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最終章 半端でも仙人

第152話 魔境砦と軍議

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 畑と家を気に入った牡鹿が、無事に自宅警備員となった。
 好き勝手に動き回り、畑の野菜や薬草をつまみ食いしている。それなのに、残った植物は生き生きと成長するから、文句は言えない。そんなこともあって自由にさせて、守ってもらうことにした。
 ピースはギルドに連絡の仕事を大量に頼まれて、すでにスピカ国へ出発している。俺たちが戦争に行くことは知っているが、気合いの入ってるカオルを見て「止められない」と悲しそうに言っていた。

 牡鹿を家に残し、現在は魔境付近へ向かっている。
 俺も戦争なんて参加したこともないし、何をしたら良いのかわからない。それなら、言われたことを守って、生き残れば良いか。と気楽に考えていた。
 ただ、俺の周りを歩くカオルたちは、緊張した面持ちでいた。

「なんで実さんは落ち着いているんですか?」
「なんでって、今から焦っても意味がないからねぇ」
「戦争なのに!?」

 カオル以外も真剣なまなざしで見つめてくるが、やることと言うか、できることは普段と変わらない。相手を倒すということだけ。
 そもそも俺は救護班だから、倒す必要もないんだっけ?

「緊張してたら、普段の動きも出来ないよ? それよりこれを渡しておくね」

 懐から取り出した木の実を手渡す。

「これって、また唐辛子爆弾ですか?」
「違う違う。聖水を入れた奴だよ」

 カオルは上下に振って確かめているが、割れやすくしているので、隙間から水がピュピュっと飛び出している。

「大事に扱ってよ! ダンピールたちは苦手なんだぞ?」
「す、すみません」
「他の人たちにも後で配るから、手伝ってよね」
「はい」

 本当は卵の殻に入れようかと思ったんだけど、ここら辺にコッコがいないんだよね。仕方なく、大きめのドングリみたいなのに入れ込んだ。
 他の人たちというのは、周りにいる傭兵団や王弟様たちのこと。みんな緊張はしているが、休む時はしっかり休んでいる。俺たちとは大違いだな。

 魔境手前の前線基地で休憩している時に、砦から森を眺めてみる。砦から森の間近まで目線が行くと、だんだん雰囲気が変わってくる。魔境に近づくにつれて、魔物が増えていくと言うが、予想以上に魔物が多い。
 同じように横で見ているドラちゃんに聞いてみた。

「いつもこんなに動き回っているの?」
「全く無いってことはないけど、やっぱりアンデッド軍の影響だろうな」

 怪しい気配は、それなりの距離はあると思う。早く歩いても数日はかかりそうだ。

「まだ離れてるのに?」
「死者とはそういうものだよ。存在するだけで負の魔力を撒き散らすからね」
「ドラちゃんもそうなの?」
「私はそんな下手なことはしないさ。ダンピール達にも訓練させている」

 そこら辺の違いだろうか。確かに昔から嫌な感じはせず、街に溶け込んでいた。いや、変わった人と思われていたかもしれないな。血色が悪いし、夏場にマントを羽織ってたから、周りの視線は集めていた。

