サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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最終章 半端でも仙人

第161話 勇者との戦い方

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 また自分の頭を叩いている。
 その勇者君が、気絶している剣の少年を苦々しく見ていた。

「敵を増やさない。わかってます」

 嫌な予感がすると思った時には、すでに剣の少年が2つに分かれていた。

「仲間殺しにゃ! ヤベー奴だにゃ!」
 ブルブール!

 カオルは、手で口元を押さえているだけで動きそうにない。

「ペロ! 1回下がって」

 カオルたちはいないが、ミコとメサがいる。それにしても海野さん遅いな……。

「おっさん! こいつ危険にゃ!」
「見りゃわかるだろ!」
「アチシの毛が逆立ってるにゃ! ん?」
「なんだ?」

 俺は勇者から目を離せないんだが、ミコはこっちをガン見してる気配。
 不思議と勇者は手を出して来ず、不思議そうにこちらを眺めている。

「おっさん右手やられたにょか?」
「不意打ちを喰らっちまった」
「やっぱり雑魚にゃ。アチシが守ってやるにゃ」

 普段なら「うるせー」と返すところだけど、今は助かる。
 勇者君の斬撃は強力で精度も良いが、近接はこっちのほうが慣れている。それをわかっているのか近づけさせようとしてくれない。

「ぶんぶん飛ばしてばかりにゃ。戦士なら近くでやれにゃ」
「君たちを見くびったりはしないよ。このままやらせてもらう」

 片手で頭を叩く動作が気になる。会話のたびにするのは癖なのか?

 メサとミコの戦い方は、力推しというより、相手の力を逸《そ》らす方法。俺と似ているかもしれない。
 移動時も、2足歩行だったり4足歩行だったり気まぐれに使い。避ける時も、伸びをしたり、転がったりと変わっている。
 メサが加わると、空中まで移動出来るので、さらに幅が広がっている。天井から落ちてくる時、着地点に斬撃を放たれたが、メサが空中でミコを捕まえていた。それを見た時に、ミッション映画を思い出して笑ってしまった。
 こっちにも斬撃を向けられて、余裕無くなったんだけどね。
 俺も毒瓶を投げつつ視界を塞《ふさ》いだり、投擲で挑発している。
 そんな奴らが3人。いや、2人と1匹相手にしていると、さすがに勇者君のイラつきも大きくなる。

「狂った奴らだ!」
「お前にょ方が変態にゃー!」

 え? 変態?
 一瞬なんでその言葉になったのかわからなかった。

「変態じゃなくて変人。んにゃ?」
「もしかして狂人か?」
「それにゃ! でも、変態には代わりにゃい」

 ミコの目線の先には、顔面を赤くした勇者君が、頭をガンガン叩いている。

「わかってます! わかってます!」
「やっぱり変態にゃ」
「うるさーい!」
「にゃあああああ!」

 叫び声が地下道に響くと、俺のことを無視して、ミコやメサと追いかけっこを始めてしまった。
 そこにナイトや海野さん、カオルたちまで戻って来た。

「ナイトさんの治療に時間がかかりました」
「海野君のおかげで戻れたよ。それでこの状況は?」

 奮戦してくれたナイトには申し訳ないけど、遠回しせずに言ってしまう。

「うーん。勇者君の対応は、からかい続けるのが良かったみたいだ」
「はぁ? 言ってる意味がわからないぞ?」
「説明する時間も惜しいから、先に動けなくしてしまおう」
「そうだな」

 こんなチャンス無いだろう。
 遠巻きにしていた蜘蛛を呼んで、拘束作戦を開始する。
 蜘蛛たちを精霊魔法で隠し、一斉に糸をかけるつもりだ。それを掛け終わると、様々な毒薬を取り出し、それぞれに持たせる。

「おい。この薬大丈夫か?」
「大丈夫じゃ無いから、間違ってもかかるなよ」
「あいつ死なないか?」
「それは無いと思う」

 ちょこちょこ弱めの毒瓶投げていたけど、全然効かなかった。魔力で守られているせいで効かなかったのかと思い、念の為に瓶を気で纏《まと》わせておいた。

「さぁ、始めるぞ」

 俺の合図で一斉に囲い込む。

「なんだお前ら! 邪魔するな!」
「にゃにゃー。変態に追われてるにゃー!」
「さっきから五月蝿い!」

 ミコがナイトの後ろに隠れこむと、斬撃を放っていた。
 ナイトが剣で受け止めると、火花を散らしながら金属音が鳴り響くが、数秒後に勇者の斬撃を弾き飛ばしてしまった。と喜ぶところだが、俺はナイトに渡した瓶が壊れないか心配でしょうがない。
 左手に持っていた瓶が無事なことを確認して、やっと一息つける。

