人魚と捨てられた王様

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31話

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 白亜を浜辺に置いて来た漆黒は、朽葉を連れて裏柳の元を訪れた。
「えっ!?」
 子連れの漆黒を見て驚く裏柳。
 まさか隠し子か? と、疑うような視線を漆黒に向ける。
「誤解しないでくれ、白亜の子だ」
「はぁ??」
 何を言ってるんだと、裏柳は漆黒を睨む。
 白亜が妃を娶って子供でも産めば盛大なお祭り騒ぎである。
 そんな話は聞いていない。
「いや、話せば長くなるのだが……」
「短く話せ」
 裏柳は漆黒を疑って、不機嫌である。
 朽葉は困った様子で漆黒の後ろに隠れていた。
 漆黒は朽葉の記憶がどうなっているのか解らず、彼の前でマーメイの話は避けたかった。
 しかし、裏柳への説明はマーメイの話をしなければならない。

「こんにちは、俺は黒柳。君は?」
 気を利かせてくれたのか、歳が同じ頃の子供と会うこと等なく興味を持ったのか、黒柳が出できて朽葉に話しかけた。
 朽葉は困った様子で視線を迷わせている。
「玄関先で立ち話しも何だし、中に入って」
 黒柳が朽葉の手を引いて、家の中に入れたので、裏柳も視線で漆黒に取り敢えず入れと促した。

 黒柳が朽葉と話をしてくれていたので、漆黒は二人から少し離れた所で裏柳に詳細を説明する。
「そうかマーメイさんが白亜を拾ってくれたんだな」
「ああ……」
 白亜が生きていると知り、ホッとする裏柳。
「それで、マーメイさんは白亜から自分の記憶だけ消して白の国に帰したと」
「そうだ」
「なんだか何処かで聞いたような話だな」
 別に嫌味では無く、自分の記憶を消したのは漆黒でも無いのだが、漆黒には嫌味に聞こえた様で肩を竦めてしまった。
「それで、白亜が育てると決意したあの子を取り敢えず漆黒が預かって来たと」
「ああ……」
「実質、俺が預かるって事になるな」
「そうなります……」
 仕方ないと溜め息を吐く裏柳。見るに二人で楽しそうにしている。黒柳は朽葉を気に入ってるみたいだし、別に良いのだが。
 漆黒は裏柳が怒っていると感じ縮こまってしまっている。
「まぁ、良い。取り敢えず、あの子の記憶がどうなってるか確かめた方が良いな」
 裏柳はそう言うと朽葉に話を聞きに行く。

「こんにちは」
 そう、朽葉の隣に腰を下ろす裏柳。
「あ、朽葉は耳が聞こえないんだ。だから筆談か手話だって、朽葉は読唇術で解るけど」
 黒柳がそう教えてくれる。
 朽葉は丁寧に頭を下げた。
「そうなんだ。解った。しばらくは此処に住んで貰うことになったんだけど良いかな?」
 裏柳は出来るだけ口をしっかり開けて伝える。
『有難うございます。宜しくお願いします』
 そう筆談で伝えてくれる朽葉。
「俺は裏柳、あっちの漆黒はあまり家には居ないけど、たまに帰ってくるよ」
 何だか棘を感じる説明に、漆黒は胃が痛くなってくる。
「朽葉は生贄にされて海に流されたんだけど、奇跡的に無人島に辿り着いて、先に流れ着いていた王様と二人で暮らしていたんだって。一緒に帰ってきた王様は忙しいみたいで、置いて行かれちゃって心細いって」
 そう朽葉の事を代わりに説明してくれる黒柳。
「朽葉はここで暫く暮らすんだろ? 俺が居るから寂しくないな!」
 フフっと朽葉に話しかける黒柳。朽葉もフフと笑顔で返している。
 どうやら早くも打ち解けてくれたらしい。
「しっかりメイの記憶は消えている様だな」
 そう漆黒が裏柳に耳打ちする。
「白亜の方はどうだろうな」
「暫くは忙しくなりそうだし、近づけないだろう」
「ああ……」
 裏柳は白亜が心配である。側で側近として支えてやれれば良かったのだが、彼を裏切ってしまったも同然な自分が顔を出しても白亜は喜ばないだろう。
 もしかしたら恨まれているかもしれないな。
 そう思うと裏柳は少し寂しさを覚える。
 親友を裏切ってでも、自分は漆黒と一緒になりたかった、黒柳を産みたかったし、育てたかったのだ。
 そして得た幸せは白亜を犠牲にして成り立ってしまったのかも知れない。
「おい、また変な事を考えて自分を追い詰めてんじゃねぇだろうな?」
 裏柳の表情に、心配になる漆黒。
「大丈夫。朽葉の面倒もちゃんと見るよ」
「悪いな。出来るだけ顔を出すようにする」
 漆黒は申し訳ない。
 だが仕事もあるし、国をホイホイ空けられないのだ。
「解ってる。今日はもう帰れ。と、言うか暫く泊まりに来ないでくれ。お前の部屋を朽葉に宛がうから」
「えっ……」
 部屋数が足りないなら増築するんだが……
 裏柳はやっぱり何か怒っているんじゃないかと不安になる漆黒であった。
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