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6章 不老者とクラス召喚
第117話 準備期間
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報酬を貰った帰り。
呼び出された当初の部屋に向かう。
「たしかここら辺だったよな」
相変わらず通路まで埃が漂っている。あまりにも意図的に汚いので、強烈な違和感を感じる。
2つ隣に男の子がいたはずだ。
「昼なのに気配があるぞ?」
てっきり、勇者付き添いの依頼に、ついて行ったのかと思っていた。扉を開けると、ベットの上で呆けている男子。身体中に青痣を作りながら、意識ここにあらずという異常な光景。
そして、以前にはほとんど見えていなかったが、頭上に魔力がまとわりついている。
カオル達にやったのと同じように、気で弾き飛ばす。
「イテっ! うぅ」
魔力が取れた途端に体を抱えて痛み出す。触れた自分の手すら痛いのか、触ろうとしたり離したりと繰り返していた。
「なんとも痛々しい様子だな」
「あん……た」
「まずは治してやろう」
賦活の後に、ポーションを身体中にかけていく。
イアさんに教えてもらったポーションは劇的だな。
およそ5分程で腫れと痛みが引いている。
「確か、田中君だっけ?」
「そうだ。あんたは城を出ていった奴か」
若干の侮蔑《ぶべつ》を含んだ視線を向けてきたが、頭を振るとすぐにその視線が止んだ。
「なんだ。もう軽蔑《けいべつ》しないのか?」
「逃げた理由がわかるから、納得している。俺も一緒に行けば良かったよ」
「今から出れば良いじゃないか」
「それは、他の奴の負担が増えそうだからな…やめておく」
みんなで逃げれば良いだけなのに、そこまで考える余裕も無いのかね。
「それで、兵士と生徒。どっちにやられたの?」
「両方だな」
詳しく聞いていくと、下位の子達が会う者達は固定されていて、同じ生徒か特定の教官のみ。従者達とも一切会うことが無くなっているらしい。時折聖女が治しに来てくれていたが、少し前から遠征に参加するようになり、治療もされなくなった。ここ最近の記憶も曖昧でよく覚えていないと言う。
そういう環境に追い込んでいるのと、不満の解消場所に選ばれちゃったかな。
「他の子も部屋に居そうだから、治療はしてあげるよ」
「頼む……」
第一印象も明るいタイプでは無かったけど、さらに落ち込んでいるな。
他の4人もそれぞれ傷だらけで、満身創痍《まんしんそうい》の状態だった。なかなかハードな治療だったが、普通に動けるまで回復している。やっぱりポーションってすごいんだな。
田中君と同じように逃げないのか聞いてみると、誰もが逃げない選択をした。魔力は取り払ったが、まだ引きづられているように見える。
これ以上は無理だと思い、帰ることにした。
「あんまり無理しないようにね」
俺を見つめる視線が背中に刺さる。物悲しさと諦め。
そうなる前に逃げられたら良かったんだけどな。
帰ったら海野さんに相談しよう。
「そんなことに…なってたなんて」
「先生。私たちだったら死んでたかも知れないわよ」
トモエの指摘は当たっている。ある程度使えると思われた者でこの扱いだ。
いらない人間はすぐに切り捨てるだろう。
改めて考えると、あの城は異常だな。
王弟や料理長は至極まっとうな風に見えた。あれが演技だったら、見破れる奴は特殊なスキルを持ってるやつだろう。
問題は、王女と王周辺か。
王には会ったことないし、王女も最初の一度きりだ。何度も会ってたのは、中位以上だけかな? そこの差かもしれないな。
「実さん。逃してあげましょう!」
それは良いんだけど、5人ともなると大変だ。
「私達も協力するわ!」
「僕もやりますよ!」
「私も」
みんなやる気だけはある。
どうしようか。実行は出来るし、依頼する金もある。
「国を出る準備をしておくんだな」
「ちょっと!」
4人の鋭い目線が飛んできた。
そんな怖い目しないで欲しい。
「全てを終わらせて、城から連れ出す。明後日の夜に決行するぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
頼むとしたらレンジャーになるかな?
