人魚と捨てられた王様

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19話

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 可愛いハクを観察し、楽しんでいたマーメイであるが、波の違和感を感じとる。
「またぁ」
 溜息を漏らしてしまう。
「どうかしたのか?」
 マーメイに観察されていた白亜もマーメイを観察して楽しんでいた。
「ごめんね。ちょっと行ってくるね」
 マーメイは急いで部屋を出ていく。
 白亜はそれを心配そうに見送った。

 マーメイは溺れて意識を失っている人間を拾い、持ち帰る。
 今日の子はまだ子供である。
 最近、殆ど毎日人間が落ちてくるのだ。
 おそらく白の王国からの生贄だろう。
 今までこんな事をする国では無かったのだが、本当にどうしたのだろう。
 高波を続けている影響なのだろうが、正気の沙汰とは思えない。
 海にお祈りするでもなく、生贄を落として来るなんて……
 高波を止めても、また珊瑚を傷つけ、魚を乱獲しそうである。
 白の王国の王は一体何を考えてるのか。
 マーメイにはサッパリ解らない。
 白の王国の王は海からの恵みに感謝し、海を愛していた。
 頻繁に海へ綺麗な花投げてくれていたし、祈りが届けられていた。
 きっと代々受け継がれる物を大事にする清らかな優しい王達なのだろうなと、マーメイは見えないが尊敬し、此方からも精一杯の海の幸と珊瑚や真珠等でお返ししてた。
 この様子では森や大地の精霊達も怒らせ、作物の出来も悪くなってたりするのかも知れない。
 白の国は元々、綺麗な海、そして実りが豊かな土地だ。それは海を人魚が、森を精霊達が、そして側で魔物を閉じ込める黒の王国が其々守ってあるからである。
 白の王国は神々から愛された土地なのかも知れない。
 流石のマーメイでも理由は知らないが、特別な土地なのだ。
 その均衡が崩れかけている。
 神に認めらない愛されない王が王位に着いてしまったのだろう。
 大変な事になってしまっているのだ。
 マーメイが頭を悩ませるのも仕方がなった。
 だが、人間の王に王を変えろと進言する手立てもなく、こうして天変地異を起こし解らせる他ない。
 森の精霊達も同じ事をしているだろう。
 そのせいで、被害にあってしまう人々には申し訳ないが、均衡を保つには仕方ないのだ。
 だが、これで白の王国の王が変わったとして元に戻るのだろうか。
 おそらく神から愛された王が居るはずである。
 白の王国の正統な王は神から愛されている。謀反を起こされようが、事故に巻き込まれようが、暗殺されかけたとしても、正統な後継者も居ないままに命を落とすと言う事は絶対に無いのだ。
 奇跡的な幸運で助かる筈である。
 それが行方を眩ませてしまったとなると、自分の意志で王が嫌になり、何処かに隠れてしまったか、幽閉されてしまっているか……
 何方にしろ海の中にいるマーメイにはどうする事も出来無い。
 漆黒に相談の手紙も出したが、マーメイは忙しく手紙の返事が来たかどうかも曖昧になってしまうぐらいだった。
 何しろ四つの海をまとめる王である為、私的な手紙より、他の手紙を読むのに忙しい。
 今日は無理やり時間を作ったのだ。
 何も考えず綺麗なハクを見て癒されたかったのに!
 マーメイはムツとしつつも、拾った人間を連れ帰る。
 空気の部屋に入れて意識を取り戻せば地上に返すが、中には息を吹き返せず命を落としてしまう者もいる、何方かとを言えば命を落とす方が多いだろう。その場合は海に流し、丁重に弔っていた。 
 
「ハク、ごめんね。この子も入れてあげてね」
 マーメイは申し訳なさそうに謝り、拾った人間をハクの居る空気部屋入れる。
 もう一つ作っても良いのだが、流石に少し疲れて面倒だったのだ。
「え? この子はどうしたんだ?」
 急に出ていったと思ったら意識が無く、青ざめた人間の子供を拾って戻って来たマーメイに驚く白亜。
 それにこの子は白の国の子だ。
 産まれたばかりの頃に祝福を頼まれて祈ってあげた事があった。
 あの頃、裏柳に逃げられて荒んでいたから祈りも投げ槍だったかも知れない。だがら海の事故に合ってしまったのか。
「生贄だと思う。白の王国はどうしたんだろうね。冷血な酷い暴君が暴れまわってるんだろう。本当に困ってしまうよね」
 マーメイは深い溜め息を吐く。
 白亜はただの水難事故かと思っていたが、違った様で、驚いて言葉を失くしてしまう。
「今月に入ってから急におかしくなってね。一週間程前から殆ど毎日、多い時なんていっぺんに3人落ちてくるんだよ」
 三人落ちて来た時は、流石のマーメイも拾いきれず、一人流してしまった。 
 思い出したくもない。
「なっ、それは本当?」
 驚く白亜。自分の弟がそんか冷血な事をするとは思えない。
「白の王国の王も切羽詰まっているんだろうけど……」
「切羽詰まっているって?」
「海を大荒れにしているから海の幸も望めない、それに多分、大地や森の精霊も怒らせてしまっているから作物は取れないだろうし、もしかしたら雪とか降らされてるかも知れないね」
「なんでそんな事を……」 
 白亜は言葉を詰まらせる。
 海を大荒れにするなんて、マーメイがしているのか?
 それに、大地とか森の精霊って何だ。そんな者が居るなんて知らない。
 白の王国は常夏の国である。雪なんて降らされたら…… 
 作物も海の幸も、何も望めないような国、他の国からもきっと見放されてしまう。
 白の国は豊かだから価値が有ったのだ。
 それに、そんな状態ならば責められるのは王である弟。
 王が駄目なのだと思われ、島流しになるか、最悪死刑。
 そんな事になったら弟は弟は……
「ハク、大丈夫。心配しないで」
 青ざめてしまった白亜を見て、マーメイは余計な話を聞かせてしまったと反省する。
 ついつい愚痴を言ってしまったが、白亜には関係ない話である。
「ハクが居るあの島は私の管轄だから森の精霊も大地の精霊も手出しは出来無いからね」
 そもそも白の王国と関係ない場所に制裁を加えようとはしないだろう。
 今、問題なのは白の王国だけである。
 だが、白亜は島の心配をしている訳ではない。
 僕のせいだ。
 僕が無責任に責務を放り出し、背を向けてしまった。
 弟が国を治めるならそれで良いと思ったのだ。
 全て忘れて何者でもないハクとして新しい人生をただの人として生きていけたら良いと、そう思ってしまった。
 僕が間違えてしまった。
 そのせいで国民が困る事になるなんて、天災に見舞われ、弟が窮地に陥れられるなんて思っても見なかったのだ。
 自分が消えたのとたまたま同じタイミングだったのかも知れない。
 自分が戻っても同じかもしれない。
 それでも罰せられるのは自分であり、弟では無いはずだ。
 それに自分が王だったらいくら天災に見舞われたとして生贄を海に捧げたりしない。
 海に捧げるのは花と祈りである。
 それが先代からの決まりであり、書物にも記されている。調べたり勉強すれば分かるはずだのだが……
 何方にしろ、今、ここでこの何の罪もない子供が死の淵に居るのは、紛れもなく自分が王と言う立場から逃げ、謀反を起こした弟を放置してしまったからだ。
「ごめんね、ごめん……」
 謝って許されるものではない。
 白亜はそう思っても謝るしかなく、ただ必死に水で冷えてしまった子供の体を抱きしめ温め、人工呼吸を施すぐらいしか出来なかった。
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