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最終章 半端でも仙人
第156話 新たな経路
しおりを挟む俺の聞き間違いだろうか?
「地上のゾンビを倒してくれるのか。やるじゃないか」
「いいえ、地下ですよ?」
治療されてた兵士を見ると、そいつも驚愕していた。
そうだよな!?
「地下からどのくらい来てる!」
「えっとどのくらい来てるかな? ……すでに大量に狩っていてわからないそうです」
「伝令兵! デーンレイヘーイ!」
すぐさま兵士を呼んで事情を話し、使いに走らせた。
「こういうことが分かったら、早くナイトに伝えてやれ」
「そうですね。ついさっきわかったんですけど、治療を優先してました」
「お、おう。そうだったか。すまん」
治療されてた奴の視線も痛い。
悪いと思ってるからそんな目で見るなよ。
負傷者は海野さんに任せ、カオルとその地下を確認しに行く。
小さな蜘蛛の先導で、ギリギリ人が入れる程度の入り口に到着する。中に侵入すると、大きな熊が立ち上がり、さらに寝返り出来そうな広さまである。これはもう、地下道と言って良いだろう。
その地下道には、ところどころに蜘蛛の巣が張られている。
「全部にはやらないんだな」
「それは侵入者の確認用みたいです。今のマザーが親から危機管理として教えてもらったみたいですよ」
「ゾンビよりこっちの方が危険じゃないか?」
「実さん! この子たちは私の友達になったんです!」
「そうだったな。すまん」
なんか謝ってばかりだな。
遠くに広場が見える。ドーム状になっていて、中心部に大きな蜘蛛の巣と卵たち。あまり良い思い出じゃないな。
「こいつら人には手を出さないのか?」
「出してないようですよ。それも教えてもらったみたいです」
近づくと、天井からデカイ蜘蛛が降りて来た。小さな家程もある大きさで、物音一つ起こさずにやってきた。さらに俺が感じただけでも、魔力と気の両方を使っている。これはイカンな。相手するならドラちゃんかダンピールの将軍連れてこないとな。
「ん? 手をあげでどうしたんです?」
「参りましたのポーズだよ。俺じゃ相手にならん」
「……そうですね。ちょっと勝てそうなイメージが湧きません」
「それで、ゾンビとかどうするんだ?」
カオルが肩の蜘蛛を通して会話すると、微妙な返事が返って来た。
「気が使えない奴は来させるなと言ってます」
「ほとんど気が使えない奴ばっかりだぞ?」
「……基本的にゾンビどもは倒してくれるみたいですね」
「もう任せてしまおう。出口で数人見張らせておけば良いだろ?」
「私もそんな気が……え?」
ん? 蜘蛛に何か言われたか?
「かなり遠くですけど、敵側から生きてる人型がやってきているようです」
相手さんも面倒臭い場所に送り込んでくれたな。
鼻頭に皺が増えてしまう。
「洗脳は解かないといけないだろ。すぐに戻ってナイトと相談だな」
「はい」
ちょうど地下道から出たところにナイトが来ていた。
「拠点は良いのか?」
「まさかの地下だぞ? 確認しないわけにはいかないからな」
「その当たりを引いたみたいだ」
「その顔だと、あまりよろしくないみたいだな?」
そんなに表情に出てたか?
ここからは、直接蜘蛛と話したカオルに交代する。
「中の大蜘蛛は、気を使える人しか入れたく無いようです」
「気か……兵士だと数人しかいないな。あとは傭兵頼みになる」
「相手には洗脳兵がいるみたいなので、解除もしたいです」
「うーむ。致し方ないか」
ナイトは悩んだ末に指揮権を部下に渡すという選択をとった。
「軍規に基づき次官に指揮権を渡す。伝えてくれ」
「了解しました!」
「ついでにゴーリッツ3兄弟をここに呼んで欲しい」
「はっ!」
出来る男感が強く、決断と指示が早い。ハイスペックなイケメンで王弟様の肝煎りだろ?