「王様、軍議を行います。実殿も来てくだされ」

 司令に呼び出されて砦の会議室に集まると、数十人の軍人に混ざる我らの王弟様やノーリ、それにカオルたち。

「なぜこやつらまで呼ぶのだ」

 とある将軍が愚痴を言いつつ横目で見ているのはカオルたち。俺も口には出さないが、同感だ。呼ばれたところで何が出来るのかと思う。

「ワシが呼んだ。文句あるか?」

 まさかの司令の命令だった。

「ここに居ることは了承します。ただ説明を頂きたい」

 その軍人の言葉に、周りも頷いている。というか俺も頷いている。

「なんでミノちゃんも頷くのさ」
「いや、俺も聞きたいよ」

 ため息とともに、司令が話し出してくれた。

「そこの明石殿は聖女ということは知っているな?」

 そうだな。軍人たちも知ってるみたいだ。

「彼女の使う聖域に入ると、敵のアンデッドの動きを止められるが、我らダンピールも動きが鈍る。さらに作られた聖水にも同じような効果がある。」

 これは知らない軍人もいたのか。

「その聖水を、コルード殿の指揮する者たちは大量に所持しているのだ。間違って当てられたら面倒だろう? 今のうちに顔や服装を覚えておけ」

 大量の視線に晒されて居心地が悪そうだ。

「ちなみに特別救護員として、王様のご友人であらせられる実殿も覚えておくように」

 一斉に視線が集まると、俺の顔面は硬直するということがわかった。笑いを抑えるドラちゃんがムカつくので、後で一発叩いておこう。

 その後の軍議は、再確認が多く目新しい作戦などは無かった。結局のところ、ドラちゃんがワイトと1対1で戦える状況を作ることに尽きる。
 王弟様たちは洗脳された者の相手をメインとして、出来るだけ洗脳を解除して仲間を増やす。それには傭兵やカオルたちの気が必要になるので、出てきた時に送り込まれる遊撃となる。

 長い軍議に疲れ始め、頭が痛くなりそうな時、ノーリの横で半目で地図を睨むミコに感心していた。だけど、良く見ると真剣な眼差しと違って口は微妙に開き、口の端っこから一筋のキラメキが見える。
 ノーリと視線が合うと、渋面で返して肘でミコを突き始める。突かれたミコは、ビクリと震えた後に周囲を見回し、姿勢を正す。
 後でゲンコツが降ることは間違いないだろうな。

 立ったまま瞑想する技術があれば、そのようなことにならなかっただろう。俺の瞑想技術を知ると良い。

「……さん。……実さん!」
「ん?」

 揺さぶられて目を開けると、周囲にはカオルたちしかいなかった。

「もう夜ですよ」

 外に出ると真っ暗になっている。

「軍議が終わるまでと思ったが、やり過ぎたか」
「将軍さんたちも、呆れていましたよ!? せめて起きててください!」

 瞑想は寝ているわけじゃないんだよ。ちゃんと覚醒しているんだ。と言うか迷ったが、ここまでのめり込む人に会ったことがないので、言ってもわからないと思ったので止めた。

「む。やっと意識が戻ってきたか」

 司令が戻ってきた。

「前にも言ったが、実殿は救護をメインにしてもらう。それと、連れてきた従魔たちはどうするつもりだ?」
「あいつらは、王弟様軍に付けますよ。頭は良いから敵味方はわかっています」
「それだけ聞ければ十分だ。ちなみにだがな…」

 司令の話だと、俺のことを懐疑的に思ってる兵士がいると話した。いざという時に逃げ出すんじゃないか、相手に情報を売るのではないかなど。情報を売ったりはしないけど、逃げるのはありえる。

「というか、いざという時に助けて逃げるのが仕事じゃないの?」
「そうなんだが、あまり理解してない奴もいてな…。悪く言う奴もいるかもしれないが、出来たら助けてやってくれ」
「万単位の軍でどこまで出来るか知りませんが、出来ることだけは…」
「それで十分だ。他の救護班とは会ったか?」

 そう言えば会ったことはなかった。それを伝えたら、司令自ら救護班のテントに案内してくれる。

 救護隊員とはすぐに仲良くなり、負傷者の目印を決めることになった。
 動ける者や動けない者、治療して助かる者と助からない者。なかなかシビアな判断だが、戦争だとどうしても出てしまう。
 俺に求められるのは、動けない者の応急処置と助かる者の運搬。難しい者は目印を置いて、他の救護班に任せる形となった。

 日に日に押し寄せる魔物が増え、それらを退治し終わると、物音のしない時間が1昼夜も続いた。
 朝日が昇る頃に、静けさの終わりを告げる角笛が鳴り響く。

 _______________
           ☆ 
         ____
(砦)○   /       
     /  海
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 ☆敵軍が見えた所


*次回より、徐々にシリアス成分が強くなります。
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