報酬も4人に渡すつもりだったけど、全額レンジャー行きになりそうだ。
「手伝っても良いが、わかってるよな?」
「はいはい。城からの報酬は全部持っていって良いよ」
金額も伝えずに巾着を渡す。
中を見たレンジャーは一瞬大口を開けると、ニヤリと笑い出した。
「なるほど。今回は最高のメンツにしてやろう」
「足りてたなら良かったよ。それで作戦は」
家に戻ると4人がいそいそと支度していた。
その動きを止めてもらい、作戦を話す。
「まず中に入るのは俺とあおい君。それにナイトと落ち合うことになっている」
残り3人が不満そうにしているが、手で止めて詳しく説明する。
城内の警備は、前回の一件から、警備が増やされていると想定している。さらに化け物級のメイドがいるので、逃げられる可能性がある者だけに厳選した。中での行動は、見つからないように移動して、救出する。最悪気絶させて運ぶことも考えている。
全員をいっぺんに運ぶのは難しいので、ピストン形式で外に運び出し、順次森に連れ出していく。移動の要がカオルとピースで、従魔の運搬力を存分に発揮してもらう。トモエの絵で上空を警戒し、海野さんが地上を警戒。レンジャーの仲間を数人付けるが、彼らは基本自由行動でフォローしてもらう形になった。
この説明でも、カオルだけは納得していない。
「以上だ。何かあるか?」
「私も中に行きたいです!」
「ダメだ」
魔力を消し飛ばした後、時々カオルから殺気を感じる。この様子だと城の誰かに怒りが向いてるんだろう。
1人でするなら別だが、今回は救出だ。邪魔されて失敗したら、被害を受けるのは全員になる。特にそんなことは言わないが、失敗の可能性が増えると言って理解させた。
「それなら僕は何をしたら良いですか?」
あおい君はメイドになってもらう。服装はレンジャーから調達したし、化粧はトモエに手伝ってもらう。絵師の力を使えば、あおい君も完璧に変装出来るはず。城内ではナイトと行動してもらい、巡回に紛れ込ませる。
「なんて完璧な作戦なんだ。俺の脳細胞が最高潮に活性化している」
「調子に乗って失敗しないと良いわね」
トモエの皮肉も今の俺には効かん!
今日はゆっくり休んで、明日は準備に専念しよう。
「諸君、夜空も我々を歓迎している」
「すごい曇ってますよ?」
海野さん。もう少しロマンチックに始めようよ。
「…闇夜に紛れやすくて良い日だな」
「救出なのに悪役っぽいと思いますが」
あおい君もチャチャ入れないで欲しい。
「では悪役として」
「ノール。良いから始めよう。こっちもリスク背負ってるんだぞ!」
泣きそう。
「じゃあ、各自健闘を祈る」
それを合図に散開し、各々の持ち場へ向かっていった。
俺とあおい君は城壁に近づくと合図を待つ。
数分後、2階の廊下《ろうか》から警備兵の槍が3度光る。
「合図来ましたね」
「中に入るけど、ちょっと待ってね」
”精霊君寄ってきちゃって、かくれんぼさせてくれぃ。”
寄ってきた羽虫が、俺たちの周りで踊り出すと、徐々に魔力の膜が出来上がっていった。
足音を殺しながら城門を飛び越えると、予定地点にナイトがいる。
「お待たせ」
軽く声をかけたつもりが、予想以上に警戒させてしまい、無言で剣を突きつけてくる。精霊魔法を解きながら、姿を現すとやっと警戒を解いてくれた。
「話には聞いていたが、恐ろしい技だな」
「俺はまた隠れて、後ろをついていく。この子と行動してくれ」
あおい君が両手を前で揃え綺麗にお辞儀。
どこからどう見ても立派なメイドさんになっている。
「こっちも良いスキルだ。この国にとっては残念だが、現状を考えると仕方ないな」
ナイト達は俺が知らない情報を持っているようだが、教えてくれそうにない。
俺達のことも深く聞かないので、お互い余計な話をするなと言うことだろう。
俺達は、一度深呼吸すると、誰言うことなく歩き出した。
呼び出された当初の部屋に向かう。
