上 下
77 / 165
4章 国の波乱

第76話 街道の悪魔

しおりを挟む
「どこ行きやがったんだ! 良い獲物だと思ったんだがな……戻るか」

 俺たちの追いかけっこは丸1日続いた。
 夜になっても見えているのか、全く離れず追いかけてくる。何度か魔物をけし掛けてみたが、轢き潰すという言葉が合っているな。まさにダンプカーだ。
 一度距離を縮められかけたが、以前作っていた唐辛子パウダーのおかげで、なんとか突き放すことが出来た。
 それも夜が明けてつい先ほどのことだ。
 それほど遠くに行けて無いが、さすがにもう見えてないだろう。

「やっと撒けたか。やったねジャン君」

 遠くの草場からバレない様に覗き込む。

「う゛えぇぇぇぇ」

 どうやら気にしてるどころでは無いらしい。これだと、ジャン君が落ち着くまで動けないかな。

 太陽が真上に来るまでは動けなかった。
 さすがに、ジャン君は疲れていたのか眠っちゃってね。

「あれ? あいつは?」

 起きたみたいだね。

「ちゃんと逃げ切ったよ。危険な奴だったねー」
「まさか街道にあんな奴がいるとは……みんなは大丈夫かなぁ?」

 正直言うと分からない。

「まぁ、行ってみればわかるだろう。それよりここまで戻ったら南の街道超えていくしか無いよね」

 現在地は平原の南よりやや元王都側。
 そう言えば、トーマスが居た村が近かったな。

「ジャン君。俺の知り合いがいる村に寄っていこう」
「やった! 久しぶりの人里だ!」

 喜んでもらえたようだな。

 ……
 …………


 少しゆっくり歩きすぎたのか、近くの村に辿り着くと、夕方前になってしまった。
 村の門番も人手を増やしたのか、3人程で守っている。
 その内の一人が気づいて声をかけてきた。

「何者だ!」

 槍まで構えなくても良いと思うんだが、腕を広げて何も無いよアピールしておこう。

「旅の者でっす。今晩泊めてくださいー。あとトーマス君いますか?」
「なに? トーマスだとぉ?」
「あいつならつい先日ニールセンに帰ったぜ」
「おい! 勝手に言うなよ!」

 何か揉め事か?
 だが、ここにはいないのか。
 泊めてくれるかなぁ?

「ちなみにこの村の宿は全部埋まってるからね。野宿なら良いけど?」
「だから勝手に! まぁ良いだろう」

「ジャン君よかったね。村で寝て良いってさ!」
「いや……野宿だろ?」
「そんな細かい事気にするなよ」
「細かくねぇよ!!!」

 ジャン君の言葉は気にせず、寝床を探すか。


 少し広めの場所を貸してくれたので、一角に満天の星空を拝める簡易ベッドをこさえた。

「ここって厩舎の横じゃ」
「良い夜空だねぇ。僕は屋根上で星を見ながら休むよ! オヤスミ!」
「あ! おい! 逃げやがった」

 久しぶりに静かな夜になりそうだ。


 ……
 …………


「起きてんのか? 立ったまま目瞑って、どうなってるんだ?」

 ジャン君の声だ。

「やぁ。起きてるよ」
「うわっ! 起きてたか。そろそろ日が昇るよ」

 今日から、また半亜人村へ向かわないとね。
 日が昇ると同時に村を出発する。

「どうやって行くんだ?」

 それはごもっともな質問だな。

「街道を少しだけ進んだら、南に外れてから、目的の村へ向かおう」

 俺の想定だと、村2つ分進んで、そこから街道を外れると丁度良い。その先になるとゴロツキが増えて、絡まれるのが面倒になる。以前はそうだったから、最近のことは知らないけどね。



 だけど、想定通りにはならなかった。
 村1つ超えた辺りから、ガラの悪い奴が増えてきて、チラチラと見てくるんだよね。それも気になるんだが、そのガラの悪い奴らが、道端に倒れてるから困る。
 頬に赤い筋がついてるけど、鞭で打たれたのか?
 別の奴は3本線の入った紅葉腫れがある。

「さっきから、変だよな? これ大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないだろうけど、後ろからゾロゾロ付いてきてるのもなぁ」

 倒れている人が増えるのと共に、後ろを付いてくる奴が出てきたんだ。
 しかも後ろで、悪魔が出たとか言ってるし。

(あいつらの後ろなら大丈夫だろう。)
(俺らの代わりに餌食になってくれる。)
(良いか? 例の奴が出たら全力で走れよ。)
((おう。))

