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4章 国の波乱

第75話 ジャン少年の修行

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 俺とジャン君は、平原を修行しながらゆっくりと行進中だ。
 ジャン君たっての希望で!

「兄ちゃん! この修行だと全然進まないんだけど!?」
「君が言い出したんじゃないかー。我慢しなよー」
「そうは言っても1日のほとんどが瞑想じゃないか!!」
「君が覚えたいのはそういう修行だよ?」

 ジャン君は気の使い方を覚えたいと言っていた。
 ブルーメンの子達も分担して瞑想してたなぁ。なんて思い返すと感慨深い。あの子達も、気の感覚がわかったら瞑想と戦い方ばっかり練習してたよな。
 ベン君達は覚えたのが早い方だったから、最初に探索者になったんだろう。

「ベン君もやってたことだよ。本当は感覚を掴むのが一番難しいんだぞ?」

 ジャン君もムッスリとしながらも瞑想に戻る。

「集中しないと意味ないぞ」

 一瞬ビクリとしつつ、やっと瞑想に意識が向いた様だ。
 俺は瞑想だけだったので、気の感覚がわかるまでかなり時間がかかっていたな。

 こんなにマンツーマンで教えたのは初めてだな。いつもテキトーだったから、ある意味俺の成長になるかもしれない。
 帝国人も気を使うみたいだし、覚え方をもっと聞きたかったな。教えてくれないだろうけどな。

 しばらくはチョビッと進んで瞑想する日々が続いた。
 見ていると段々瞑想したくなるが、ここは我慢だ。

 日々の飯だが、食料は野草と持ってきた穀物だな。縮小化が役にたっていて、巾着にたくさんの野菜類が入っている。それを、ジャン君に多めに渡している。
 渡す理由は、俺が飯を忘れるからだ。
 瞑想に関わることをすると、どうもそれ以外の意識が薄くなるようで、1日飯を取らなかったことがある。ジャン君が目眩を起こしてしまったので、タイミングは任せることにしたのだ。


 ◆◆◆


 10日程で、気配がわかってきたようだ。彼も優秀な人らしいな。
 俺は昔から容量が悪くて、覚えるのに時間がかかっていたから、教えるの大変だったろうな。

「なぁ。今どのくらい進んだんだ?」

 そう言われて記憶を探ってみる。

「たぶん……半分くらいだと思うよ」
「3分の1から半分まで10日って、倍以上かかってるよ?」
「そうか? 全体で1ヶ月で」

 ちょっと考えてみたが、確かに時間食ってるな。

「3ヶ月くらい超えるか? その程度なら大丈夫だよ。」
「オレも仲間が待ってるんだけどー?」
「確かにそうか」


 瞑想ばっかりしてたせいか、オツムが働いてなかったようだ。待たせるのは申し訳ない。だが、自分の足で進むならジャン君が耐えられない。だから、ジャン君の足を強化することにした。

「今日から修行を変えよう! 気を使った強化の訓練だ」
「うほほーい。やっと次のやつだ」

 やる気があってよろしい。
 まずは賦活を覚えてもらう。それだけでも、体力が上がるはずだ。その後に気の操作を教える。

「賦活は体の内側に気を巡らせるだけなので、簡単な方に入る。ただ最初は弱くやるんだ。徐々に体を慣らして行くと、だんだん気を流す量が増えても耐えられるようになっていくんだ。瞑想は弱い賦活状態に近いからな。みんな瞑想しているのは、それが理由だろ」
「なるほどなー」
「じゃあ、一回賦活かけてあげるから、その感覚でやってみるんだ」

 試しにやってあげるが、体内で気が動かせていないな。歩きながらゆっくりやるしか無いか。一応こっちで操作してやることも出来るが、違和感が半端ない。俺もやられた感覚はあるが、その後に吐いてしまったよ。

 夜になってジャン君が疲れているように見えた。

「大丈夫かい?」
「賦活って結構大変なんだな。軽くやってもらってたけど、これはキツい」
「いやいや、それは賦活出来てないからキツいのさ。出来る様になると楽だよ? ほら」

 そう言って賦活してあげる。

「おぉぉぉ! めっちゃ疲れ取れるー!」
「じゃあ、ごはん食べたら少し瞑想ね」
「鬼かーー!」

 瞑想は大事なんだよ?


 ジャン君は疲れて眠っている。
 完全に無防備だが、平原の中間超えてから、魔物の気配が増えている。夜中は意識向けてないと、寄ってくるから困る。
 そこで従魔のことをふと思った。

「メサは警戒してくれたし、オスクも良く運んでくれていた。2匹とも結構役に立ってたんだなぁ。今回だけは逃げたの許してやるか」

 呟きつつ、向かってきたウルフに丸めた土を弾く。
 ちょっと強くやりすぎたか、キャンキャン鳴いて逃げてしまった。

 そんな風に、敵意のある奴を追い返していたせいか、小動物が寄ってくるようになってしまった。
 昨日はウサギだったが、今夜来ているのは……良くわからない生物だな。
 手のひらサイズで、キツネっぽくあるが、もっと鼻は短い。猫っぽくもあるが、もう少しスマートな体型。

