人魚と捨てられた王様

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28話

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 家臣達に無理やり厚着をさせられ、流石に大袈裟ではないかと思ったが、室内から出た途端、一面の銀世界に一瞬見惚れてしまった。
 これはこれで綺麗だなぁと思ってしまうが、食物や魚が取れないのは困る。
「王がお帰りになられるまでは吹雪きが続いておりましたが、今は天気も回復し、青空まで見えますね。気温もだいぶ高くなりました」
 海も穏やかで、水温も高く。白亜が倒れていた浜辺は春の様な気温で見つけた漁師も驚いていたと言う。「白亜様が春を連れてきた」と、喜んでいたそうだ。
「雪など初めてみたが、こうして見ると綺麗だね。でも早く溶けて欲しいな」
 白亜の為に家臣達が先を歩き、雪に道をつけてくれる。
「雪が積もってしまっていたので、外の国とも連絡出来ず、支援も滞っています。雪かきをしても直ぐに積もってしまうので……」
「そう……」
 国民性にも体力の少ない白の国である、雪かき等の労働は苦手だ。
 町に出ると、活気はなく、市場も少なくとなってしまっていた。
 売り手も買い手もひっ迫しており、市場ほ閑散とし暗い様子だ。
「このトマトはいくらかな?」
 そう、少ない品物を出している初老に話しかけた。 
「お金なんてあってもしょうがねぇ、米一合と交換だ」
「米一合?」
 お金より今は米のが大事な様だ。
 白亜は市場なから離れると、家臣達に命令を出す。
「国民達に食物や野菜、魚を保有している者達には持ち寄って貰って、城からまとめて配給しよう」
「解りました」
 家臣の一人に国民へと号令を出してもらう。
 市場を後にした白亜は、伐採したという山に向う。
 元々、白の国には大きな山は無く、なだらかな丘の様な山しか無いのがだ、それが伐採され、はげ山になってしまっていた。
「これは酷い……」
 あまりの有様に、白亜は頭を抑える。
 なだらかな山なので、そこまで心配してはいなかったが、木が無ければ土砂崩れ等を起こすかも知れないし、鳥や野生動物も来なくなってしまう。
 そもそも白の国の木々は育ちが良く、高価で売買されていたのだ。
「伐採した木はどうしたの?」
「外の国に売りました。白の国の木は高価なので少し安くしても沢山切り出せばそれだけ儲けが出ると」
「そう……」
 そんなに儲けてどうしようと言うのか、白亜にはサッパリだ。
 持続性も無ければ、いっときの金の為に歴史ある素晴らしい景観や、自然を台なしにしてどうする。
「新王は白亜様とは違い、浪費癖の激しい方で、毎晩白で舞踏会を開き、美女を抱いては酒を煽る様なお方で……」
「あの子が?」
 聡明で可愛らしい、ちょっと狡賢い所のある子だったが、そんな節ダラな子じゃなかったと思った。
 酒をは嗜む程度だったし、美女を侍らせる様な事も、浪費癖がある様な事も無かった。
 高価な物をおねだりされた事等無かったし、僕は要らないが、βである弟の為にハーレーを用意してやろうかとも思ったが、要らないと断られた程だ。 
 何故、そんなにまで人が変わってしまったのだろう。
「木の苗は僕の研究室から少しずつ持って来て植えるしかないな。僕も頑張って苗を増やすよ」
 白亜はちょうどこの辺の山に自生する木々を調べ、少し採取しては城に併設した植物園で育てていたのだ。
 あの小さな苗たちはまだ何の価値も無い。弟も見向きもしないだろう。
 無事だと思う。
 他国から苗を買い寄せる方法も有るが、外来種を入れると固有の物が育たなくなってしまう恐れがあり、それは避けたかった。
 何年かかる事か、先の見えない話だが、仕方ない。 
 兎に角、早く雪が溶けてくれない事には何も出来そうになかった。

 山から海の方が見えた。
「あんなに荒れていたのに、今日は不思議と穏やかです」
 白亜に付いて来た側近が海を見なから呟いた。
「いつもの海だね」
 白亜の知る、白の国の穏やかな海そのものだ。
「漁師達もこれから少し漁に出てみようと言っていました」
「そうなんだ。じゃあ僕もお祈りしなきゃね。城に戻って花を摘んで来ようか」
 白亜は視察を切り上げて城に戻る事にする。
 海の精霊は花が好きだという言い伝えである。
 でも、なんでだろう。
 海を見ると少し悲しく、恋しい気持ちになったのは……
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