さらにジゴロだからな。取り合いになって、血みどろの戦争になる未来しか見えないぞ。地獄だな。
「南無三」
「なんだそれ?」
「未来のパートナーにエールを送ったんだ」
「余計わからん」
わからなくて良い。
「それよりも気を使える奴だよ」
「それだ。私とゴーリッツたちだけ使えるが、他の兵士は到底使えるとは言えないな。良くて感じる程度だろう」
「仕方ないな。あとは傭兵だが」
話している途中で、勢いよく何かが飛んできた。
それが目の前の地面にぶち当たり、土埃が舞っている。
「うにゃにゃー。くらげの分際でー!」
ブルブルブル!
埃の中から出て来たのはミコ。
それを投げたのはメサのようだ。
さらに後ろからノーリとくらげがやってきた。
「なんだぁ? ノールもおるのか?」
くらげたちを見ると、シンクロしてブルブル震えている。こいつらの通信もかなり便利だな。
「メサたちが呼んでくれたんだろう。ちょうど話したいことがあったんだ」
「なるほどのぅ。それなら儂は地上に残った方が良かろう」
「次官もまだ慣れてないだろうから、私もそのほうが助かる。」
「任せとけ! 兵士も全部面倒みちゃるわい!」
「よろしく頼む」
俺が話しかけたつもりなんだが、ナイトとノーリで話し合って解決してしまった。まぁ、俺の兵士でも無いし、口を挟むのもおかしいんだけどね。
「実さんも地下で待ち伏せしますか?」
「うーん。そうしたいところなんだけど、本部に大蜘蛛のことも伝えておきたいし」
「私も行った方が良いでしょうか?」
「カオルは残ってくれ。といかあの蜘蛛止められそうなの、カオルしかいないだろ?」
周りを見ても、あれに対峙出来そうなのは……ギリギリでナイトいけるか? そのくらいでしょ。
大蜘蛛が気を使える奴限定にしたのも、弱いからという話でもなさそう。何か仕掛けがあるのかもしれないな。
「とりあえず、行ってくるよ。何かあったら本部に連絡ちょうだい」
「わかりました」
ずっと大人しくしているペロと違って、肩の蜘蛛はちょこちょこと体を動かしている。念話なのか? カオルに向かって伝えているとしても、俺には変な踊りに見える。可愛いという意味がわかった気がする。
ただし! 1匹だけだったらな!
ドラちゃんのいる本部も、忙しなく動き回り、方々からの情報をまとめて連絡し合っている。そこに俺の入る隙は無く、どこか手の空いてそうな奴を探してみたんだが……。
「お前は!」
「ん? あんたは」
軍議の時に抗議してた将軍の1人だっけ?
「ちょうど良かった。新しい情報が入ったんだが、情報部は忙しそうでね」
「なんで俺に言うんだ! 他にも軍人多いだろ!」
「話しかけてくる余裕ある奴いないんだよ。ほんのちょっとだからさぁ! 頼む! 一生のお願いだ!」
「一生とか言う奴は信じられん!」
半端とは言え仙人の一生だぞ! まぁ、99%冗談なんだけどね。
「まぁまぁ、情報は大事な内容なんだ」
「うるせぇ!」
「東部の海辺なんだが、地下からゾンビが攻めて来てな」
「何を言って……。待て。地下だと!?」
その急に慌て出し、近くの兵士と話し始めた。話しかけられた兵士も驚愕し、波紋のように情報が広がっていく。
「おい。こいつが情報部だ。手早く話せ!」
「おぉ! ありがてぇありがてぇ!」
「ふざけてる場合じゃねーんだ!」
情報部に全容を話すと、聞き取りと同時に書いた紙に、親指の端を噛み切って血で線を引いている。
鳥肌を擦りながら様子を見ていると、情報員の動きが止まり、そのメモ書きに視線が集まる。数秒だけ止まった時が動き出すと、情報員が虚空《こくう》に向かって話し始めた。
「ああやって念話で戦地と連絡を取っている」
「なるほどねー」
「他の場所でも、不思議な穴がいくつか見つかっているんだ」
「あー。不味いな」
その将軍もすぐに動き出さないといけないのだろう。かなりソワソワしている。「気にせず行って良い」と言おうとしたが、周囲がザワめき始めた。
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