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7章 魔王と半仙人

第126話 商人接待と後追い1体

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 流れる優しい風に乗りながら、虫や動物達が音を奏でている。

 リーンリーン。

「うっわぁ! また落ちてきた」

 シャカシャカ。

「きゃああああ!」

 シュルシュル。

「蛇は嫌だぁ!」

 静かな夜は遠く、オーケストラは解散し、ハードロックな絶叫でパーティーしている。それは飛び飛びに続き、空が白んだ頃。彼らの顔には、戦いの痕跡を残していた。

「みんな、おはよう!」

「お、おは」
「やっと朝になって」
「降りさせてくれても良かったのに」

 夜間降りようとした子は、強制的に木の上にお帰りいただいた。君達がやりたいと言ったので、そこは頑張ってもらった。

 お疲れの3人を置いて、朝食の準備をする。と言っても昨日と代わり映え無い鍋。
 鍋を温めつつ、本日の旅程を考える。

 鉄トカゲ君が元気なので、日中は彼に頑張ってもらい、今日は早めの休みにしたいところ。ただし、雲行きが良く無い。雲の流れが少し早く、空気中に若干の湿り気が含まれているので、夕方前には雨が降りそうな雰囲気。

「今日は昼までに野営場所を見つけよう」

「「「やったー!」」」

 雨だから結構面倒かもしれないぞ?

 街道を進みつつ、薪や野草の回収は忘れない。昼までと聞いてからやる気が出たのか、3人も張り切って採取に勤《いそ》しんでいる。
 周りの馬車から見ると、俺達の行動は面白いのか、時折話しかけてくる商人が後を絶たなかった。
 ほとんどの商人は、お金儲けに繋がらないかと気にしていたようだが、安物だと言うだけで離れていく様子は面白い。

「もし、先ほどから何かを拾われてるようですが、それは食べ物ですか?」

 この小太りで福福とした男。
 他の商人と同じようなセリフで話しかけて来たな。

「この野草ですか?」
「そうです。薬草として使われると聞いたことが無いので、もしや食用かと」
「売れても安物ですよ」
「構いません。何が必要になるかわかりませんので」

 この反応は初めてだったので、興が乗った。

「でしたら、食べてはいかがでしょうか?」
「これを生で?」

 驚く表情に笑顔で返すと、ゆっくりと大判サイズの葉っぱを手に取り、口に含む。

「ぐわっ。辛い!」
「水です」

 口を濯《ゆす》ぐと渋ヅラで見返してくる。

「お人が悪いですな」
「失礼。ですが、本当に食用なんですよ。ちょっと見ててください」

 ささっと小鍋に湯を沸かし、葉っぱを20秒ほど潜《くぐ》らせる。
 それを目の前で食べてみせた。

「それだけで良いのですか?」
「もう1枚の方をどうぞ」
「辛味は残ってるが、これなら食べれますな」
「効能は食欲増進です。辛味があるので、胃が荒れてる時はお控えください」
「こんな薬草があったとはねぇ」
「知らなくても困りませんからね。辛味が強いから、どこでも生き残るんですよ」