「お前の種族がわからんな。とりあえず『キツネコ』だ」

 そいつらは2m程離れた場所で、10匹程で団子になっている。こういう新種を見かけると生態調査をしたくなるんだが…ここは我慢だ。

 夜明け前になると、キツネコ達は起き出して近場の虫を食べ始めた。
 その内の一匹が寄ってきて虫を渡そうとしてくる。

「俺は虫食わないからなぁ」

 と言ってみるが離れないので、一応もらっておくか。

「ありがとう」

 そう答えると、ピョンコピョンコ跳ねながら仲間の元に帰って行った。

「生態調査として、食事も確認しておくか、どれどれ」

 綺麗な透明の羽だな。体はスマートで、意外と虫っぽく無いぞ?腕と足は2本ずつ。頭に髪のような…。

「羽虫じゃねーか! お前何してんの!?」
「ふぁ? もう朝か?」

 俺とジャン君の声に驚いたのか、キツネコはそそくさと逃げて行った。

「なんだ? 手を広げて何かあるのか? 何もねーぞ?」
「見えない? 風精霊だよ。手の上で寝てるな」

 ジャン君は俺の手を凝視するが見えない様だ。というか顔近づけすぎじゃないか?
 羽虫が起きて目を擦ってる。
 その羽虫がジャン君に気づくとビックリして、ジャブを繰り出す。

「うっわ! 目が!」

 何だか記憶にあるな。
 昔、目の検査をした時に、風を当てるやつがあったよな。

「眼圧検査だ。羽虫のその技は『眼圧検査』だな」

 おぉ! 一個思い出した。
 ちゃんとメモしておこう。
『眼圧検査』と書いて……。

 その言葉が気に入ったのか、空中をくるくると回りながら、キラキラと魔力をこぼしてくる。

「痛く…は無いけど何だったんだ」
「だから風精霊だよ。顔近すぎてビックリしたんだな」
「確かに何かいたな。オレも見えるようになるかな?」

 そんな疑問を言ってくるが、わからんな。

「どうだろう? 俺も瞑想してたらいつの間にか見える様になったしな」
「やっぱ瞑想かぁ。時間見つけて続けてみるよ」

 やる気が蘇ったようだ。

「見える補償は無いから、期待しすぎるなよ?」
「わかった」


 そこからはジャン君も修行に集中している。時々、気を流してあげているが、最初に自分で動かす感覚までが難しいんだよな。
 やっぱり子供は覚えるのが早いのか、3日で動かし始めている。そして、街道に辿り着いた時には、賦活を覚えるまで至っていた。

「見慣れた道に出たね」

 ジャン君もほっと一息ついている。

「仲間と何度も通った道だ。この街道に大農園を見ると落ち着くよ。それでここからどう行くんだ?」

 何をわかりきったことを言ってるんだ?

「そりゃ。ブルーメンの横を通るんだけど?」

 その言葉にジャン君は訝《いぶか》しむ。

「いやいや。人に会わないようにしてたんだから、そんな道通れるわけないでしょ。で、本当のところはどうなんだ?」

 そういえばそんな話もあったな。

「ふむ……」
「まさか!? 何も考えずに通ってきたのか?」

 人を指差すんじゃない!

「仕方ないだろ! 急に足止めなんてさせられたら、覚えたものも全部吹っ飛ぶわ!」
「最初から考えてなかったんだろ!? 孤児院いた時から、ちょくちょく考えなしに動いてたろ!」

 街道のど真ん中で、お互いを罵《ののし》り合っていると近くの人々が集まってくる。

(なんだなんだ?)
(喧嘩か?)
(馬車通りたいんだけど……)

「一度その頭を叩いて記憶力を復活させてやる!」
「なんだと!? そんなことが出来るならとっくにやってるわ!」

 とうとう取っ組み合いにまで発展すると、そこに男がやってくる。

「おいおい。殴り合いはやめとけよ」

 2人して振り向くと、鎧を着た屈強そうな奴がいる。

「帝国から治安維持だと楽な仕事だと思えば、あちこちで喧嘩。この道はどうなってやがるんだ? しかも弱え奴ばっかりだ。くそっ」

 そいつの通ってきた道を見ると、ゴロツキやらボロ服の野郎どもが、転がっている。
 その癖、そいつの鎧には埃1つなくピカピカ。
 ビンビンとアンテナが立ってしまった。
 こいつはヤバい奴だ!
 掴み合ったまま、ジャン君と顔を見合わせる。

「「お勤めご苦労様でーす!」」

 脱兎のごとく走り出す2人。
 ジャン君も、賦活を使って見事な走行。これなら着いてこれ無いだろう。
 そう思って後ろを振り向く。

「ひゃっひゃっひゃ! 久しぶりの獲物だぁーーーー!」

 嬉しそうに言ってるが、表情はまさに鬼。
 俺らと同じ。いや、それ以上のスピードで走ってくる。

「ぎゃあああ」

 ジャン君も発狂寸前。
 しかもこのスピードじゃダメだな。

「追いつかれる! 運ぶよ!」
「ぶへぇ」

 ジャン君を抱えてるが、衝撃が強かったのか少しえづいている。
 しかし、止まったら捕まってしまうので、そのまま平原へ走り出す。

「人抱えてその速さかよ! 良いの見つけたぜぇ!」
「ぎゃああああ!」

 俺は走って見えないが、ジャン君には何か見えていたようだ。
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