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5章 獣王国

第89話 霊峰へ帰還

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「もっと見とくか?」
「いや、怒られそうだし良いよ」

 博物館はここで最後で、ゲイルと外に出て、食事をしながら話すことにした。
 中心街はどこも居心地悪かったので、『爪と穴』まで行く。






「やっぱりここは落ち着くね」
「ふーん。首都着いたばっかなのに良い場所知ってるな」
「たまたまね。それであの作務衣だけど……」

 俺が昔着ていた奴を思い出しながら伝える。素材が特殊で通常では採取することも困難。俺の故郷や知り合いでも、持ってる人はほとんどいなかった。

「種神は人とは言え、神が着ていたと言われる服だからな。しかし、それだとノールの故郷ではあの素材のがいくつかあった訳だ。採り方とかわかるか?」
「いや、師匠がやってたの見てたけどわからなかった」

 教えてもわからないと思うが、万が一ってのもあるからな。

「ちょっと動きだけ真似するぞ。見ててな。ここでこうやって紡いで、巻いていくんだ」

 空中で紡ぐ動きをする。

「いや、それって動きだろ? どこにあるとか」
「だから、ここでこうだって」
「いや、空中掴んでも……」


 その空中から糸を紡いでいくんだよ。

「そうだよ。それで出来た糸なんだ。だから無理だって」


 本当にどうやってたのかわからん。
 気を込めてたのはわかるが、さすがに空気から糸は作れないぞ?やれやれ。

「……お前の師匠ってのは何者なんだ?」
「獣王国に来る途中にちょっと思い出したんだ。仙人と言われていた」
「思い出したのは良かった。だが、仙人ってなんだ?」


 わからないよな。
 俺もここら辺で聞いたことない。
 一応説明してみる。

「なるほど。だとすると長命種になるか」

 あれを長命と言って良いのだろうか?
 不老不死だろ?
 師匠達には悪いが、言ってはなんだが、化け物の部類だぞ。

「ノールもそれで長命になったのか?」
「ん? うーん。たぶんだけど違うかな?」

 前に何か言ってた気はするけど、はっきり思い出せないな。師匠としか出てこないし、顔も名前も微妙。だけど教えられるとダメだったような……。

「俺のやり方になるけど」
「おう」
「確か人に教えられると、ダメって言われたと思う。その前提で、ずっと瞑想してたらいつの間にか長生きになってた」
「教えられるとって、瞑想のことか?」
「いや、瞑想のやり方かなぁ? 瞑想自体ではないと思うよ」

 ゲイルは試してみるのかもしれないが、あまり期待しない方が良いと思う。
 それだけは言っておいた。




「じゃあね。バートにもよろしく」
「わかった。帰りも気をつけてな」

 門で別れると、ちんたら歩きながら帰っていく。
 行きは馬車に乗ったままだったから、採取も出来なかったからな。
 ちょっとした息抜きだ。

 ちなみに、首都の露店で色々買ってきた。
 ガラス玉を巾着ごとと、育てられそうな果物と野菜。
 雑貨も色々。
 そして、なんと醤油を見つけた!
 魚醤だったが全然良い!
 それも大豆っぽいのも見つけたからだ。
 うまく行けば味噌と醤油も作れる。
 それまで魚醤を楽しみつくそう。
 3壺の魚醤に、大樽を荷車に乗せながらの帰り道。

 久しぶりに1人なので、誰気にせずニンニクを食った。ペペロン風にしたり、鍋に入れたり、麦飯と炒めたり。
 初日は周りに人の気配があったので、飯に誘ったが反応なし。
 次の日から毎食ごとに人が減っていき、3日目には、10人いた人が消え去った。
 おそらく違う方向だったのだろう。
 こっち側って例の検問村だからな。

