上 下
110 / 165
6章 不老者とクラス召喚

第109話 報復からデザート

しおりを挟む
 これで集め終わった。
 あとは作って夜に行動するだけ。

「小さく切った布に、この液体と粉末をまぶして、ぐぉお。保存だ。気で何重にもかけておかないと」

 俺は凶悪な平気を作り出してしまったのかもしれない。
 念入りに体を洗って一度家に戻る。

「ノールさんどうしたんですか?」
「あおい君か。明日から遠征に行くことになった。」
「また行くのぉ?」
「トモエちゃん。ここが頑張りどころですよ。最近調子良いでしょ?」
「トモエさん頑張ってるもんね」
「え? そうね。じゃあ早めに寝ようかしら」

 お前チョロくなってないか?
 こっちは楽で良いんだけどさ。

「最近慣れてきたし、行きがけにスキルも練習してみようか」
「やった! やっとスキルだ」
「先に道具買っておいて良かったですね」

 みんな喜んでるな。
 毎日やってたおかげか、薄ら賦活は出来る程度なので、まだスキルは使えるだろう。
 魔力も教えてあげないとな。
 ワイワイしているとピースがやってきた。
 まとまった時間が出来たから教えてくれってさ。
 明日から依頼だと言ったら、付いてくると言ってきた。

「良いですよ」
「僕らより強そうだし助かります」
「私も従魔のこと聞きたい」
「問題ないわ」

 それなら付いてきてもらおう。
 明日の早朝に出発だ。


 その後はみんな早めに寝ていた。
 俺だけを除いて。

「お待ちかねの時間だ。例の3人衆よ。待っててくれよ? へへへ」

 極限まで気配を殺し、魔力も気力も漏らさない。
 門番の意識が緩んだ瞬間にすり抜けて入城する。

 勝手知ったるという程じゃないが、それなりに把握している。
 強烈な力はいくつもあるが、目的地はそこじゃない。
 それよりも数段弱い生命力の所。
 知っている少し歪んだ力を目印に、その部屋まで一直線。

「まずは1人目」

 扉を開けて閉めるまで、音だけでなく風も一切起こさない。
 寝ているそいつの鼻に作った物を突っ込むと、一瞬だけ体を跳ねさせて「ふごっ」と鼻を鳴らしたら動きが止まった。
 いや、若干ピクピクしている。
 お疲れ様でした。

「2人目」

 そちらの青年も同様に突っ込む。目を覚まして全力で見開いた先にあるのはゴブリンの腰巻き。

「ぐっ。くっ」

 何かを言おうとしてたが、そのまま意識を失ってしまった。
 こいつもピクピク指が動いている。
 感度良好。
 ちゃんと嗅覚が働いていて良かったな。

「次が最後」

 女の部屋に入ってセクハラとか言われたら困るので、扉を開けたら投げて貼り付けるしかない。
 ダメだったら散布になってしまう。
 扉の隙間から、顔面目掛けて布を投擲!
 くそ。やっぱり少しズレた。
 もんどり打って転がってるが、散布するしかない。

 俺特性のニンニクとゴブリンの腰巻き濃縮エキス。
 更に森で見つけた強烈な臭いのキノコ汁も混ぜ込んだ液体。
 こいつを投げ入れて、扉に保存をかける。

 ちょっと騒がしくなったせいか、何人か起きてきた。
 気配を殺して、さぁ帰ろう。

 むむ。
 例のメイドさんもいるな。
 俺は帰るので後はよろしくお願いしまっす。

 うぉ!
 チラッとこっち見てきたぞ。
 声出そうになった。

「気のせいですか。それにしても変な臭い。なんでクソ勇者のお守りなんて。全部消して仕舞えば良い」

 本当にこいつメイドかよ!?
 物騒すぎるわ。

 途中ですれ違った子の中で、何人か青アザを作ってるのが見えた。
 確か田中君だっけ?
 下級組は訓練きついのかな?
 ちゃんと休むんだぞ。

 難なく門まで到着し、そのまま出ていく。
 この城のセキュリティ大丈夫か?
 今まで居たどこの街よりも練度低いんだけど…。
 下手すると冒険者ギルドのチンピラの方が能力高いんじゃないか?

 家の前で気づいたことがある。
 俺の体も結構臭い。
 特性の石鹸を使って全身洗浄。
 まだ少し鼻に残ってるけど、これ以上は無理かな。
 まだ日は登ってないから、屋根の上で少しだけ休もう。



 朝日が体にあたる感覚が気持ちいい。

「おーい。おーい。ノール!」

 目を開けるとピースと仮弟子達が居た。

「もう準備出来てるぞー」

 上を見ると日が高い。

「ごめん。日光浴が気持ちよかった」
「かなり良い顔してたもんね」
「城を出てから一番晴れ晴れしてたんじゃない?」
「それより行きましょう」
「そうね」

 いざ、出発という所でピースが1つだけ言う。

「ノール。ちょっと臭くないか?」
「気にするな」
「まぁ、その程度なら良いけどさ」


 ◆ ◆ ◆


 その日の城は悲惨だった。
 勇者達の訓練は中止となり、一日掛けて城を掃除する。

「あの3人のこと聞いたか?」
「異臭騒ぎのターゲットになったんだろ」
「色んなところから嫌われてて目処がつかないってさ」
「仕方ないよな」
「下級組は全員医務室だったし、他の奴もアリバイがある」
「外部の可能性もあるらしいぞ」
「ここの人達が認めるわけないじゃん」
「「「そうだな」」」

