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5章 獣王国

第96話 瞑想大好きおじさん復活

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 さらさらと流れる風。

 周りの音をかき消すようにパラパラと音が鳴っている。

 …し…ール氏!

「ノール氏! 起きたまえ!」

 体をポコポコ叩く感触と声に意識が戻される。
 ふと目を開けるとアホ毛のように飾り羽が一本生えた人。

「教授? 何か用事?」
「用事? じゃないわ! ほれ、急いで家に戻るぞ」

 引きずられるように雪の斜面を降りていく。

「いつの間に雪が降ったんだ?」
「やはりアホか。もう一月は降っている。同じ長命でもその格好は本当にわからんな。暖たまる機能でもあるのか?」

 そんなものあるわけない。
 今も薄ら寒いんだからね。

 家に戻るとホーとドリー、それにジールと、いつものメンバーが待っていた。

「やっと来たか。では、打ち上げをやろうか」
「誰かのお祝いか? ジール? とりあえずおめでとう!」



「ノール君。君は私達にどのくらい会ってないかわかるかい?」

 確か前に会った時は秋の始め頃だったから。

「3ヶ月くらい?」
「教授から聞いていたが、ここまでヒドイとは思ってなかった」
「オイラはたまに起こしてたから、何となくわかったけど、それでも今回は長かったな」
「それで、どのくらい経ったの?」
「3年だよ。長命種ってのは食わなくても生けていけるものなのか?」
「そんなわけあるまい! 私は普通に食うぞ。没頭して食べないの比ではない。そんなことより、長年研究していた遺跡の論文がまとまったんだ。祝おうじゃないか」

 確か瞑想前は、遺跡を発見してから5年経ってたから…。
 合計8年かかったのか。

「結構時間かかったね。ひとまずお疲れ様!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」



 遺跡から戻った後、2度潜った。
 特別新しい発見も無かったが、首都の役人を連れてったりと面倒もあったな。
 それでも、以降はモール族の待遇が良くなったりしたので、行って良かったと思っている。

「そういえばドリーの爺さんは元気してる?」
「あぁ、ノールは知らなかったか。爺さんは2年前に亡くなったよ」
「ありゃ。そうだったのか」
「気にすることはない。晴れやかな顔で逝ったよ。それも遺跡が見つかったおかげだ。今度祈りだけやってくれればいい」

 ホーの爺さんも亡くなったそうで、村の長老達も入れ替わっている。
 ドリー達も子供が生まれて世話が大変なので、教授の世話も交代で行っているようだ。

「論文も終わったんでしょ? 教授達はこれからどうするの?」
「何度か首都に行くかもしれないが、研究する時は戻ってくるな」
「私は首都に妻がいるので、ここに居る日数は減るかもしれない」

 なんと、ジール氏にも相手が見つかったか。
 それはおめでたい。
 盛大に拍手をしよう。

「恥ずかしいからやめてくれ。研究者でたまたま気があったんだよ。ノール君達はそういうの考えないのかい?」

 そういうのって結婚か?
 パロ教授と見合わせるが、微妙な顔している。

「あまり言うことでも無いんだが、長命種になるとそう言った感覚? 感情か? それが薄れていくんだ。無駄に長生きだからノンビリなのかもしれないが、ノール氏はそれが特に強いな。私は比較的せっかちな方だぞ」
「はぁ、私も研究欲以外は薄い方ですが、更にですか。良いのか悪いのかわかりませんな」

 何とも言えないね。
 子供は嫌いじゃ無いけど、羨ましいとかあんまり思わないかな。

 その後、誰々の子供が生まれたとか、他愛のない話が続いた。
 宴が終われば、ドリー達の爺さんに手を合わせに行き。
 また、山へ戻っていく。

 オスクは教授と仲良くしていて、どこからか連れてきた鳥と番《つがい》になっている。
 メサはふらふら現れてはどこかに消え、気づけば山にニンニク畑が増えていた。



 雪が溶け始めた頃。

「じゃあ、私達は首都に行ってくるけど、くれぐれも変な所に行かないように!」
「子供じゃないんだからわかってるって」
「子供よりタチが悪いんだよ。メサ君がいないと見つけられないんだ。本当に! ロック鳥の縄張りギリギリで瞑想したり。やめてくれよ?」

 あれはたまたまだったんだよ。
 自然の気が多いところが、あいつの範囲ギリギリに近かっただけだって。

「じゃあ、オスク君。頼むね」

 ピィィ!

 オスク先導で教授達も出かけたし、早速行きますか。
 日記帳よし。保存用の種よし。装備品よし。

「じゃあ行きますか!」

 傾斜のきつい山を登り、新たに良い瞑想スポットを探す。
 霊峰は予想以上にスポットで溢れていて、毎回楽しみで仕方ない。

「あの不思議と開けてるところ。前から行ってみたかったんだよね」

 木々が低くなり始めるころに、1箇所開いているスポットがある。そこには中心に大岩が1つあり、そこから5m程木々達が避けるように空間が出来ている。

「ここだよ。この大岩に乗りたかったんだ」

 岩の下からひょっこり土の精霊が出てくる。可愛い方ね。
 風精や水精、光っている子までいる。

 メサは捕まえようとするが、ワラワラと逃げ出し、更にもっとやってみろと挑発までされてしまった。
 こういう遊びには付き合うメサ。子供達と鬼ごっこしているみたいだ。

「じゃあ、俺は瞑想させてもらおうかな……」

 やっぱり、思った通りに気で溢れている。
 肌寒いのにそれすら心地いい。
 深く深く意識が沈んでいくと、周りの気と自分が一体化していく。

 どのくらい経っただろうか、風に包まれてまるで宙に浮いているような感覚。
 メサの気は離れており、大地の気からも離れているように感じた。今までにない初めての感覚で面白い。それでも感情は動かさず、揺蕩《たゆた》うように…。




 _______________


「最近ノール見かけないなぁ」
「また瞑想してるんじゃないか?」
「そうかぁ。いつもの場所にいなかったんだけど」

 ホーがノールを見つける時は、だいたい家の裏手か川沿い。もしくは山の中腹のスポット。
 ノールのお気に入り瞑想スポットだ。

「ちょっと前に教授に聞いたんだが、最近瞑想スポット探しにハマってるらしいぞ?」
「えぇ? 新しいところはさすがにわからないよ」
「良いじゃないか。どうせ死ぬ訳じゃない」
「確かにそうか。教授が帰ってきたら、そう言っておこう」

 教授が出かけて半年経つが、なかなか帰って来れないと手紙が届いた。首都でも忙しく、城に止められているらしい。

「なんだかんだ。教授もこの国じゃお偉いさんだからね」
「おかげでこの村も長らく守られていたんだから、頭が上がらないよね」
「帰ってきたら、またお祝いしようよ」
「そうだね」

 その時、山の上から聴き慣れない鳴き声が聞こえる。

『キュアアアア!』

「ロック鳥? 獲物見つけてもそんなに鳴かないのに」
「どこか嬉しそうじゃないか? おもちゃでも見つけたかな?」

 良くみると、山の一部あいている空間に降りている。

「降りてくるのも珍しいな」
「あ! 何か掴んでった!」
「あれは……小さくてわからないな」
「こういうこともあるんだね。これも教授に教えてあげよう」

 ちょっとしたことで、特別を感じる日常。

「今日も変わりなく、いつもの日々だなぁ」
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