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2章 不老者、浮浪者になりました。

第34話 探索者生活7

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 あれから数日後

 やっとこノールは新しい棒を用意できた。マーカスに教えてもらった武器店に行くと、棒は店頭に無く、オーダーメイドになってしまう。
 いざ素材選びを始めると、見たこともない木が多く迷ってしまった。選んだのは店主のおすすめのトレント材。モンスター製の木材で名前の通りトレントという木の魔物から取れる。俺はいままで見たこと無かった。それに、今度は本物の魔鉄のキャップを装着。
 ついでに防水のブーツは、例のカエル製。レイクフロッグというらしい。
 棒で金1大銀2枚、ブーツが大銀3枚。今回の出費で有り金が無くなったな。予備の服も欲しいので、少し金策したいな。

 下水探索の準備が出来たので、いざ出発。

「入る前に、ちゃんと準備体操しないとな」

 俺は準備を怠らない男だ。

「いつまで体操してんだよ。日が暮れるぞ?」

 またこの番兵めが! 行くとも!

 下水の中に入ると前と変わらない様子。
 探索者は入ってるはずだが、なかなか減らないようだ。
 中に進むとまた多くの反応がある。
 しかし今回のメサは成長したのだ。
 畑仕事で覚えた魔力の調整で、大きさから威力まで性能アップ!

「奥から来るぞ! 気をつけろ!」

 3体の魔ネズミが走ってくるが、慌てることなく対処。
 触手を振り回し全て捕獲する。

 今度はビッグローチの反応。

「虫が上2。右3」

 水の玉を作り出し、玉から小さな水の弾丸を飛ばして倒していく。

「本当に上手くなったな。ニンニクの初卸しは多めにしてやろう」

 褒めると舞い出す。ぷるぷる

 順調に進んでいくと、時折密集した卵を見つける。
 これは虫のヤツだろうかと潰していく。
 いくつかの分岐を進みつつ倒していくが、奥からどんどん敵が出てくる。
 ようやく最奥まで来たかと思うと、今度は逆からやってくる。
 一旦数は減るものの奥からも手前からもと、見逃しはしていないはずなんだがな。
 一度ギルドで情報収集したほうが良いな。

 昼前に戻り、体を清めてギルドへ向かう。
 良かった。セルジオさんは戻ってるようだ。

「お久しぶりです。もう戻ってたんですね」
「ノールさん。急な不在失礼致しました。それと、代わりの受付が迷惑をかけたようですみません」

 相変わらずの落ち着いた対応。
 安心するなと思ってると、息つかず話を続けてくる。

「あの受付ですが、現在は謹慎させております。不適切な対応と不快な思いをさせたことに再びの謝罪をします」

 セルジオさんの謝罪に俺もビックリしたが、周りの驚きのほうが上まっていた。
 そこかしこから聞こえる。

(あの育て屋が!?)
(謝ったのか!)
(謝らせた数しれず)
(初めて謝った!?)


「いえ! 大丈夫ですよ! 彼女は親切で店を教えてくれたんでしょうし」
「彼女も事実を知らなかったようですので、そう言っていただけると助かります。それと、店で脅したバルサは彼女の担当でして。先日付で犯罪の現行犯で逮捕され、ギルド証の剥奪と犯罪奴隷となりました。該当の店については、犯罪組織との繋がりが認められ、こちらも犯罪奴隷になり資産没収となります。申請頂ければ、後日衛兵所より被害の補填が可能と思います。いかがですか?」

 話は分かったが、内容が多くて目眩がする。

「アッハイ。こんど行きます」
「では、こちらからも話を通しておきます。さて、業務の話に戻りましょうか」

 素早い問題解決で良いことですが、なかなか頭が追いつきません。
 ゆっくりと説明しつつ、下水のことを伝えていくと、ギルドも同様の話を伺っているようだ。

 ここでセルジオさんから臨時パーティーの打診があった。昇級の時に一緒だった、トーマスとノーリとの探索だ。元々2人からの打診はあったようだが、セルジオさんもおらず、俺も受付には来てなかったからな。
 2人がいれば探索に集中できるだろうという話だ。元凶の予想がつけば、出せるパーティー総出で対応するという。俺も特に問題は無いので受けることにした。
 午後にくるので、そこで打ち合わせ、活動は明日からになるだろう。
 小屋に戻り装備を身軽にしてくる。