 気づけば3人も後ろに立っていた。

「そろそろ昼ですよ?」
「もうそんな時間になったか、丘の上の方だし、今日はここで野営するか」
「はーい」

 商人は、俺達の野営発言に驚く。

「まだ、昼日中ですが、もう野営準備ですか?」
「今日は雨が降りそうなんで、早めに準備するんです。丘上だし、良さそうな木もありますからね」

 近場には大きめの木が点在し、雨避けにちょうど良い。

「なるほど…私もお邪魔してよろしいでしょうか?」
「別に構いませんが、お急ぎでは無いのですか?」
「余裕は持たせているので、半日程度は問題ありませんよ」

 そういうことならと、野営の準備を開始。
 商人の名前はシーレンさん。同じ商会の人足《にんそく》を2人伴っており、その人達と協力したおかげか、早めに設営完了した。

「広いテントですねー」

 アオイが見ているテントは、支柱3本で支えるタイプで、広さも3倍。
 覆う布さえあれば、隙間も少なくなるので、快適になりそうだ。

「もともと多人数で建てるものなので、意外と早く設営できるんですよ。」

 シーレンさんのセリフが終わる頃に、しとしとと雨が降り始めた。

「早めに終えて正解だったか、ノール殿の言った通りになりましたな」
「運が良かったです」

 3人のジト目を無視しつつ、雨が強くなる前に、雨避けで囲った火を用意。

「毎回思うけど、着火早いよな」
「慣れだよ慣れ」
「私もここまで早いのは初めて見ましたな」

 正直ライターは無いにしても、メタルマッチがあったら良いなと思ったことはある。それでも、火打ち石で何とかなってるから、無くても良いのかな。

「火付けが楽になる道具があれば、使うようになるかなぁ」
「あった方が良いですよ!」
「私買います!」
「オレも!」

 シーレンさんの目が鋭くなっていたのは、見逃さなかった。後ろの人足達とも目配せし、何かをメモしている。

「たとえば、楽とはどのように?」
「ライター!えっと、油の入った器に」
「回転式の着火があったよな?」
「作るの大変そうです」

 彼らの言葉がいまいちピンと来ないシーレンさん。悩ましげな視線をこちらへ向けてきた。シーレンさんが理解出来ないのも仕方ない。俺もいきなりライターは無理があると思う。

「まずは、着火が簡単に出来るようにしてはどうです?」
「だとすると火打ち石の改良ですね。ふむ」

 この後も午後いっぱい、どんな形が良いか、大きさや価格帯をどうするかみんなで相談しあった。あーでも無い、こーでも無いと議論した結果。シーレンさんには満足の行く形になったみたいだね。

「たまには寄り道もしてみるものですね!」

 全面に幸せですと書かれた顔を引っ提《さ》げて、彼らは自らのテントに戻り、下絵を量産していた。

「そろそろ晩飯作ろうか。今日は誰がやる?」
「オレがやってみたい!」
「おぉ? 珍しいね。やってみなよ」
「へへ。これまでの成果をみせてしんぜよう」

 イツキ君の意気は素晴らしいが、食べれる物を作って欲しいのでサポートは必要。

「アオイ。サポート頼む」
「はい」

 その言葉に「信用ないなぁ」イツキ君も息を吐くが、今日はシーレンさんがいるんだ。変な物は食べさせられないから、仕方ないだろう。
 彼らが料理している間、カオルに聞いておくことがある。

「カオル。あれに気づいてるか?」
「えっと、ずっと付いてきてますね」
「ちゃんと別れは言ったのか?」
「はっきり言ったつもりで、『わかった』という意思は伝わってきたんです」

 だとすると何で付いてきているのか?
 葉っぱの隙間から、遠くに小さなくらげが見えている。
 ゆーらゆら揺れながら、時々触腕を高く上げて、魔力をどこかに飛ばしている。
 この動きは、カオルが使役した時から時々行われている。
 メサもそうだったけど、本当に謎な生き物だな。

 シュルシュルシュル。
 私を無視するなと、不機嫌そうな鉄トカゲを宥《なだ》めるカオル。

「そういえば、こいつの餌もそろそろ取らないといけないな」
「えぇ。そろそろ在庫が底を突きそうなので」

 こいつは肉食だから、生き物を狩る必要がある。更に鉄を維持するために、金属類もたまに与える必要がある。
 たまに剥がれ落ちる鉄の鱗は、自分で食べない。だけど、人間には需要があり、そこらの鉄より高く売れて収支はプラスになる。
 肉をなんとかすれば良いんだから、ピースがおすすめするのも納得だよな。

「いつも助かってるよ。ありがとう」
 フンスと鼻を鳴らし、それなら良いと言いたげな様子。

 従魔というのは、みんな頭が良くて頼りがいがありますな。
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