 こんな会話が至る所で行われている。



「兄さんはどう思う?」

 メイがノボルに訪ねてもわからない様子。

「気配も感じなかったし、少し慌ただしいと思った時には全部終わってたよ」
「そうだな。俺もその後見張ったけど、怪しい影も見つけられなかった」
「立花君も後藤君もわからないなら、私達では厳しいわね」

 ノボルが考え込んでしばらくすると、ポツポツと話出す。

「もしもだけど、城を出た奴が強くなってやったってことは」
「スキルは開示されたじゃない。いくらスキル外でも成長出来たとしても、使った感覚からすると無理があるわ」
「明石の言う通りだな。強くなって欲しいが、期待しすぎも相手の負担になるぞ?」
「ぐっ。確かにそうだな」
「兄さんの悪い癖です。周りでセーブしないとね」

 妹の言葉に少しだけムッとするが、いつものことだと表情はすぐに戻った。
 ただし、あの男だけはちょっと気に入らない。
 そこは自覚し始めている。

「勇者様方は本日ゆっくり休養なさってください」
「良いのか?」
「王女様からのお言葉ですので、問題ありません」
「そういうことなら」

 3人がすぐに部屋に戻るのを見送り、明石だけが他の生徒達を見ている。

「私はスキル使った方が伸びるから、みんなに掛けてくるわ」
「お好きにどうぞ」
「休養してなくても良いの?」

 メイドは肩をすくめるだけで何も言わない。
 それなら良いかとクラスメイト達に回復をかけていく。

「疲れが取れたらまだ頑張れるよ」
「ありがとうね」
「私はスキル使ったら休むもの。気にしないで良いわ」

 クラスメイトの1人が、私の後ろを気にしながら尋ねてきた。

「あのメイドさんって1体何者なの? 他のメイドさんとは違うよね?」
「私もわからないわ。メイド長ってわけでも無さそうだし」
「まぁ、そうだよね。変なこと聞いてごめんね」
「いいえ。後を頼むわね」

 先程のクラスメイトの言葉が気になる。
 だけど直接本人には聞けない雰囲気。
 他の仲間や従事者達に回復をかけて回ると、1人の料理人に声をかけられた。

「聖女さんのおかげで捗《はかど》ったからな。お礼に良い物食わせてやるよ。こっち来な」

 周りを見ると執事やメイドも笑顔で頷いている。
 そういうことならと、後を付いていくと、厨房に辿り着いた。

「料理長! この方に例の奴お願いします!」
「なんだぁ? あれは貴重品だぞ」
「今日、城の人ほとんど回復してくれたんですよ。みんなの気持ちを送りたいんです」

 それを聞いた料理長は頬をポリポリ掻く。

「聖女さん。これは内緒だぞ?」
「え? はい」

 引っ込んだ料理長が数分で戻ってくると、両手に1皿ずつデザートを持ってきた。

「フルーツケーキと焼き菓子だ」
「うわぁ! デザートなんて久しぶり!」
「王弟様でも数日に1度だけの物だ」
「そんな大事な物良いんですか!?」
「王弟様の配慮だな。食べない日の分をがんばった侍従に食べさせるんだ。今日はあんただ」

 目の前にあるデザートから目が離せない。
 用意してくれた小さめ椅子に腰掛け、じっくりゆっくりと、一口ずつ味わう。
 ほのかな酸味とフルーツの優しい甘みが全身を駆け巡る。
 彼らが誠実に仕事する原動力がわかった。
 私の貰う料理はクラスの中だと最上級。
 だけど、それに付いてくるフルーツは小さなベリーやブドウ1片くらい。
 召喚前は我慢して食べない選択してたけど、今では願っても食べれない1品。

「料理長。ノールって奴でしたっけ。交渉出来たんですか?」
「ん? あぁ。いくつか手に入ったが、それでお手上げだったよ。もし見つけたらと頼んでいる。それと祝い品も頼んでおいた」
「え? それまで取って来れるんですか?」
「ギルド長は出来るって言ってたぞ。戦闘は苦手らしいが、採取は完璧にこなしてくるらしい。場所も教えたし問題ないだろ」

 小耳に挟んだノール。
 明石にも聞いたことがあった。

「ちょっとすみません。ノールという方は城から出た」
「そうですよ」

 料理人がすぐに答えてくれたが、料理長のゲンコツが飛んできた。

「バカ野郎! 王弟様の依頼なんだ。ホイホイ言うんじゃねぇ!」
「ごめんなさい。城から出た後が気になっていて。元気なら良いんです」
「そういうことか。元気にやってるよ。なんでも、他の奴らを鍛えてるとか言ってたな」
「そうなんですか。危なくないと良いですけど」
「どうだろうな。最下級組だっけか?」
「そうですね」
「残っても訓練で死ぬだけだ。それを考えると、城を出たのは正解だな。」

 そんなに過酷な訓練をさせるのかと、怪訝な表情になる明石を見て料理長が弁明する。

「いや、スキルの問題だよ。戦闘スキルが無いと付いてけないんだ。手加減にも限度があるから、耐えられることが最低条件なわけよ。無駄飯食らいは残せないからな」

 その言葉にも若干裏があるように感じられたが、明石は言葉を飲み込む。

「ノールは逃げる訓練とか言ってたな。探索がメインだろうから、下手するとお前らより稼ぐかもしれないぞ。それより、乾く前に食っちまった方が良いぞ?」

 そうでした。
 今はこのケーキを味わいましょう。
 譲ってくれた皆んなと、久しぶりの至福をくれた運命に感謝。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...