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4章 国の波乱

第66話 各勢力の一幕(裏)

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 <ニールセン国>

「はぁ。なんでこんなことになったのかなぁ?」

 そう呟《つぶや》くのは、ニールセンの領主。
 弱小の木端貴族だったのが、なぜか祭り上げられて街の領主になってしまった。
 この街は結構面倒なんだよな。

「仕方ないだろう。この情勢では、この道以外生き残れないんだから」

 この男がニールセンの騎士団長でトーマスの父。

「もう中立でも無くなっちゃったし、わざわざ神人教会残さなくても良いんじゃ無い?」
「あれでも、スキルの恩恵は大きんだよ。ペトラ殿もおっしゃってただろう。ここは『多種族国家』になると。それにこの街出身の司祭しか残ってないし、協力的なのだから、追い出したら問題になるぞ?」

 領主が机に伏しながら、ぶつぶつ言っているが団長は気にしない。

「でも、僕が凡人で良かったよね」
「なぜだ?」
「だって、周りには優秀な人材が多いんだから、僕も優秀だとぶつかっちゃうでしょ?領主とは名目あっても、合議制になったし、責任も分散で嬉しい限りだよ」

 言ってることは間違ってないのだが、領主の言葉としては聞きたく無い。

「そんなこと言ってないで、新しい書類だ。というか、そろそろ事務官増やせ!俺も訓練出来ないんだぞ?」
「そんな人員どこにいるのさ。居たらダイン殿が役人なんてやってないよ。ぶふっ」

 領主は執務するダインを思い出し笑っている。

「そういえば、トーマスはいつ戻すんだ?」
「今年中には……。王国の貴族が邪魔してくるんだ。まだ負けてないとか、聖教国に着こうとか。まだ貴族のままいられると思ってるんだから不思議だ」
「現実逃避さ。というか貴族位なんて早めに捨てた方が良いよ。帝国も聖教国も役職位でしょ? なんでこの国は貴族なのさ」
「ほとんどが貴族位だ! あの2国がおかしいんだ!」
「あっそぉ。今更中立ぶってないで、もうダイン殿に頼んじゃえば?」
「ダイン殿が一番忙しいんだよ! それに王国絡みならペトラ殿だろ? 本当に戻れなさそうなら頼みに行く」


_______________
 <聖教駐屯地>

 厳かな教会の中で司祭が石像に祈りを捧げ、後ろに白銀の甲冑を着込んだ青年がいる。

「なんで王国の貴族を保護するんだ?勝手に動く無能なんて厄介の種でしかないのに」
「迷える子羊を救うのも我々の仕事ですよ?」

 司祭が振り向きながら答える。

「神人教徒が我らの分派であることは知ってるでしょう?多少教えは違えど、同じ神を崇めているのです。見過ごすというのも良くありません」
「外聞が悪いだけだろうに……まぁ、今回はうまく引っ掻き回してくれたしね」
「それにかの者が本当に勇者か確認せねばなりませんからね」

 司祭がそう言うと、青年が手を叩く。

「そっちもあったな。使えそうなら騎士団がもらっても良いよ?」

「はぁ。本当に欲しいなら譲りますが……返品は出来ませんからね?」
「その言い方からすると作り物勇者か。やっぱいらない!」
「その方が良いでしょう。毒を抱え込む必要はありません。帝国前に撒いてやれば良いのですよ。全く、邪魔になる手駒なんて増やすからこんなことに」

 そう言ってブツブツ言い出した。

「そう言えば、王国にあった『ヒューダス』はどうするの?」
「解体でしょうね。聖教国に組み込まれたら必要無いです。ただ、ニールセンには残しておくようです」
「ふうん。ニールセンか。わざわざ国として残しておく必要あるのか?」
「ん? 騎士団では話して無いのですか?」
「何の話?」
「はぁ。これでは他国の愚痴も言えませんね」