「たしかここら辺だったよな」
相変わらず通路まで埃が漂っている。あまりにも意図的に汚いので、強烈な違和感を感じる。
2つ隣に男の子がいたはずだ。
「昼なのに気配があるぞ?」
てっきり、勇者付き添いの依頼に、ついて行ったのかと思っていた。扉を開けると、ベットの上で呆けている男子。身体中に青痣を作りながら、意識ここにあらずという異常な光景。
そして、以前にはほとんど見えていなかったが、頭上に魔力がまとわりついている。
カオル達にやったのと同じように、気で弾き飛ばす。
「イテっ! うぅ」
魔力が取れた途端に体を抱えて痛み出す。触れた自分の手すら痛いのか、触ろうとしたり離したりと繰り返していた。
「なんとも痛々しい様子だな」
「あん……た」
「まずは治してやろう」
賦活の後に、ポーションを身体中にかけていく。
イアさんに教えてもらったポーションは劇的だな。
およそ5分程で腫れと痛みが引いている。
「確か、田中君だっけ?」
「そうだ。あんたは城を出ていった奴か」
若干の侮蔑《ぶべつ》を含んだ視線を向けてきたが、頭を振るとすぐにその視線が止んだ。
「なんだ。もう軽蔑《けいべつ》しないのか?」
「逃げた理由がわかるから、納得している。俺も一緒に行けば良かったよ」
「今から出れば良いじゃないか」
「それは、他の奴の負担が増えそうだからな…やめておく」
みんなで逃げれば良いだけなのに、そこまで考える余裕も無いのかね。
「それで、兵士と生徒。どっちにやられたの?」
「両方だな」
詳しく聞いていくと、下位の子達が会う者達は固定されていて、同じ生徒か特定の教官のみ。従者達とも一切会うことが無くなっているらしい。時折聖女が治しに来てくれていたが、少し前から遠征に参加するようになり、治療もされなくなった。ここ最近の記憶も曖昧でよく覚えていないと言う。
そういう環境に追い込んでいるのと、不満の解消場所に選ばれちゃったかな。
「他の子も部屋に居そうだから、治療はしてあげるよ」
「頼む……」
第一印象も明るいタイプでは無かったけど、さらに落ち込んでいるな。
他の4人もそれぞれ傷だらけで、満身創痍《まんしんそうい》の状態だった。なかなかハードな治療だったが、普通に動けるまで回復している。やっぱりポーションってすごいんだな。
田中君と同じように逃げないのか聞いてみると、誰もが逃げない選択をした。魔力は取り払ったが、まだ引きづられているように見える。
これ以上は無理だと思い、帰ることにした。
「あんまり無理しないようにね」
俺を見つめる視線が背中に刺さる。物悲しさと諦め。
そうなる前に逃げられたら良かったんだけどな。
帰ったら海野さんに相談しよう。
「そんなことに…なってたなんて」
「先生。私たちだったら死んでたかも知れないわよ」
トモエの指摘は当たっている。ある程度使えると思われた者でこの扱いだ。
いらない人間はすぐに切り捨てるだろう。
改めて考えると、あの城は異常だな。
王弟や料理長は至極まっとうな風に見えた。あれが演技だったら、見破れる奴は特殊なスキルを持ってるやつだろう。
問題は、王女と王周辺か。
王には会ったことないし、王女も最初の一度きりだ。何度も会ってたのは、中位以上だけかな? そこの差かもしれないな。
「実さん。逃してあげましょう!」
それは良いんだけど、5人ともなると大変だ。
「私達も協力するわ!」
「僕もやりますよ!」
「私も」
みんなやる気だけはある。
どうしようか。実行は出来るし、依頼する金もある。
「国を出る準備をしておくんだな」
「ちょっと!」
4人の鋭い目線が飛んできた。
そんな怖い目しないで欲しい。
「全てを終わらせて、城から連れ出す。明後日の夜に決行するぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
頼むとしたらレンジャーになるかな?