「久しぶりじゃの。何やら大変だったと聞いとったが、その顔なら大丈夫みたいじゃ」

 髭モジャの見慣れた顔だ。

「やぁ。ほんと……ゴタゴタが多くて困ったさ。トーマスはまだ来てないの?」
「そろそろ来るかと思うが……」

 空いた時間で近況を伝える。ノーリも知り合いに頼まれごとをしていたらしい。大変では無いが、時間だけはかなり掛かったと言っていたので、お互い忙しかったんだな。

「待たせたみたいだね」

 待っていた偉丈夫な男が来たようだ。

「久しぶり。変わらず元気みたいだね」

 挨拶も軽く済ませ、下水の話をする。
 下水路の奥まで行ったが、魔物がどこかから延々と襲ってくる。2人もすでに下水を見ているらしいが、同じようだった。
 お互いの情報をすり合わせていると、全通路は他の探索者が調査済みとわかる。外からは番兵がいるから無いとすると、中に抜け道がある。少し面倒だが、隠れている何かを見つけないとダメだな。

 そんな話の中で、トーマスが探索のやり方を教えて欲しいと言ってきた。
 俺も誰かに教えたことは無いので、勉強になるかな?
 それも踏まえて伝えると、それでも良いという。ノーリも乗っかってきた。
 とりあえず明日の探索で教えてみようか。
 金の話になったが、知識の方が嬉しいと返すと、ノーリが大きく頷いていた。
 やっぱり俺は世間知らずなんだろうな。

「それにしても、探索なんて覚えなくても良いんじゃ無いか? 戦闘はうまいだろ」
「少し先の話になるが、王都の騎士団試験を受けようと思ってな。騎士となると調査技術も必要だからな」
「ノールは儂が知る中でも探索技術上位じゃ。お前も見る目があるのう」
「そこまでとは思ってなかったけどな。素人よりかは知ってる自信ある」

 ニヤリと自信ありげに言ってみる。

 騎士団の話を詳しく聞いてみた。騎士団の仕事は、華々しく戦闘しているように見えるが、ほとんど調査と探索。あとは緊急時の防衛や魔物の駆除が主となっている。意外と地味な役割が多いんだが、守りに力を入れている騎士団がカッコいいそうだ。その考え方には大いに共感できるので、微力ながら応援させてもらおう。

 ノーリが探索を覚えたいのは、先程の頼まれごとが原因だと言う。頼まれごとで街の外に1人で行ったが、何度か魔物から奇襲を受けてしまった。相手が弱かったから良かったが、多少探索を知ってれば、少し安全になるかと思ったらしい。

 他にもお互いのことを話している時、メサの話になった。

「そういえば珍しい魔物を使役したんだってな」
「いや、その魔物自体は珍しくは無いんだ。使役されたことが無かったみたいだけどね」
「十分珍しいさ。明日見せてくれるんだろ?」
「儂も見てみたいぞ」
「ちゃんと連れてくるよ。でもアイツは調子に乗りやすいからな……。あんまり褒めないでくれよ?」

 俺の言葉が気になったのか、2人がピクリと反応する。

「調子に乗るって、かなり知能が高いんじゃないか?」
「子供の頃爺さんから、特殊な使役を行った個体の話を聞いたことがある。そいつは使役主の主従関係では無く、友好関係を築いていたらしいんじゃ」
「そう言われてもわかんないよ。一応命令は聞いてくれるけどさ……。あっ」

 そこでふと思い出す。今日までメサの餌の依頼を頼んでいたんだ。
 帰りに依頼を止めないとな。

「どうした?」
「いや。メサの餌を依頼に出してたんだけど、止めておかないとと思ってね」
「それなら今日は解散しようかの。明日は朝に現地集合じゃな」

 ノーリがそう言ってお開きとなった。
 セルジオさんに餌の依頼を止めてもらって、持てる分だけ餌を貰っておこうかな。
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