上 下
62 / 165
4章 国の波乱

第61話 ニールセンの変化

しおりを挟む
 俺たちは、翌朝早めに動き出した。
 日が上る前に準備を済ませ、日の出とともに出発する。
 昨日言ったから挨拶も良いかな?
 なんて考えていたんだが、見送りに待ってたらしい。

「早く出るって、分かってたにゃ!」

 イアさん達もミーア達も、森の前で待ってたようだ。

「そんなに気を使わなくても良いのにさ」

 ちょっと恥ずかしいな。
 とか考えていたんだが……。

「そんなことより、ベンに伝言お願いします」

 そんなことは無かった。

「オーインから?」
「ミーアからでも、どっちでも良いですよ。一度戻って来て欲しいってだけですから」
「それくらいなら受けても良いよ」
「じゃあ、お願いします」

 その後の別れもさっぱりしていた。
 イアさんなんて、「そのうち戻ってくるのじゃろ。はよ行け」
 なんて言う始末だ。



 いざ、と出発したが、2日目も午前中には着いてしまった。
 オスクのおかげで、移動が早くて助かるな。

「次のやつ、前へ」

 門番に呼ばれてギルド証を確認してもらう。
 この人見たことある気がするなぁ。

「ノール? 久しぶりだなぁ」
「あ、やっぱり知ってる門番さんだったか」
「お前が初めて街に来た時もオレだったんだよ」
「なるほど、よく覚えてましたね」
「名前だけな。発音が面白かったから印象に残ってるんだ」

 そう言いつつも門番さんはギルド証の確認を続けている。
 心なしか、周りの人のチェックも厳しくなってるか?

「よし。入って良いぞ。街は雰囲気変わってるけど、お前は大丈夫だろう」

 意外と早かったと思ってると、横から暴言が聞こえてきた。

「オレらはこんなに時間かかってるのに、なんであいつは早えんだよ!!」

 俺を指で指して怒っている。
 そっちの門番も俺を見て、

「んー? あまり見かけない奴だけど……。そっちの早かったようだけど、大丈夫かぁ?」

 こっちの門番に声かける。

「こいつはこの街の探索者だから良いんだよー!こいつが草取りだから覚えとけよー」
「そいつがかー。わかった。ということだから、問題なし。お前のチェックは続けるぞ」

「あいつ最近来たから、お前のこと知らないんだよ。出入りするなら早めに覚えてもらうと良いぞ」
「はぁ、わかりました。では失礼します」

 軽くお辞儀して進む。

「おっと、言い忘れてた!」

 去り際に話しかけられる。

「ようこそ。『ニールセンしょうこく』へ」

 自慢げに言ってニヤリと笑っている。

「しょうこく? まぁいっか」

 何をするにしても、2匹を一度厩舎に預けないとね。
 オスクなんて屋台引っ張っているし。

「厩舎に行くよ」
 プルプル。
 くわっ。

 ここの厩舎は変わりないようだ。
 そこで見知った顔を見つけた。

「キールさん! 久しぶり!」
「1年ぶりですかな? お元気そうでなにより。そっちも元気かい?」
 プルプル!
「そちらはお初ですかな? キール爺と呼んでくださいな」
 くわっ!

「こいつはオスクって名前です」
「オスク君、よろしく。ちょっと前に魔鴨連れた子達が来たから、仲良くなれると良いねぇ」

 ベン達の子かな?
 見回してもいないから、今は仕事中かな?

「2匹ともお願いできますか?」
「構わんよぉ。カエデちゃんも会いたがってたから、喜ぶね」

 カエデともしばらく会ってないなぁ。
 その前にやることやっとくか。

「じゃあ用事があるので行ってきます。明日には一回顔見せに来るからね」
 プルプルプル。
 くわっく!



 大通りに出ると、懐かしい街並みが……。
 ちょっと違うなぁ。
 前はもっと若々しい感じだったけど、レトロ感が増した?


 散策しようかと考えていると、ノーリに出会《でくわ》した。

「ノール! やっと来おったか! すぐにダイン様の所に行くぞ!」
「わわ! そんな急かさなくても……」
「ずいぶんと待っとったんじゃ! それに後にすると、お主は忘れるからの」

 腕を引っ張って、いつもの場所へ向かう。
 と思ってたんだが、違った。
 見慣れていたんだけど、縁が無かった門。

「ここって上街じゃない? ダインさん上街にいるの?」
「そうじゃ。ダイン様は、今やこの国の上役になったからの」
「え? そんなにお偉いさんなの? また今度に……」
「そんなわけ行くか! ほれ! はよう歩け!」

 門まで行くと衛兵に止められる。

「身分証を見せてください」

 全身甲冑の門兵に声をかけられた。

「ほれ」
「はい」

 2人して見せると通してくれた。

「そっか、俺中級になったんだっけ」
「やっとか。儂とトーマスはあの後すぐ昇格したぞ」
「えぇ? 早いなぁ。俺なんてつい最近だよ?」
「お主のは級で考えても意味無いからのぅ。それより行くぞ」

 急かされて着いたのは、落ち着いた雰囲気の大きな館だ。


 中に入ると、大きなエントランスがある。

「ノーリ殿。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付にいた執事服を着た男が、俺たちを見つけると声をかけてくる。

