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最終章 半端でも仙人

第160話 弓少女は恐ろしい

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 時間を稼ぐなら、出来る限り舐め腐って貰ったほうが良い。
 どうするかな。
 おべっか使ってみるか。
 後ろにゾンビがいる。
 よし。

「へへへ。まさか勇者の妹さんとは思いませんでした」
「な、何よ気持ち悪い」
「そんなこと言わずに! ぜひぜひ私にもお力を」

 ギリギリと弓を引き絞る音が大きくなる。

「殺すわよ!」
「ひぇぇぇ! おたすけぇ」

 土下座した瞬間、矢が頭上を通り抜ける。

「ちっ」

 ちらっと後ろを見てゾンビを見ると、特撮映像みたいに爆発していた。

「うお! マジやっべ」
「次は当ててやる」

 舐められてる状態でこれか。
 本気で避けるかズラさないと危ない。
 どうしたものか。
 左にもう1人の勇者パーティーの奴がいるな。
 弓の引き絞る音が聞こえる。

「くそ! ちょうど動くなんて運が良いわね!」
「うわぁぁ」

 カオルから貰った棒を前に突き出す。

「ぶふ。その壊れかけで相手してくれるの!?」

 プルプル震わせながら棒の先に幻術を使う。そのまま左へ駆け出すと弓も一緒に動いてくれた。
 俺の幻術は走ったままにして、タイミングを見てコケれば良いだろう。

「逃げても一緒よ! くらえ!」

 耳に気持ち悪い金属音を鳴らした後、鈍い衝撃音を響かせると、天井から薄らと光が入って来た。

「メイ! 俺に当てるなよ! 剣で弾かなかったら死んでるぞ!」
「ごめーん。なんで順に当たってるのよ……」

 せっかく幻術で誘導したのに、上手く当たらなかったか。
 軽い怪我すら無かったのは予想外だ。
 2度目から効きづらいし、この子にはもう使えないか。
 後ろに剣の少年を抱えるのは嫌だし、少しずれよう。

「なんで当たらないのかしら?」
「お、俺の実力だよ!」
「うーん」

 悩みながらも弓を引き始めている。
 油断がだんだん薄れて来てるな。
 下手くそに飛んで避けるが、目が真剣になってきている。

「やっぱり曲者《くせもの》っぽいわ」

 目敏い奴だな。
 5分程度しか持たなかった。
 これからは全力でやるしかない。
 深呼吸して相手を見据えると、魔力が溢れ出ている。

「やる気出て来たわ」
「俺は萎えてるから帰って欲しい」
「嫌よ。私は勝つのが好きなの! 勝負が終わるまで逃さないわ」

 そう言われると逃げたくなるが、今は足止めだった。
 再び棒に気を込めて、今度は斜め下へ向ける。

「さっきの変なやつかしら? 今度は外さない」

 これまでで一番魔力を纏った矢が飛んでくる。
 棒でヤジリに触れて上に反らせる。ついでに軽くしようと思ってたが、早すぎてそんな余裕は無い。
 反らすことは出来たが、また天井に穴が開いてしまった。
 さらに棒が砕け散ってしまった。

「はぁ」
「私の矢を受けて、その程度なら十分じゃ無いの」
「半分だったけど、貰い物だったんだよ」
「それは悪かったわね。でも、気にする必要も無くなるわ」

 使えそうなのは、世界樹の枝か。

「その枝。見たことあるわ」
「そう?」
「あの時の奴ね」

 そう言うと、いきなり妹さんが剣の少年に話しかける。

「順! そっちは終わりそう!?」
「無理! こいつら当たらねぇんだ!」

 当然だろう。お前の相手はミコとメサだよ。
 というかメサたち2人なら倒せるんじゃないか!?
 早く助けに来てくれ!