報酬も4人に渡すつもりだったけど、全額レンジャー行きになりそうだ。
「手伝っても良いが、わかってるよな?」
「はいはい。城からの報酬は全部持っていって良いよ」
金額も伝えずに巾着を渡す。
中を見たレンジャーは一瞬大口を開けると、ニヤリと笑い出した。
「なるほど。今回は最高のメンツにしてやろう」
「足りてたなら良かったよ。それで作戦は」
家に戻ると4人がいそいそと支度していた。
その動きを止めてもらい、作戦を話す。
「まず中に入るのは俺とあおい君。それにナイトと落ち合うことになっている」
残り3人が不満そうにしているが、手で止めて詳しく説明する。
城内の警備は、前回の一件から、警備が増やされていると想定している。さらに化け物級のメイドがいるので、逃げられる可能性がある者だけに厳選した。中での行動は、見つからないように移動して、救出する。最悪気絶させて運ぶことも考えている。
全員をいっぺんに運ぶのは難しいので、ピストン形式で外に運び出し、順次森に連れ出していく。移動の要がカオルとピースで、従魔の運搬力を存分に発揮してもらう。トモエの絵で上空を警戒し、海野さんが地上を警戒。レンジャーの仲間を数人付けるが、彼らは基本自由行動でフォローしてもらう形になった。
この説明でも、カオルだけは納得していない。
「以上だ。何かあるか?」
「私も中に行きたいです!」
「ダメだ」
魔力を消し飛ばした後、時々カオルから殺気を感じる。この様子だと城の誰かに怒りが向いてるんだろう。
1人でするなら別だが、今回は救出だ。邪魔されて失敗したら、被害を受けるのは全員になる。特にそんなことは言わないが、失敗の可能性が増えると言って理解させた。
「それなら僕は何をしたら良いですか?」
あおい君はメイドになってもらう。服装はレンジャーから調達したし、化粧はトモエに手伝ってもらう。絵師の力を使えば、あおい君も完璧に変装出来るはず。城内ではナイトと行動してもらい、巡回に紛れ込ませる。
「なんて完璧な作戦なんだ。俺の脳細胞が最高潮に活性化している」
「調子に乗って失敗しないと良いわね」
トモエの皮肉も今の俺には効かん!
今日はゆっくり休んで、明日は準備に専念しよう。
「諸君、夜空も我々を歓迎している」
「すごい曇ってますよ?」
海野さん。もう少しロマンチックに始めようよ。
「…闇夜に紛れやすくて良い日だな」
「救出なのに悪役っぽいと思いますが」
あおい君もチャチャ入れないで欲しい。
「では悪役として」
「ノール。良いから始めよう。こっちもリスク背負ってるんだぞ!」
泣きそう。
「じゃあ、各自健闘を祈る」
それを合図に散開し、各々の持ち場へ向かっていった。
俺とあおい君は城壁に近づくと合図を待つ。
数分後、2階の廊下《ろうか》から警備兵の槍が3度光る。
「合図来ましたね」
「中に入るけど、ちょっと待ってね」
”精霊君寄ってきちゃって、かくれんぼさせてくれぃ。”
寄ってきた羽虫が、俺たちの周りで踊り出すと、徐々に魔力の膜が出来上がっていった。
足音を殺しながら城門を飛び越えると、予定地点にナイトがいる。
「お待たせ」
軽く声をかけたつもりが、予想以上に警戒させてしまい、無言で剣を突きつけてくる。精霊魔法を解きながら、姿を現すとやっと警戒を解いてくれた。
「話には聞いていたが、恐ろしい技だな」
「俺はまた隠れて、後ろをついていく。この子と行動してくれ」
あおい君が両手を前で揃え綺麗にお辞儀。
どこからどう見ても立派なメイドさんになっている。
「こっちも良いスキルだ。この国にとっては残念だが、現状を考えると仕方ないな」
ナイト達は俺が知らない情報を持っているようだが、教えてくれそうにない。
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俺達は、一度深呼吸すると、誰言うことなく歩き出した。
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