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 どうしょう。
 真菜は混乱して次の行動の仕方が解らない。
 急にキスされたのはビックリしたが、そんなことより志田さんのスーツをどうするかが問題である。
 こんな恰好で帰すわけにいかない。
 兎に角、直ぐに拭かないと。 
 口を開けるのはその後でいいわのね。
 そもそも、口を開けてってどういう意味か解らないけど。
 何で突然キスしたのかと解らない。
 私が『カレーのルー足しますね』って言ってから側に寄れば良かったのよね。
 よく解らないけど。
 
 真菜は急いでキッチンから濡らしたタオルを持ってくる。
 さっと拭いて脱いで貰おう。
 そう思ってトントンと、ワイシャツの汚れた所を拭う。
 
 あら、ズボンにまでかかってしまっているわ。
 
「火傷はしてませんよね?」
 
 真菜は心配しつつ、下の方もトントンする。
 
「や、火傷はしてないが…… 田辺、コソはちょっと……」

 股間をトントンされ、慌てて真菜の手を掴む翔。
 こんな事をされては、たまったものではない。
 下半身が反応してしまう。

「ああ、ごめんなさい私ったら」

 ハッとなる真菜。 
 何もしないとか言っておいて、何をしているんだ私は!
 これじゃあセクハラだ。

「洗うので脱いでください……」

 ああ、これもセクハラよね。
 でもしょうがない。
 
「何か着れそうな服があったかしら」

 真菜は急いでタンスの中を確かめる。

「あ、これなら着れるわ」

 見つけたのは寝巻き用の浴衣だった。
 見ない様にして翔に渡す。

「着た方、解ります?」
「あ、ああ大丈夫だ」

 言われた通りに服を脱いだ翔は、真菜から受け取った浴衣に袖を通す。
 これ、田辺がいつも着て寝ているのか?
 そう思うともう、興奮が収まりそうにない。
 もう変な事を考えないようにしたいが、次々と不埒な妄想が止まらなくなってしまい、どうしようもないのである。

「いつも浴衣で寝るのか?」
「いえ、実家から送られて来たんですけど、私はパジャマ派で。新品なので安心してください」
「そうか……」

 違った。残念だ。

「お風呂、わかしてきますね」

 真菜は翔が脱いだワイシャツを持って風呂場に行くのだった。
 一人残された翔は、これからどうしようかと悩む。
 でも、食事が途中であった事を思い出して気づいたら夕飯の続きをしていた。
 田辺の作った飯が旨すぎるのが悪いと思う。
 気づいたら鱈腹食べてしまっていた。



 真菜はお風呂を用意しつつ、翔のワイシャツとズボンを丁寧に手洗いしてみる。
 やっぱりクリーニングに出した方が良さそうだ。
 いや、もう弁償するべきよね。
 だけど、あの寝巻きで家に帰す訳に行かないし。
 一旦、乾燥機で乾かして、着て帰って貰うしか無いわ。
 乾燥機が無いからコインランドリーに行かないと。
 そんな事を考えていると、翔が風呂場に顔を覗かせた。

「あ、手洗いしてくれたんだな」
「ええ、でも落ちそうに無いです。これからコインランドリーで乾燥機にかけてきますね。後で弁償させて下さい」
「いや、田辺が悪いわけじゃないし気にするな」

 どの口が言っているんだろうと翔は思いつつ、真菜が凄く気にしてしまっているので肩を叩く。
 何方かといえば悪いのは俺なんだが……

『お風呂がわきました』

 電子音がお風呂の準備が出来たと知らせる。

「志田さんはお風呂に入っていてください」
「じゃあ、一緒に入る?」

 また言ってしまってから、何言ってるんだ俺は! となる翔。
 さっきから俺はおかしい。
 思った事をそのまま言ってしまう。
 ちょっと変なスイッチがオン状態だ。
 切り方が解らない。 
 ほら、田辺もまたドン引きしてる。

「いえ、コインランドリーに行かないといけないので……」 
 
 真菜は翔のワイシャツとズボンをギュッと絞って水気を切る。
 もう、弁償するし、帰るだけに使うからと思って吹っ切った。

「じゃあ、ゆっくり温まって下さい」

 真菜はそう言うと風呂場を後にした。
 残された翔はボーゼンとなる。
 絶対変態だと思われた。
 そして脈が無さすぎる。
 悲しい……



 取り敢えず鍵と財布と洗濯ネットに入れた翔の服だけ持って外に出た真菜。
 今更顔が熱くなってきた。
 志田さんはどういうつもりなんだろう。
 冗談? からかってらだけ?
 結婚しようとか、キスしてきたり、一緒にお風呂に入ろうなんて……
 どういうつもりの発言なのかさっぱりである。
 私、遊ばれてるのかな?
 志田さんは誠実な人だと思っていたけど……
 でも、嫌じゃなかった。
 いや、彼みたいに格好良くて何でも出来る人にあんな事されて嫌な女なんて居ないだろう。
 きっと遊んでもらえるだけでも嬉しくなっちゃうよね。
 私が変なわけじゃない。
 きっとみんなそうよ。

 真菜はそんな風に思いながら、ちょっとフワフワと浮かれた気持ちでコインランドリーに入るのだった。

 こんな気持ちは初めてだった。
 悪い気分じゃない。
 乾燥機に服を入れる。
 20分程、かかりそうだ。
 その間で気分を落ち着かせよう。
 そう言えば、出てくるときに卓袱台を見た。
 ほとんど食事を食べきってくれていた。
 それが嬉しかった。

 また作ったら食べてくれるかしら。
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