 俺が通る時も通行料を取られると思って、お金を準備してたんだが…。

「誰もいないな? 今日は休みかな?まぁ良いか」

 村に用事もないので、そのまま通り過ぎる。




 道中で新しい植物を見つけたり、小動物を観察したり、結構楽しい帰りだった。
 隣村でしかめっ面されたが、物々交換してくれたので、機嫌が悪かっただけかもしれない。



 ◆ ◆ ◆




「みなさん。戻りましたよー」

 モール族に声をかけておく。



「この臭いはノール君だな」
「帰りにしこたま食いやがったな」
「今回は強烈」
「ホーは慣れてるだろ? 行ってきてくれよ」
「良いけど一番欲しいのはもらうよー」

「「「わかったわかった」」」




「おかえり。帰りは楽しんだようだね」
「わかる? 自由したって感じ。それとお土産ね」

 荷車の紐を解いて、見せてあげる。

「これだけあれば欲しいのあるでしょ? 持ってきなよ」

 毎回行くドリー達は、必要な物を買ってくるが、余計な物まで手が出ない。その点俺は自由だから、とにかく色々と言われていた。

「やっぱりノールは野菜とか多いな。これは面白いね」

 ホーが手に取ったのはゴーグル。
 ガラスがあるから、置いてあると思ったんだよね。
 高かった……みたい。
 というのも、購入費をゲイルに払ってもらったから。
 博物館と酒場で話した内容だけで、全額払ってくれた。
 むしろ足りないと言ってたくらい。

 モール族は洞窟掘るから、あると便利だと思ったんだよね。
 案の定ゴーグルは人気があって、すぐに無くなってしまった。

「「「もっと無いの?」」」
「すまんな店の全部買ってそれなんだ」

 あと分厚いガラスだけど、割れたら危ないから注意するよう言っておく。
 次に人気だったのはホルダー付きのベルト。
 サイズ調整出来る6つの留め具がある。
 取り付けた奴がスコップ吊り下げて喜んでた。

 爺さん達は畑をやってるので、キャベツの種をあげる。
 名前は知らなかったが、見た目も味もほとんどキャベツだったので、そう言ってる。




「ドリー達はまだ?」
「今回は色々頼んだから、もうちょっとかかるかもね」
「そっか。じゃあ教授のところ戻るかな」



 いつもの山道を通り、登っていくと見慣れた家が見えてくる。

 ピィィィ!

「オスクただいま。先にお土産」

 梨みたいな果物を放り投げると上手くキャッチ。
 そのまま食べていく。


 そうなるとアイツが出てくるだろう。
 俺が教えたおかげか、ずいぶん気配を断つのが上手くなっている。
 おそらくいるだろうと思って、空に向けて毒草を投げる。

 シュバ!っと風切り音を鳴らして、一瞬だけ触手が見えた。

「お前のお土産はこれだー!」

 通常の露店で見つけたんだが、まさかと思った。
 薬草に混じって毒草がある。
 しかも猛毒に部類されるが、薬の材料になる高級品。
 イアさんに教えてもらった名前はただ『凍える』草とだけ。
 食べると体から熱が消え体が凍る。
 本当に氷になる。
 使い道は何千倍にも希釈すると、どんな高熱でも抑えられる解熱剤になる。

 メサが飛びつき貪ると冷気を振り撒き出した。
 体の前に氷柱を作ったり、氷で遊んでいる。
 気に入ったのか、体を揺らして喜んでいるのが伝わってくる。


「そうだろう。今回は俺のお土産センスが光ったな」



 あとは研究者共だ。

「帰ったよー」




 と言っても返事が無いのは分かっている。
 正直こいつらのお土産がわからなかった。
 だから、作ってしまうことにした。

 白地の布だけ買ってきて、ゲイルお墨付きの店で最初に頼み、帰りには完成。
 型が簡単ですぐに作れたと言う。
 だとしても神業の早さ。
 ボタンでは無く紐で締める形だが、見栄えは悪く無い。

 やっぱり研究者と言えば。



 白衣でしょう!

「これがお土産、着てみて」

 2人に着せるとイメージに合う。
 似合ってるかは知らん。

「なんとも変わった服だ。ですが、この小物入れは便利ですね」

 ジールが片手をポケットに突っ込み、メガネをクイッとあげる。
 わかってるジール。
 俺は心の中でガッツポーズだ。

「ノール氏のことですから、面白い記憶でも思い出したんでしょう」

 教授も置いてた果物をポケットに突っ込み歩き回る。

「良いですね。ん? いつの間に果物が、いただきましょう」

 収集癖があるから気づくと何か持っている。
 教授にポケットはまずかったかもしれない。
 ゴミが増えるか……。

 すまんがモール族達よ。
 掃除がんばってくれ。
 それがお土産代だ!
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