サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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3章 国内小旅行。

第48話 探索者ギルドの一幕

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 俺は、探索者ギルドで待っている。
 昨日は結局現れなかったので、薬草を納品した後、目立たないようにしながらギルド内の人間模様を観察していた。
 さすが王都と言える。
 立派な鎧や武器、禍々しかったり、光放っている装備をまとってる人も見られる。

「かかって来いよ! 怖いのか?」
「武器なんか必要ねぇ!」

 大きい分喧嘩も絶えないが、じゃれあい程度で大怪我などさせないルールでもあるのだろう。
 様式美というやつだろうか。

 今日もそんな光景を見つつ、面白そうな依頼が無いか探す。
 探すだけで受けないんだけどね。
 すると、扉が開いて傷ついた血塗れの少女が現れた。

「助けてください! 東北の林に……、はぐれオーガが現れたんです! 仲間がやられちゃう!」

 ざわざわ
(オーガだってよ。)
(お前ら倒せるか? 俺は無理だ。)

 しばらくザワついてるが、誰も返事しない。

「たすけて……。少ないけどお金ならあります。金1……」
「悪いが命懸けになるとその程度じゃ受けられん。もっと強い奴に頼むとそれ位は端金《はしたがね》だしなぁ」

 申し訳なさそうに筋肉質のおっさんが答える。

「そんな…」

 少女も泣き出してしまう。

 そんな時、よく通る声で話し出す少年がいた。

「ここは弱虫共の集まりか!? 強者は弱者を助けるべきだ! 俺は行くぞ!」
「お前、この前8級になった奴じゃねーか? 最低でも6級は必要だぞ!」

 周りが野次りだす。

「ふん! まだ階級は低いかもしれないが、トロルを倒したことがある。俺は力ある者として責任をはたす!」

(トロルだって!? ウソじゃないか?)
(聞いたことがある。ギルド入りたてで、トロルを倒した奴がいるって。)
(有望株ね!?)
(良い尻をしている。)

「ちょっと! 同じパーティーなんだから勝手に決めないでよ!」

 元気な少女が言い出す。

「僕にも相談してから決めてくださいよ」

 今度は、利発そうな少年。

 短い間に軽くやりとりしていたが、結局助けることになっていた。
 見届け人として筋肉質のおっさんパーティーが付いていくことになる。
 他にも野次馬達を連れ立っての出立。
 泣いていた少女もこれには喜んでいた。

 俺が遠巻きにそれを眺めていると話しかけられる。

「すごい頷いてるけど、君は行かないの?」

 声の方を向くと、このギルドで最初に会った金髪イケメン案内冒険者がいた。

(あいつは『鉄切り』じゃないか?)
(上級がなんでここにいるんだ!?)
(奴は時々暇つぶしに下へ降りてくるんだよ。)
(俺は初めて見たぞ。)

「ええ。私はただの8級ですからね。邪魔しないことが仕事です!」

 俺は勘違いしない!
 地味な訓練と日々の積み重ねでやっと成長できるタイプなのだ。
 そして、先程の話の流れから感じていた。

「助けを求めた彼女も、彼のような勇者がいることを知っていて、ここに来たのでしょう」
「へぇ。それはなんでだ?」

 ニヤつく金髪イケメン。

「東から来たのでしょ? ここに来るより、東門に近い門番と傭兵に助けてもらったほうが早いですよ」
「ははは! 確かにその通りだ!」
「力ある彼は、弱者を助ける責任があるようです。私も何かあれば彼を頼るとしましょう。そういえば……責任勇者君の名前知らないな……」

(責任勇者だと!?)
(これは二つ名案件だな……。)
(いや待て、焦るんじゃない。オーガ討伐を聞いてからだ!)
(こいつも二つ名連盟へ加入を……)
(一つだけじゃ足りんぞ? 最低3つ作ってもらわなければ。)

 俺の背後でもザワつきがある。
 ここの人たちは忙しい。
 日夜、情報収集を怠らず依頼の為に頑張るのだ。
 さすがは王都の探索者。

「ははっ! じゃあ、弱者の俺も彼に助けてもらおう!」

 何言ってんだこの男は?

(上級が弱者って何の冗談だよ?)
(鉄切りが弱者ならほとんど弱者だよな。)
(昨日博打で負けてさ、金銭弱者の俺も助けてくれるかな?)
(((無理だろ。)))

 そこで見知った顔が見えた。

「待たせたなぁ。草取りノールぅ」
「良い暇つぶしがありましたので……。というかその呼び方ここまで来てるんですか? 恥ずかしい」
「ほとんど採取だけで昇格する奴は珍しいのよぅ。ところで……鉄切りが下級に何の用だぁ?」