「相手は私だけね。独り占め」
「オジサン嬉しく無いなぁ」
「可愛い子を前にしてそれは無いでしょ?」

 話しながら弓を撃ってくる。
 しかも避ける方向に微妙に曲げながらと嫌らしい。

「ちっ」
「オジサンも舌打ち多い子は苦手かなぁ」

 だんだん口数が減り、撃つ間隔が短くなって来た。

「「実さん!」」

 ちょうど避けたところでカオルたちに声をかけられる。

「減らせたか!?」
「残りは傭兵さんに任せられます。あとはこっちだけ」

 危なかった。外れる度に精度が上がって来て、そろそろ回避出来なくなる所だった。

「カオルさんと先生。強くなられたみたいですね」
「えぇ」
「動きからすると、そこのオジサンね」
「メイさんも止めてこっちに来ましょうよ」

 カオルと話している間に、先生が弓少女の気を引いていた。

「こんなに楽しいのに止めるわけないわ」
「私たちで止めます」

 海野さんが心配だけど、カオルは大丈夫だと言っている。
 俺は自分の心配だけするか。
 矢が飛んできたのを合図に、3方向から詰め寄っていく。
 気づくと海野さんの気配が薄れて、カオルの気配が強くなり、矢をカオルに撃つと、海野さんから棒が打ち込まれている。

 かなり連携が上手くなっている。と思ったら、2人とも肩に子蜘蛛を乗せていた。その子蜘蛛が、ちょんちょんと肩を突きながら指示を出しているみたいだ。気配をさぐると、離れたところから何百匹もの蜘蛛がこちらを眺めていた。

「数には勝てないわな」

 俺も詰め寄るフリをしつつ牽制すると、すぐに触れられる位置まで到達した。
 すぐさま海野さんが頭を気で殴りつけると、魔力が弾けて弓少女は気を失った。

「先生。運んであげてください」
「はい!」

 運様子を見つつ一呼吸置いてると、カオルに向かって強烈な魔力が飛んでくるのを感じる。
 ペロから降りてて機動力も下がり、蜘蛛の指示では、間に合いそうにない。そこまでは頭に浮かんですら無かったと思うが、体が勝手に反応した。

 気づけば無くなった右手の向こうで、カオルが倒れている。

「実さん!」

 声は聞こえているが、痛みの感覚と魔力を出した相手のことに集中している。

「右手だけか……。まぁ良いだろ」
「立花!」
「はは。カオルの癖に呼び捨てか?」
「うるさい!」

 その会話の間に、聖水茶から薬草包帯、賦活まで全てかけておく。痛みはあるけど動くことは出来るな。

「蜘蛛君、包帯ありがとう」

 いつの間にか近くにいた付き添いタランテッラが手伝ってくれた。
 今にも殴りかかろうとするカオルを止めた。
 とりあえず冷静にさせたい。

「カオル! 嫌がらせするんだろ?」
「すぅぅぅ。はぁぁぁぁ。そうでした」

 勇者君は余裕そうにこちらを見ている。
 相手にしてた奴は?
 あれはナイトか。
 生きてるけどしばらく動けなさそうだな。

「カオルについた浮きくらげは?」
「あの子も救助者を送っています。あと30秒くらいで戻るかと」

 話している間にも斬撃を飛ばしてきて、ほとんど会話が出来ない。

「解除は動きを止めてから!」
「はい!」

 それくらいしか言うことが出来ない。
 城で見た時とは比べ物にならないほど巨大で鋭い斬撃で、先程の妹といいこちらも余裕をくれない奴だ。

「俺にも聞こえていたぞ。城にいた曲者だったとはな!」
「仕返しか?」
「まさか。警戒を強くするだけだ」

 俺やカオルだけじゃなく、周囲の傭兵たちにも斬撃を飛ばし続けている。どこからそんな力が湧いてくるのかわからない。
 そこでピタリと動きを止め、1発牽制してきた後に、急に後ろを向き出した。

「あいつが一番厄介なんだ」
「ナイト!」

 俺の声に反応してくれたのか、蜘蛛が糸で釣り上げてくれた。引きずりながら逃げていくのを、逃すまいと勇者が斬撃で糸を斬る。
 すると別の蜘蛛が代わりに引っ張り、暗闇の中に消えていった。ナイトの近くにいた3人の男も、いつの間にか消えており、それを見た勇者が悪態をついている。

「くそ。こっちが先だったな。わかってる。今度はこっちだな」

 頭を叩きながら話すとか、様子がおかしいよな。
 溶けていった3人を思い出すが、そう決めるのは早いか。
 余裕が出来たので、また思考してしまったが、隣の大声で引き戻される。

「大勝利! にゃぁぁぁぁ!」
 ブルブルブル!

 糸で拘束された少年の横で、ミコたちが拳を突き上げている。
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