「いけー!」

 四方八方から糸をかぶせ、動きが鈍ったところで瓶を投げつける。瓶に込めた気と魔力が対消滅を起こして、弾みで瓶割れて毒薬が体に届く。
 明らかに動きが鈍り、痙攣を起こし始めている。

「カオル! 今だぞ!」
「はい!」

 ペロと一緒に飛びかかり、勇者君の頭部に気を込めた掌底をかますと、彼の体に纏わりついていた魔力が霧散していく。
 すぐさま駆け寄り、カオルについた毒液を聖水で洗い流していく。
 心配だったので、何度も勇者君の怪しい箇所に気を打ち込んでおくが、変わった様子は無い。
 俺の前で1名助けられなかったのは悔しいが、勇者君が溶けることは無さそうだ。

「ノール。ウチの隊長は上にいると思うから、先に行ってるぞ」
「まだそっちが居たのか」

 地上に出たら数分で良いから休ませて欲しいくらいだ。足早に去ろうとするナイトに、麻痺系の瓶を渡しておく。

「それが効かなかったら呼んでくれ」
「わかった」

 単発でゾンビがやってくることはあるが、そちらは蜘蛛たちに任せることにした。

「マザーには洗脳兵はいなくなったと教えてます」

 カオルが肩蜘蛛を指先で突きながら言っていた。
 今回は本当に助かった。あれだけ大量の蜘蛛が味方に居たからこそ解除出来たが、俺たちだけだったら諦めていただろう。
 そこかしこに兵士や傭兵たちの死体があるのは悲しいが、高望み出来るほどの力は持ってない。気を取り直して、一旦引き上げよう。

「負傷者を連れて救護所へ行こう」

 草臥《くたび》れて、髪までとっ散らかった明石さんが出迎えてくれた。

「先生! 終わったんですか?」
「洗脳兵はいなくなりましたよ」
「あぁ、やっと」

 すでに重症な者から運び出されており、残っている兵士たちも数人程度。傭兵たちは、戦い足りないと言わんばかりに地上を目指し、先に出ていってしまった。
 ミコは1人残って、勇者と弓少女の脇腹に1発ずつ蹴りを入れていた。

「そいつらに言っとくにゃ。文句があるにゃらかかってこい! 今度は心までへし折ってやるにゃ! にゃはははは!」
 ブルブルブルブール!

 肩で風を切りながら練り歩く姿は、可愛げがあって面白いが、内心は恨言《うらみごと》をもっと言いたかったのかもしれないな。
 負傷者や動けない奴を担ぎながら出口を目指していると、後ろから蜘蛛たちが大量に走って来た。どいつもこいつも出口を目指している。

「あー。まずいな。出口へ早く!」
「走れー!」

 遅い奴を押しながら急かしていると、外からヒュルヒュルと妙な風切り音が聞こえて来た。出口を出る瞬間、背中から衝撃を受けて押し出される。一瞬背後が見えた時は、土の波から守るように、マザーが子蜘蛛たちの盾になっている姿だった。

 大量に居た蜘蛛たちはすでに散り散りになり、残っているのは肩蜘蛛2匹と付き添い蜘蛛のみ。
 人は全員いるが、みんな渋い顔をしている。

「とりあえず現状確認だ」
「実さん! あそこです!」

 カオルの指すところには、王冠にローブという姿の禍々しい骸骨がいる。あいつがワイトか。

「嫌な奴が来たもんだ。気付かれないように退避だ」

 息を殺しながら逃げさせていると、ワイトがこちらを見ているように感じた。
 いつもなら全体を警戒しているはずだけど、その時だけは意識がワイトにしか向かなかった。タイミングも良く、ドラちゃんの追撃で、ワイトが砂のように崩れ去っていく様子が見える。
 だから後ろで、勇者君から立ち登る魔力がわからなかったんだろう。
 それに気付いた時は、すでに知ってる奴に話しかけられた時。

「みぃつけた!」

 声を聞いた直後、突き飛ばされる感覚と何かが斬られる音がした。
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