 バートは俺の横を睨む。

「何って彼と面白い演劇を見てたのさっ」

 鉄切りが大袈裟に両腕を開いてアピールしている。

「演劇かわかりませんが、話の種はありますよ。その話は行きがけにしましょうか?」

 俺は空気を読める男。
 バートさんは金髪イケメンと仲が良く無いようだ。

「そうだなぁ。向こうで俺のパーティーメンバーが待ってるぞぉ」

 指さした方のテーブルには数人が固まる。

「では鉄切りさん。失礼します」

 お辞儀しておく。

「またねー」



「待たせたなぁ。こいつが例の草取りノールだぁ」
「よろしく! よろしく! わたしはチコ!」

 元気な犬人の女性。

「ゲイルだ。よろしく。こいつの兄でもある。俺とチコ、狩人と軽戦士どっちも出来る」

 チコの頭を撫でている。

「私はベス。魔術師でやってるわ。一応これもね」

 人族のベスは金属の棒を見せてくれた。
 棒術仲間とは珍しい。

「ノールです。採取が得意で、棒術も少し嗜《たしな》んでます。あと従魔が2体います。よろしくお願いします」
「俺らのパーティーは『ファング』だ。よろしくぅ」

 みんなが牙を見せてくれた。
 他の人はわかるが、ベスさんは八重歯が鋭いのね。

「みんな鋭いからこれで良いってね」

 ベスさんも笑っている。

「今日は南西の遺跡だぁ。探索に3日は掛かるが良いかぁ?」

 俺は野営に慣れてるので問題ないと伝えると、すぐに出発した。

 ファングも従魔を育てていた。
 見せてもらったが、ほぼ馬に見える。
 魔馬と言って、一緒に探索していたら、馬から魔物へ進化したらしい。
 食費も減って、足も力も強化されたので重宝しているとか。
 それでもオスクの方が早いんだがな。
 騎乗していた為、移動が速く、遺跡前の森までは1時間程で到着した。

「ここから魔物が出てくるんだぁ。ここで従魔を離しておくと勝手に逃げて、帰りに来てくれるぅ」

 従魔が襲われない対策らしい。

 メサとオスクも仲良くなったみたいで、互いに毛繕いしている。
 いや、メサは浮いてるだけか。
 2匹に魔馬達と行動するように言って、ファングと森に入っていく。
 毎度のことだけれど、初めて入る森はワクワクするね。

 _______________

 ところ変わって、東北の林。
 辺りには血の臭いが漂っており、人体のパーツと思われる物体が転がっている。

「まったく、ひどい有様だぜ」
「向こうに大きな影があるぞ。あれか!?」

 そこに立つのは、筋肉おっさんと件《くだん》の勇ましき少年こと、アレク。

「ちょっと待ってね。間違い無いね」

 片目に指で輪っかを作り、話しだした利発な少年、マーリン。

「襲われてるわよ! 早く!」

 元気な少女、ローズ。
 その未熟な体からは想像出来ない速さで駆け抜けていく。
 アレクは接敵するとすぐさま奇襲を仕掛け、オーガに傷を作っていく。

「腕、次は足だ!」

 マーリンは詠唱し、氷の刃を放つ。

「凍える刃を穿て!」

「ガァァァァ」オーガも咆哮を上げつつ、腹に刺さる氷を抜いて応戦する。
 オーガは徐々に傷ついているが、治癒力も高い。
 傷口から煙を出し、少しずつ修復している。
 戦い始めてから数分経つが、なかなか状況は変わらない。

「くっ。このままじゃジリ貧だ。大技やるぞ! ローズも援護を頼む!」
「わかってるわよ!」

 ギリギリと弦を引き絞り

「視界を塞げ。ブラインドフォグ!」

 マーリンも魔法で牽制する。
 その間にアレクが魔力を溜め、スキルの準備をする。
 ローズが強烈な1矢を放つと、吸い込まれるように左目に刺さった。
「ギャァァ」悲鳴をあげるオーガに間髪入れず、アレクは飛びかかる。

「おぉぉぉぉ!」

 身の丈3mを超えるオーガより高く、飛んだ勢いをそのままに、光り輝く長剣が振り下ろされた。
 ゴトリと大きな音を立ててオーガの頭が転がり落ちる。

「倒したぞおおおおお!」
「「「「おおおおおお!」」」」

 野次馬達も声をあげる。

「あぁ。これで殺された仲間も浮かばれますぅ……。あなたは私の勇者です。」

 涙を流してよろこぶ少女。
 するとどこからか神官と煌びやかな服を着た貴族が駆けつけてきた。

「なんと。倒されている! どなたが倒された?」

 周りがアレクに視線を向ける。

「我が教会共も駆けつけたが遅かったようだ。代わりに倒してくれてありがとう」

 何かを見つけた貴族が話し出した。

「お前は見たことあるな。サンダール家の小倅だったと思うが?」
「伯爵様お久しぶりです。サンダール家の3男アレクです」
「立派になったな。そうかこれはお前が、詳しい話は屋敷で聞こう。手伝ってくれた者達ありがとう。アレクの仲間も来なさい」

 両手を合わせている神官が申し出た。

「あとは我が信徒達で供養いたします」
「よろしく頼む」

 伯爵が言うと、アレク共々野次馬含めて王都へ戻って行った。

 
 ほとんどの者達が去った後、数人だけが残っている。

「信徒の娘よ。良くやった」
「いえいえ、司教様のおかげです。新しき勇者が見つかり心よりお喜び申し上げます」
「ふん。無駄な賊も減って手間が省けたわ。私は王都でひと仕事ある。あとの片付けは任せた」

 吐き捨てるように言うと、司教と呼ばれた男は王都へ戻っていく。



「神人教も大変だねぇ。本国が変に暴れるから尻拭いやら噂の払拭やら……。そろそろ潮時かなぁ」

 去り際に投げられた巾着を開く。

「しけてやがる! 今日の取り分はこんだけだよ!」

 中を一掴みして、残りを放り投げる。

「どんだけー?」
「こんだけー?」
「そんだけー」

 わらわらと小汚い子供達が集まって、報酬の巾着を覗き込む。

「これじゃ麦も食えねぇ」
「最近になって出回りはじめた芋が安いらしいぞ」
「それ食ってみるか」

 みんな飯の算段をしているが、少女だけは違うことを考えていた。

「最近報酬も減ってるし、このままじゃ、どん詰まりだな。別の仕事を探そう」

 呟くと1人足早に王都へ戻って行く。
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