 ほうほう。
 それなら俺も注意しておこう。

「んー。何か出るかも知れないから、ジャン君も注意しててね」
「わかった」


 ……
 …………


 何事もなく、次の村まであと少しの所に来た。

「心配して損したな。何も無かったじゃないか」
「そうだね。まぁ、後ろの人たちが動きそうだけど」

「へへ。良くわかってるじゃねーか!」
「ここまで来ればこっちのもんよ」
「悪魔が居なけれ怖くねえ!」

 見た目も装備も貧相だが、度胸だけは自信があるみたい。
 だけど、詰めが甘いよ。

「君達には横から聞こえる音が分からないのかな?」

 そう言って平原を見る。
 ストーキング3人とジャン君も釣られて平原を見ている。
 豪快な地響きを鳴らしながら何かがやってくるが見えない。

「音だけか?」
「何もいねーぞ」
「騙しやがったな!」

 そこに2mサイズの影が南の林から飛び出し、3人に蹴りをかます。
 3人は、奇妙なうめき声と共に吹き飛ばされていった。

 くわぁぁぁぁ!
「やるじゃないか! さすがはオスクだ! タイミングをわかってるねぇ」

 30分程前からオスクとメサの気配は感じていた。
 ただ、動きが奇妙。あっちへ行きこっちへ行きと2匹ともフラフラしていたので、なかなか追いかけることは出来なかった。

「こんなところで何してるんだ? みんなはどうした?」
 くわっくわ!くぇぇ。
「そうかそうか。獲物を探してたんだな」
「兄ちゃん、それでよくわかるな?」
「なんとなくな。それよりオスクの屋台があるから水飲もうよ」

 そう言って荷物を下す。
 歳をとると体が硬くなってしまうな。
 肩や首回りがゴリゴリ鳴る。
 俺の後ろからもゴリゴリ鳴っている。
 ん?

 そこには半透明な軟体生物が、俺の背嚢から小瓶を出して削っている。

「おい。それ……」

 黒い粉を体に漂わせながら、ご満悦なメサ。

 あぁ…。

「大事なシワ茸がぁ」

 しばらく立ち直れないかも知れない。

「おい! この後どうすんだよ!?」

 何か聞こえるような気もするが、どうでも良いや。






 気づいたら、空に浮かぶ建造物が見えている。

「あれが、空飛ぶ城か」
「なーに言ってんだよ! ブルーメン着いたぞ! この後どーすんだよ。」
 あれ?
 屋台の上で仰向けになっている。
 誰かが乗せたのかな?

 くわわ!
「オスクが乗せてくれたのか? 良い奴だなぁ」
 ブルブル。
「なんだメサもいたのか……」

 んー?
 ん!?

「お前! 俺の大事なシワ茸をぉぉぉ!!!」

 屋台から飛び降り、すぐさま臨戦態勢。

「お前もやる気か! ここらで一度上下関係わからせてやる!」
 ブルブルブル!

「兄ちゃん、やめてくれよ! またヤバいの来たらどうするんだよ!? それに、全力出したら道も壊れるぞ!」

 一度休んだ俺は少し冷静なのだ。

「確かにあいつは危険だった。勝負はお預けだ」

 小心者の俺には、あの苦労をすぐに味わいたく無かった。
 プルプル。
 小馬鹿にしてるような感覚はあるが、今は無視だ。

「あれもこれも、帝国と聖教国が戦争なんぞするからだ。ふん!」


 街へは行かずにそのまま南に向かうが、近場の野盗共が寄ってくる。

「変な馬車あるぞ?」
「なんだぁ?」
「おい! こいつら街道の悪魔だ!」
「なんだと!」
「よくも仲間をやってくれたな」
「こんだけ入れば倒せるぞ!」

 どこかで恨みを買っちゃっていたのか。
 面倒なことになったが、全員で逃げるのは苦労するな。

 くわぁぁぁ!

「とりゃー!」

 なかなか良い勝負をしている。
 ここらのチンピラは、ベン君とオスクに任せれば良いだろう。
 そう思って俺はまた休もうとしたんだが…。
 なぜか魔物まで襲ってきて、乱闘状態になってしまった。
 俺は避けてれば良いんだが、1人1匹が少し劣勢だ。
 メサも乱闘に混じって蹴散らしてるが、1匹で大量に相手してるので、助けにくるのは無理だろう。
 ちょっと余裕作ってやれば勝てそうかな?
 助けに行こうとした時。

 くわっくわぁぁぁぁ!
 オスクの体が急に輝き出した。

「オスクめ! そんな新しい技を覚えていたのか!?」

 敵も味方も目が眩《くら》んで、動けない。
 いや、メサだけは今も倒し続けている気配がするな。

「くそ! 目が痛え」
「いきなり何だよ」
「何も見えねえ」
「完全にとばっちりだ!」

 最後のはジャン君だね。


 ようやく見え始めてくると、まだ若干光ってる物体がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...