでドライヤーを止め、真菜が乾かしてくれたワイシャツとズボンに着替える。

 これがさっきまで彼女の服の中に……

 もう何でも変な妄想する人になってしまっている。
 翔は頭をブンブン振って妄想を散らし、一先ず隣の部屋に戻った。
 食べ終わった食器類は洗っておこうと、流しに運ぶ。




 困ったわ……

 そろそろお風呂から上がろうと思った真菜だが、キッチンに居る翔が磨りガラスから見える。
 そのままにしておいてくれて良いのに。
 気を使って洗い物をしてくれているみたいだ。
 でも、そこに私の脱いだ服が有るよね。
 下着とかは見えない様にしたつもりだし、別に見られて困るような下着でも無いんだけど、恥ずかしいわ。
 声をかけてみようかしら。

「あの、志田さん、私、上がりたいんですけど……」
 
 これ多分、聞こえてないよね。
 ジャージャー洗い物の音がしているし、自分の声が掻き消それても仕方ない。
 もう少し待とう。
 
 真菜は浴槽を出たり入ったりして湯冷めしないようにしつつ、様子を伺っていた。
 しかし翔がなかなかキッチンから出て行ってくれない。
 皿洗いが終わったら拭いて片付けてくれているみたいだし、残った物も冷蔵庫に入れたりしてくれている。
 何度か声をかけてみたのだが、何かしら動作をしているからか、そもそも風呂場が防音だからか、聞き取って貰えない。
 元々長風呂が苦手な真菜はもう逆上せそうになってきてしまった。

 もう、仕方ないわ!

 真菜はタオルで体を隠しながらドアを開ける事にした。 




 翔は片付けを済ませ、そろそろ帰ろうかと思っていた所である。
 ガラーっと徐に風呂場のドアが空いて驚く。
 ほぼ反射的に振り向いてしまった。

「あの、お見苦しいところを……」

 真菜はちょっと涙目だし、頬が蒸気してフラフラにも見える。

「大丈夫か!?」
「ちょっと逆上せちゃったみたいです」
「すまん、俺が居たせいだな」

 ウッカリしていた。
 俺が此処にいたら田辺は風呂から出られないじゃないか!

「水を飲もう!」

 翔はコップに水を注ぐと、少し塩を混ぜて真菜に飲ませた。
 倒れそうな真菜の腰を抱いて支える翔。

「有難うございます。少し、落ち着きました」
「俺は向こうに行くから何かあったら呼べよ」

 真菜を心配しつつも、翔は隣の部屋に行き、襖を閉めた。
 真菜は洗濯機の上に置いた部屋着に着替える。
 脱いだ物を洗濯機に入れよとカゴを見れば、翔が気を利かせたのか見えない様にタオルがかけられている。

 きっと、見ないようにかけてくれたのね。

 そう思うと、やっぱり可愛いなと思う真菜だった。

 翔が支えてくれて腰の辺りが何だが熱くて、真菜はまた心臓がドキドキしてきてしまうのだった。
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