 青年はムッとした顔をするが、口は噤んでいる。

「ニールセンは王国が出来る前からあるのですよ。いつからというのが、わからない程度には古くから」
「だとしても、それを残す理由にはならないと思うけど?」
「それだけじゃないんですよ。聖教国も帝国も持っている古い文献には、かの街の施しを受けたという記録があります。今回の独立も完全な中立に立った上で、通行の邪魔をせず、交易もこれまで通り行うと明記していました」
「それでも」

 青年が言おうとするが、司教は話を止めない。

「逃げた人達の拠り所になっているのですよ。我が国や帝国を恨んで出て行った人達。その子孫があの地に集まっています。叩けば聖教の埃が溢れるでしょう。ニールセンには、それを各地に伝える伝手がある。あなたの祖先が異端かもしれませんが、わざわざ叩きますか?」

 そう言われてしまうと何も返せなくなってしまった。

「我らは何も知りません。仲良くやりましょうと言ってれば良いのです」
「なるほど」
「ところで、あなた上司と話していますか?」
「え? どういう。」
「一応副隊長なのでしょう? この話を知らないのはおかしいですよ」
「そうなんですか? うちの隊長すぐ怒るからあまり話さないんですよね。へへ」
「期待してるからです! 本当に親の七光で終わりますよ?」
「むぅ。あとで団長に聞いてみます」
「今日の迷える大羊は困ったものです」


_______________

 <帝国の前線基地>

「今帰ったぞー!」
「中佐か! 待ちくたびれたぞ」

 無精髭の男が帰ってくると、大柄な女性が出迎えた。

「やや。大佐の方が早かったようですな。お土産の蜜です」

 そういって大きめの壺を渡す。

「ありがとう。後でみんなで食すとしよう。厨房に持って行ってくれ」

 そう言うと、近くにいた兵士が壺を運んで行った。
 木のコップに安酒を入れて男に渡す。

「先に報告を聞こう」

 そういって女性が向き直る。

「特別変わりはありませんな。王国の貴族が何人か足掻いてましたが、見苦しいのは何人か斬ってきました。今思い出しても、ゴミばかりでしたな」
「そうだろうな。前々からこの国の貴族は、我が身ばかりだった。何人か使えそうなのも居た気がするが、早めに去ったようだな。分を弁えた無能なら使えるのだが」
「分を弁えていたら残ってないでしょうな。そういえば、蜜を買った村にサンダール家の者が居ましたぞ。斬りましたがね」
「無責任勇者の親類か。あれもそれなりに強くなってるのだろう? 殺《や》り合ったら面白いだろうか?」

 そう言うと、中佐は苦笑する。

「ご冗談を。つい先日を4体目のオーガを倒して喜んでたそうですぞ? その程度なら雑魚と一緒に轢き潰されて終わりですな」
「まぁ、そうだな。細かい報告は書面で書いてくれ」

「私からも報告がある。ニールセンで戦技を使う者達がいた」
「ぶふっ! あぁ。汚れちまった。何の冗談ですか?」
「冗談ではない。人族とドワーフ族の男2人が使ってるのがわかった」
「そいつぁ問題ですな」
「そうだな。だが、今回は見逃すことにした」
「良いんですかい?」
「エリン殿のお気に入りと言われてしまってな」

 大佐が領事館での話をする。

「するってぇと、そいつは記憶喪失なんですかい?」
「いや。ダイン殿の話だと半分ボケだと言っていた」
「ん? でも若いんですよね?」
「中佐も知ってるだろう。ここの上司にも見た目だけ若い化け物がいるのを」

 中佐は下を向いて数秒うんうん唸っていたが、ハッとして顔をあげる。

「中将のことですかい?」
「思い出したようで何より」
「てことは、そいつも長生きなんですかね?」
「ダイン殿がそうだろうと言っていた。そいつの情報は、ニールセン経由で知らせてくれるらしいので、我が国としては放置だな」
「はぁ、お上が良いなら何も言いませんが……」
「良いじゃ無いか? 特別何かするわけでも無い。それより、新しい情報が待ち遠しいぞ! 我が国の戦技と違う系譜だと面白いな!」

 それを聞いて、中佐は両手を広げる。

「やれやれ、珍しい技に目が無いんだから」
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