「ダイン様に頼まれてな。こいつが来たら会わせに来いとな」
「どうも7級探索者のノールです」
「確認させて来ますので、あちらのソファでお寛ぎください」

 壁際にある毛皮が掛かったソファに案内された。

「ダインさんって、親方じゃなかったの?」
「親方も兼ねておる。役人になったのは、人手不足じゃな」
「大変だねぇ」

 10分程軽く旅先の話をしていると、今度は上質な服の青年に声をかけられる。

「お待たせしました。ダイン様のところへ案内します」

 そう言ってゆっくりと歩き出した。
 その後を着いていくと、部屋がいくつもある。
 部屋に出入りする人達を見ると、種族はバラバラなようだ。

「改めて思うけど、この街は亜人種が多いよね」
「亜人にとって、住みやすいからなぁ」
「それでも獣族は少なめだけどね」
「今まではな。これからは入りやすくなるぞ」

 そんな話をしていると着いたようだ。

「ダイン様、ノール様を案内してきました」
「入ってくれ」
「どうぞ」

 青年が扉を開けてくれる。

「失礼しまーす」

 ダインさんは仕事机を前に座っており、いかにも役人のようなビシっとした服を着ていた。

「久しぶりじゃな。というかお前に連絡するのは苦労したぞ」
「はぁ、それはご迷惑?おかけしました」
「それはもういいわい。それより……どこじゃったか」

 机の横にあった箱を、ガサゴソと探り出し、1枚のカードを取り出した。

「これじゃ! ほれ!」

 そう言って、俺に放り投げてくる。

「ちょ! おっと。金属製?」

 ピカピカ光っているが、魔力がありそうだ。

「この国の通行許可証じゃ」
「ほぅ? 許可証?」

 獣王国に行くと知ってたのかな?

「ダイン様。こいつわかっとらんぞ?」
「だろうな。門で言われなかったのか? ここは『ニールセン小国』じゃと」
「言われましたよ? いつの間にか微妙に名前が変わってるなと」

 そう俺が言うと、2人してため息をつく。

「良いか? ニールセンはスーメルグ王国から独立したんじゃ! 国に変わったこともあって、やることが増えた。だから儂が役人までやっとるんじゃ」
「え? ここの国になったの? 出世したってことかな?おめでとうございます」

「全くめでたくない! 王国が滅ぶから仕方なくじゃ! とりあえず、帝国と聖教国に使者を送って認めさせた。それが3ヶ月前くらいか」
「へぇ。じゃあ王国全体がニールセンになるんですか?」
「いや、ニールセン周辺だけじゃな。帝国も聖教国も新たな土地が欲しいから、奪うまで止められんのじゃ。ちなみにブルーメンも半独立国じゃな。あそこを狙っても、うま味が少ないからのぉ」

 この国は、◺二等辺三角形をしており、90度が左下。
 その90度端っこにブルーメン。
 その上にニールセンがある。
 端っこ2つの都市程度が残っていても、気にならないのだろう。
 南の山側や西の海側には、魔物が多く住みづらくなっている。

「ニールセンには儂らの長命会があるからの。それなりに顔は広いんじゃ。攻めても消費がデカイから、うまく使った方が得だと思ったんじゃろ」
「なるほどねー」
「ダイン様だけじゃなく、他の方々も何かしらの役職についておる。おかげで儂も使いっ走りで大忙しじゃわい」
「悪りぃとは思うが、もうちょっとだけ手伝ってくれい。もうすぐ、2国から返礼の使者が来る。それまでは仮だからのう」


 話を続けていたら、突然ノックされる。

「誰じゃ? まだ、前の客がおるが」
「失礼します。帝国から伝令がきました」
「早いのう。待たせられるか?」
「それが、もう……」

 そう言いかけた所で『ズバン!』と扉が勢いよく開く。

「ノール。こっちじゃ」

 ノーリに壁際へ引っ張られ、床に座らされる。



「ダイン殿! いきなりですまんな! だが、私は待つのが嫌いなんだ。はっはっは!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく
ファンタジー
 「毒無効」と聞いて、強い能力を思い浮かべる人はまずいないだろう。  それどころか、そんな能力は必要のないと考え、たとえ存在しても顧みられないような、そんな最弱能力と認識されているのではないか。  そんな能力を神から授けられてしまったアラン・ブレイクはその栄光の人生が一転、挫折へと転がり落ちてしまう。  ここは「ギフト」と呼ばれる特別な能力が、誰にでも授けられる世界。  そんな世界で衆目の下、そのような最弱能力を授けられてしまったアランは、周りから一気に手の平を返され、貴族としての存在すらも抹消されてしまう。  そんな絶望に耐えきれなくなった彼は姿を消し、人里離れた奥地で一人引きこもっていた。  そして彼は自分の殻に閉じこもり、自堕落な生活を送る。  そんな彼に、外の世界の情報など入ってくる訳もない。  だから、知らなかったのだ。  世界がある日を境に変わってしまったことを。  これは変わってしまった世界で最強の能力となった「毒無効」を武器に、かつて自分を見限り捨て去った者達へと復讐するアラン・ブレイクの物語。  この作品は「小説家になろう」様にも投降されています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ワタシ悪役令嬢、いま無人島にいるの。……と思ったけどチート王子住んでた。

ぷり
ファンタジー
私の名前はアナスタシア。公爵令嬢でいわゆる悪役令嬢という役回りで異世界転生した。 ――その日、我が学園の卒業パーティーは、豪華客船にて行われていた。 ――ですが。  もうこの時点でお察しですよね。ええもう、沈みましたとも。  沈む直前、ここにいるヒロイン、クソ王子withその他攻略対象の皆さんに私は船上で婚約破棄イベントで断罪されていた。 その最中にタコの魔物に襲われて。これ乙女ゲームですよね? そして気がつけば見知らぬ無人島。  私はそこで一人の青年に出会うのです。 ネタバレすると10年前に行方不明になった第一王子だったんですけどね!!  ※※※  15Rですが品がない方面に舵を切ってますので、何でも許せる方向け予定です。  下品系が許せない方はご注意ください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...